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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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お札の方が安い

 Oさんは怖い話にはなるので相談に乗って欲しいと言ってきた。一応怪談にはなるのでどうだ? そう言われたので大したアドバイスは出来なくていいなら、という条件付きで話を聞いた。


 彼は所謂事故物件に住んでいる。家賃が安いので迷うこと無く説明を詳らかに受けた上で即決したそうだ。しかし今は事故物件に住み続けるか引っ越すかで悩んでいるという。


「いい物件なんだよ、クソ安いし、立地だっていい、しかも駅から近いときてる。こんな物件手放したくはないんだけどな、やっぱ出るんだよなあ……」


「出るって幽霊ですか?」


 私がハッキリそう訊ねると彼は首を縦に振った。


「そ、幽霊が出るんだよ。って言っても夜中に血まみれの女が天井に張り付いてるなんてありふれたことなんだがな、よくあるだろ? そういう怪談ってさ。だから別に気にしなければ害はないんだが、その女、夜中に出てくるもんでな、人がぐっすり寝てるところを起こしてきやがる。金縛りで動けやしないし翌日寝不足で苦労するんだ」


「でも住み続けたいんでしょう?」


 そう聞くと彼は深いため息をついた。そして今話を聞いているファミレスのテーブルの上に一枚の黒い紙を置いた。


「これなんだがな、うちから少し遠いご立派な神社の札なんだわ、それ貼っておくと女も出てこないんだよ。でもさ、それをもらったのが先月で、もちろんそんな真っ黒じゃなかったんだよ」


「つまり幽霊がお札を侵食したと?」


「ああ、そうだと思ってる。で、いつまで持つのか試してみたことがあるんだが、今これが真っ黒だろ? あと二三日すればまたあの女が出てくるんだよ。その辺がどうやらお札のタイムリミットらしい。」


「逃げた方が良くないですか?」


 私なら間違いなく逃げていると思うのだが、彼は複雑な顔をして言う。


「そこが悩みどころなんだよなぁ……ソイツ一枚で持つのが約一ヶ月、それで毎月神社に行って新しいお札をもらってくる、もちろんこれにも金はかかるし時間もかかる。でさあ、お札をもらってくる代金全部を合わせて計算したことがあるんだよ。で、お札の代金も家賃だと考えても相場の一割くらいは安い物件って事になるんだよ。これが元の取れない物件だったら迷わず引っ越すんだがな……あの女もお札を貼っておけば出てこないし何の害もないし、引っ越すと家賃が上がるんだよな……」


 幽霊をハッキリ見た上で住み続けるとは豪胆な人だと思う。しかも彼は幽霊の対策をただのコストと割り切っている。であれば何も言うことはないのだが……


「本当にお札だけで害はないんですか?」


「ああ、無いよ。近所から好奇の視線を向けられるくらいだな。向こうは何かあったのを知ってるんだろ、わざわざ俺に伝えては来ないんだ。だから知らぬが仏かなと思ってる。もっと無害な事故物件って無いのかねえ……」


 そんながめつい彼だが、未だにその物件に住み続けている。最後に『もっと長持ちするお札をくれる神社って知らないか?』と聞かれたので、『いっそ除霊を頼んでみたらどうですか?』と親切心で提案したのだが、『事故物件じゃなくなったら家賃が高くなる』と一蹴されてしまった。多分彼はこれからも当面は事故物件に住み続けるのだろう。

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