廃寺で肝試し
あれは夏の暑い頃でしたね。中学生だった頃です、田舎に住んでいましてね、暑い中娯楽もないということで誰ともなく肝試しに行こうという話になったんです。
AさんがB、Cの三人で近所の廃寺に肝試しを計画したそうだ。いくら信仰心があろうがその寺は住職が急死して跡継ぎもいないということで廃棄されていた。
取り壊すにもお金がかかるということで、税金が足りない田舎らしく、その建物と、それに並ぶ墓場は放置をされていた。行政曰く、『墓地の処分には反対意見もある』ということだが、お金がないことくらいはおおよそみんな分かっていた。
三人で懐中電灯を持って肝試しに向かったんです。いや、懐中電灯といっても高輝度LEDを使ったものですがね。街灯も減りつつあるということで他の二人も持たされていたんですよ。
そうして三人で廃寺に向かったそうだ。罰当たりかもしれないが、当時の彼らは『どうせ誰も管理していないから』という言葉を錦の御旗にして我が物顔で夜道を歩いて行ったそうだ。
一応見つかったら補導される可能性はあるが、警察は人員不足だったし、その頃は暴力事件でも起こさなければ警察にお世話になることは無かったそうだ。
「まあそんな時代だったもので、何の障害もなく廃寺に着いたんです。町のはずれの方にあったので誰かに見られる心配は無かったです。夜に見つかるといえば深夜営業をしているスーパーやコンビニですが、そういうものは町の中心の方にありますからね。
三人は廃寺について露骨にがっかりしていた。歴史ある寺だけあり、廃棄されてそこそこの時間がたっていたものの、造りの立派な寺がドンとそこに建っており、木造でもガタが来た様子は少しも無い。なんなら人が住んでいたと言っても通じそうな状態だった。
「そっちはがっかりとはしましたが、本音を言えばその寺の敷地内にある墓地がまだありましたから、みんなでそっちに行こうという話になりました。このままじゃ引き下がれないというけちくささもあったんでしょうね」
みんなでそろって寺の敷地に入って本堂の脇に向かう。そこには決して広いとは言えないが、歴史はある墓地があると知っていた。
墓地の方は建物と違い、手入れを少ししなければここまでになるのかと言えるほど雑草が鬱蒼と生えていた。これじゃ墓地に寝てる死人も安眠出来ないだろうなと思ったらしい。
「それから少し墓地を歩いたんですが……そこが問題でして」
墓地の中にはまともな状態になっている墓は一つも無かった。寺が放棄された時点で親族の居る墓は他所に移す手続きを踏んでいるので、残っているのは身寄りの無い放置された墓ばかりだった。
「そこで声があがったんです、『A、B、C、早く逃げろ! アレ見ろアレ!』」
その声がした方を見ると、人の顔を映した人魂が浮かんでいたんです。みんな肝を潰して這々の体で逃げ出しました。それから家までは知って汗を思い切りかいてから部屋に入って人心地ついたんです。そこでCが言いました。
「聞いたかさっきの?」
ソイツは『見たか?』ではなく『聞いたか?』と言ったんです。俺とBは何を言ってるんだという顔をしていると、Cは真っ青な顔で言うんです。
「あの声……俺たち三人に叫んだんだぞ? ってことは誰か他の一人がいたって事だよな?」
「Cのその言葉に俺たちは声も出せませんでした。よく考えると肝試しを言い出したやつさえ分からなかったんです。ただ、見えている人魂より見えないものの方が怖いんじゃないかと思ってます」
Aさんはそう言い、今では他の二人とは連絡を取っていないという。ただ、未だに誰かの声が突然聞こえるんじゃないかと思うと戦々恐々としている。