表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/290

魂と新聞

 昔の話、まだ新聞がどこの家庭でも読まれていた頃の話、周防さんの家庭でもやはり新聞を取っていたそうだ。しかし彼は一人暮らしを始めてから一度も新聞を読んだことがないらしい。もちろんその頃はまだ新聞を取るのが当たり前だった時代からの話だ。


「いやあ、俺も昔は新聞のテレビ欄と四コマ目的で読んでたんですよね。それが小学校に上がって漢字が読めるようになってから新聞の記事も読むようになったんですよ」


 彼も昔は新聞を読んでいたそうだ。しかしあるとき不気味なことが起きたそうだ。


 その日、朝早くに目が覚めたんですがね、新聞のバイクの音で目が覚めたんですよ。まあ当時はまだバイクの音量規制も緩かったですしね。それでもあんなにうるさいと思ったことは無かったんですよ。今でも何故あの時だけ目が覚めたのかは分からないんですよ。


 新聞が届いたということはもうそれなりに朝になっているということだ。二度寝しようかとも思ったが、新聞も届いたようだし先に読もうかなと郵便受けに取りに行ったそうだ。


「その日の新聞は何故か薄かったんですよね、当時は大量に広告も入っていたはずなのですが、その新聞には折り込みチラシも無かったんですよ。奇妙に思いながらもそれをストーブの前で読むことにしたんです」


 そしてその新聞に載っていた記事なんですがね、地方紙なので割と身近なニュースが載っていたんですよ。ただ、その記事は私のことについて書かれていたんです。


『○○町で小学生が行方不明』というタイトルでしたね。それを読んでみたのですが、行方不明になっている小学生の名前が俺のものとまったく一緒だったんですよ。変な偶然かなと思ったんですが、内容を読んでみると俺の特徴とまったく変わらないんですよ。


 その奇妙な記事を見た後で、突然周防さんは意識を失った。意識を失う寸前、新聞がストーブに乗ってしまい、『火事になる!』と思ったが体が動かなかったそうだ。


 そうして数日後、彼は病院で目を覚ますことになった。火傷などはまったくしておらず、一酸化炭素中毒だったと後から聞いた。


「両親に泣かれましたよ、密閉された部屋でストーブを使うなと怒られました。それで当時はまだ珍しかったエアコンが家に付いたんですよ。でもどうしても納得いかないことがあるんです」


 彼の話によると、ストーブで火が付かなかったのか気になったのだが、意識を失っていた部屋で何かが燃えたような後は一切無かったそうだ。未だに不思議に思っているそうだが、あの新聞がなんだったかは分からない。そして周防さんは落ち着いてから両親に尋ねてみた。


「新聞はどうなったの? 燃えてなかった?」


 自分が新聞を読んでいて急に意識が無くなったと話したのだが、その場に新聞は無かったし、彼が倒れた音で目覚めた両親が病院に運んでから、帰ってきた時に郵便受けに新聞があるのを見ていた。つまりアレはいつも読んでいる新聞では無かったらしい。


「それでですね、俺も頭が悪いなりに考えたんですが、あの『行方不明』という言葉の意味は、『俺の意識が』という意味だったのではないかと思っているんです。実際意識が飛んでいますからね。ただ、だとしたらあの新聞が一体なんだったのかはさっぱり分からないんですよね。薄さやチラシが入っていなかったことからして正規のものではないのでしょうが、あの手触りと活字は間違いなく新聞のものでしたね」


 そうして不気味なままその新聞のことは忘れることにした。しかし彼は未だに新聞を取っていないそうだし、この先も読むことはないだろうと語っている。


「活字アレルギーになったのは不便ですね。ネットの記事でさえ『死亡』という文字が見えると出来るだけそれを読み飛ばしていますから。アレが警告だったのか脅しだったのか、あるいは未来の事を書いていたのかは分かりませんが、とにかく二度と関わりたくないですね」


 それだけ言って話は終わった。彼は出来るだけ文字を読まなくて済みそうだという理由で肉体労働を始めたが、結構なドキュメントや手順書があってそれを読む度に心が怯えると言う。彼は最後に『何か文字を読まなくて済む仕事ってないですかね?』と言っていた。


 その話を聞いたのは大手ハンバーガーチェーンだったが、私がケチったのではなく、彼が、『ここならメニューを覚えておけば全国どこでも文字を読まずに注文が出来ますからね、便利なんですよ』と言ったからだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ