あなたは無理
Sさんは大学生をしていた頃、一人の気になる子がいた。彼女と出会ったのは合コンであり、その時にひと目ぼれをしたのだが、彼女に話しかけられると露骨に避けられているようだった。
自分がモテるタイプか知っている彼はそうそうに諦めたそうだが、翌日、合コンを組んでくれた友人から連絡が入った。
『お前、○○行ってこい』
いきなりそんなメッセージが届いて驚いたそれは県内有数の神社であり、遠すぎるということはないが、それでも気軽に行ける場所ではなかった。
そのため何度か理由を聞いたのだが、友人はなかなか理由を教えてくれない。メッセージでは埒が開かないので大学を出たところで電話をかけた。
その話は彼にとって理不尽なものだった。『お前が気にかけてた子さ、見えるんだよ。でさ、お前にはなんかヤバいものが憑いているから近づきたくないって言ってたんだわ。悪いけどお祓い受けてもらうまで参加はさせられないよ』と言われてしまった。
なにが見えると? そんなものが俺に憑いているのか? そんなことを考えながら思い当たることはないのを確認した。おかしいな、何かした覚えも無いのだが、一体何があったのだろう?
そんなことを言っていてもキリがない。○○に行けば解決するならそれでいい。そう思って彼は電車に乗って小一時間のところにある神社に行った。そこの鳥居をくぐると、なんだか体が少し軽くなったような気がした。
そのままどこに行けばお祓いなんて受けられるのかと境内で迷っていると、それを見た神主が話しかけてきた。
「お祓いでしょうか? なかなか立派なものが憑いていますね」
「分かるんですか?」
「ええ、これでも本職ですから」
そういう神主さんに謝礼を渡しお祓いを受けた。一通りのお祓いを受けてから、何が憑いていたのか訊ねた。
「あれは戦時中に亡くなった軍人さんですな。このあたりが故郷だったようで、祓ってしまえば自分から先祖の墓へ行かれましたよ」
そう聞いて一安心した。これでもう大丈夫、そう思っていたら神主さんが一息置いて話を続けた。
「しかしえらいものを憑けていましたね、普通ならもうとっくに命はなかったでしょうが、あなたのご先祖が必死に守っていました。今すぐとは言いませんが感謝と供養をしっかりしてあげてください」
どうも自分の状態は話以上にヤバかったらしい。そう考えた彼は、連休に忙しいのを承知で故郷に帰り墓参りをし、仏壇に線香を上げてとんぼ返りした。以降、あの時のような反応をされることも無くなり、現在では婚約者もいるそうだ。
彼は『私の守護霊ですがね、子供が出来たらそちらに移ってもらいたいですよ、私はもう十分守ってもらいましたからね』と言い、話を終えた。