汚い除霊
Pさんは繁華街で酒を飲んでいた。そんな時、悪霊に襲われたことがあると本人は主張している。私からすれば笑い話のような気もするのだが、本人が心底真面目に言うので書き残してしまった。
彼はバーで日本酒をガブガブとあおっていた。最近家庭環境が悪い、息子は非行をし、奥さんは忙しそうにしていて帰りが遅くなっている。だから彼も仕事帰りに飲んでいても誰にも文句を言われなかった。
マスターは何か察したらしく、その日は酔い潰れる前に帰った方がいいと言われ、仕方なく駅に向かっていた。家には帰ってきてもロクに愛想も無い息子と、疲れ切った妻に適当に対応されるだけなので出来ることなら帰りたくはなかった。
しかし、いい年をしてネットカフェで一晩過ごす体力は無い。仕方なく帰途についたのだが、どうにも体が重かった。駅に向かって電車で帰ろうとしたのだが、たかだか数駅、わざわざ早く帰りたいとは思っていないので、歩いて帰ることにした。ある程度の距離はあるが、何より彼は家に帰るのが嫌だった。
帰っている途中で彼はなんだか後ろに何かいるような気配を感じた。振り返ってみるが誰もいない。気にしすぎだろうかと思ったところでちょうどコンビニの前を通りがかった。ついついそこに入って、酔い潰れそうな状態だったというのにパック酒を購入してストローでちびちび吸いながら帰ることにした。美味しい酒ではない、しかし正気でいるのに嫌気がさしていた彼には安くてそれなりに酔えるので十分だった。
少しずつパックからストローで酒を吸いながら歩いていると、ポンと肩に手が置かれた。そして『死にたいの?』と声が聞こえたので振り返ったのだが、今にも意識がなくなりそうなところで急に頭を振ったものだから、口の中の酒ごと吐瀉物を後ろに吐き散らしてしまった。
流石に酔いが一気に覚め、話しかけてきた人にゲロを吐きかけてしまったという事実に逃げようかどうしようかと考えてそちらを見ると、誰もいなかった。おかしい、確かに話しかけられたはずだ。しかし現に誰もいないのだから何か出来るわけでもない。そして吐いたせいだろうか、なんだか気分が妙にスッキリしていた。
そのまま自宅に帰ると、なんとなく空気が明るく感じられ、その日から家族の関係も割と改善し、今では息子も大学を出て社会人になったそうだ。奥さんとの関係も時折旅行に行くほどによくなったそうで、Pさんが主張するところによると、幽霊は日本酒に弱いそうなので、あの時吹きかけた日本酒で取り憑いていたものが落ちたのではないかということだ。
あくまでPさんの主張なので、かなり怪しいところはあるのだが、彼の信じるところによると、日本酒なら瓶に入っていようが紙パックだろうが神聖なものであるそうだ。
以後、時折Pさんはパック酒を買ってきて神棚に置いているらしい。彼はそのおかげで家庭が円満になっていると主張しているが、本当のところは私には判断が付かない。