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豊作の代償

 奈々子さんの故郷にはあるルールがあるそうだ。ルールといっても強制されるわけではないが、守らなかった場合どんなことになっても助けてもらえないそうだ。


「はじめは馬鹿馬鹿しい決まりだと思いました。なにしろ『二十歳から二十五歳まではこの村から出て行け』なんてルールですから」


 ルールはルールなのだが、どうにも気に食わないルールだったそうだ。大抵の家庭は子供を大学にやって、卒業後数年は外で働かせるそうだ。高卒でも都市部に引っ越せと言われるし、なんのためかは決して言わなかったが、村中の大人がそう知っていた。


 しかも理不尽なのは、家を継ぐために二十五を過ぎたら戻ってこいと呼び戻されるらしい。そんなことでは就職した企業にも申し訳ないだろうとは思うものの、結構な人数が村に戻ってきていた。


 その理由は、ただの農村なのにそれなりに栄えているからだ。後を継げば農家でも食うに困ることは無い。それどころかそれなりに貯金は貯まるので、その村で育ったものは結構な割合で出戻りしていた。


「私は大学を院まで出て研究職に就いたんですよ。それなら二十五を超えますからね。そのまま村には戻っていないんですが、心残りになっていることが一つあります」


 彼女は親友と呼べる友達がいたが、その友人はこの村のルールを馬鹿げていると一蹴して親元で高校を卒業しても暮らしていた。その事電話をする度に奈々子さんは『出て行けってうるさい』と親の愚痴を聞かされていた。


 しかし親も粘る彼女に根負けして『出来るだけ大人しくしていろ』と言い聞かせて、家の奥の部屋でこっそり暮らせと言ったらしい。なんでも、二十五を超えたら大丈夫だから実家にいるならそれまでは我慢しろ、と言われたそうだ。その事を何度も電話で愚痴られたのだが、彼女が大学院に進学した頃からパタリと電話が無くなった。奈々子さんも忙しかったので、向こうにもいろいろあるのだろう、そう思って深く聞くことはしなかった。


 その後、二十五を超えたので一度だけ実家に戻った。両親は歓迎してくれたそうだが、実家の農業を継げと口うるさく言われたのには閉口したそうだ。


 そして両親の説得から逃げるという理由も半分ありながら、連絡の来なくなっていた友人の実家へ行った。そしてその時にその友人が連絡をしなくなっていた直後に死んでいたことを知った。彼女の母親は、奈々子さんが知るとこの村に帰ってきそうだからという理由で奈々子さんには絶対に気づかれないようにと手を回していたそうだ。


 失意の内に実家に帰り、両親に『何故二十五まで出て行かなければならないのか?』としつこく聞いた。根負けした両親が渋々と行った様子で話したのは酷い話だった。


 奈々子さんの故郷では、今でこそ農業で栄えているが、昔はロクに作物の育たない土地だったそうだ。そこで祈祷を捧げたのだが、なんとその時に『年頃の若い魂を捧げ』豊作を祈ったらしい。遙か昔の話だが、その祈りはしっかりと聞き届けられてそれからは農業がすっかり儲かるものになったらしい。


 ただし、それなりの年頃の若者が健康なのに突然ぽっくり死んでしまう怪現象が年に数回は発生するようになってしまった。しかし願いを聞いたのが神か悪魔かは知らないが、若者がいなければ命を取ったりはしないし、しっかり豊作にしてくれるらしい。


「だからその年頃になると村から出して、安全になったら帰らせるしきたりになったそうです」


 そう言った奈々子さんは、絶対に人を生贄にするようなところに帰る気は無いと、お盆や年末でさえも帰っていない。次に帰るのは両親の葬儀くらいだろうと断言するのだった。

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