表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本怪奇譚集  作者: にとろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/331

父親がわりの何か

 Sさんが昔、田舎に住んでいた頃の話になる。当時、まだ日本全体がそれなりに景気の良かった頃、田舎に住みながらそれなりの仕事をするのも良いだろうという話になって家族で移住したらしい。当時は働けば働くほどお金になったので、それを蹴ってわざわざ田舎に住むというのは珍しい方だった。


 家族そろって田舎住みということだが、嫁姑だのなんだののトラブルを避けるためにお互いの実家とはそれなりに距離のあるところの住宅を選んだらしい。彼が父親から聞いた話だ。


 田舎でもそれなりに仕事はあり、初めのうちはSさんも日曜日に家族がそろっていることを喜んでいた。都市部でバリバリ父親が働いていた頃は休日ずっと家に居るようなことはなかったからだ。


 しかし、平日はやはり父親は働いている。だから家に居るのは一人っ子の自分と母親だけのはずだった。しかし彼の思い出とは食い違っているという。


「変な話なんですが、小学校を卒業するまででしょうか、家には一日中家族がそろっていると思ったんです。おかげで寂しさとは無縁でしたし、何故か不思議に思うこともなかったんです。よく考えると父親とは全く顔が違う大人が一人家に居たことになるんですが、それを父親だと思っていたんです。理由は分からないんですけどね」


 そうして家族……の様な集団生活をして、小学校を卒業する頃、父親の転勤が決まった。また別の地方なのだが、当時の家は賃貸だったらしく、出るのにためらいは無かったらしい。彼はまだ持ち家と借家の違いもよく分かっていなかった。ただ、中学校でみんなと別れることになると思うと少し寂しかった。


「結局、引っ越しも決まり、後は家を出るだけになったんですが、引っ越す数日前に隣の家のおばさんが私に話しかけてきたんです」


「ねえ? あの家に住んでいて何も無かった?」


 質問の意味が当時はよく分かりませんでした。何故こんな子供に尋ねたのかも分からなかったんですが『何も無いよ』と答えると、そのおばさんは『そうなの……』とだけ言って家に帰っていったんです。そうして引っ越すことになったんですが……梁って分かりますよね? その家は部屋の天井よりしたに梁が見えていたんですが、その梁に縦に一本なにかがこすれたような跡があったんですよね。あのおばさんの話とそれをあわせて考えると……多分そういうことがあったんでしょうね。そりゃ両親に直接は聞けませんね。


 それに納得したのは高校生になってからでしたが、幸いその大人を連れてくることも無く、引っ越しで縁が切れたんですが……あの家は今頃誰か住んでいるんでしょうか? だとしたら、少しだけ怖くなります。でも、あの男の人に何かされたわけでも無いですし、あの人もそこにいるだけだったので無害なんでしょう。ただ、おばさんが私に訊いてきたのはともかく、なんだか妙に目が泳いでいて、人に聞かれると困るような感じだったのは気になっています。


 話はそれで終わりだそうだ。以後、彼はその謎の男を見たことはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ