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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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夢の終わり

 まだ大樹さんが小学生だった頃から話は始まった。


「小学校で必ずやるじゃ無いですか? 将来の夢を発表しろって。アレが嫌いだったんですよね、明日のことだって分かんないのにあと十年以上先の事なんて分かるわけないだろって思いましたもん」


 そこが話の始まりらしい。その発表の前に考えるために原稿用紙を渡されていた、四百字詰め一枚以上の内容を発表しろと言われて困り果てていたところだ。


 いや、夢とかね、小学生なんてロクな発想が無いですよ、せいぜいお金持ちになりたいくらいじゃないですか。


 それはそうだなと思った。小学生に会社員になってキャリを積む方法などを書かせる教師はいない。そして夢の無いことを書くと怒られて低評価をされることを大樹さんは理解していた。


 そうなると思ってもいないことを書くことになるじゃないですか、それでまずは原稿用紙に世界最強になると書いたんですよ、流石に小学生でもバカっぽく思えて消しました。それから医者になる、博士になる、宇宙飛行士になる、パイロットになる、などの様々な小学生らしい夢を書いては消したそうだ。


 いい加減うんざりしましてね、適当に書くことにしたんですよ。ほら、読書感想文であらすじを書いて文字数を稼ぐって方法があるじゃないですか? アレを真似して中学校から高校、大学まで細かいことも漏らさず書いて字数を埋めることにしたんです。細かく書いていたら原稿用紙一枚目はあっという間に終わりました。


「やったー!」と思ったのですけどね、課題が大学までの細かい生き方で終わったのでそれ以降の社会人になってからは適当に書いたんですよ。


 いまいち話が見えないが、それがどう関係あるのだろうか?


「それを学校で発表したんですがね、まあ先生方からの評価は散々でしたよ。文字数稼ぎで無理矢理埋めたものなので無理もないとは思っているんですがね」


「なるほど、それで将来の夢が叶ったとか叶わなかったとかそういう話ですか?」


 私が訊くと彼はばつが悪そうに頷いた。決してつまらない話をしようと言うつもりも無さそうな顔をしているのだが……


「そうなんです、小学校でいい成績を取って、私立の中学高校と成績上位で、そのまま大学生になって……おかしいんですが、その原稿用紙に書いたままの人生を歩んでいるんですよ。きちんと社会人になってすぐ結婚すると書いたら、本当に会社に入ってすぐ結婚したんです。私ほど将来の夢を叶えた人はクラスに居ないと思いますよ」


「それは興味深いですが、一体それがどう怖いんですか? ただの偶然かも知れませんし、成績が良かったのはあなたが努力をしたからでは?」


 大樹さんは力なく首を振った。


「そうじゃないんです、何故か入試や定期試験では記憶に無い問題の答えがスラスラと出てくるんです。勉強なんてろくにしませんでしたね。将来それが続くと思ってちゃらんぽらんな生き方をしていたのに成績だけは良かったんです」


 それならば御利益とでも言うべき事であって悲しそうな顔をする必要はまるで無いはずだが、目の前の彼はとても悲しそうな表情をしていた。


「何か問題があったんですか?」


 私がそう問いかけると彼は頷いて言った。


「言いましたよね、その原稿用紙で細かく大学までの人生を書いたら埋まってしまったと」


「ええ、夢を叶えるのはいいことでは?」


「そうですね、人生の最後までしっかりと書いておくべきだったんですよ。私は最近記憶が飛びがちでしてね、しっかりと仕事はしていますし妻との関係も良好です。しかし記憶だけがスカスカに抜けているんですよ」


「つまり……」


「はい、あの作文に書いていなかったところは現実にも雑になっているんですよ。もしもこの調子でいくと私はこの先どうなるんでしょうか? 原稿用紙に書いていない部分がどうなるのかが怖くて仕方ないんですよ……」


 それだけ言うと会計用紙を取って『払います』という私の言葉も無視して彼は店を出ていった。後を追おうか考えたのだが、彼が去って行くとき、僅かに向こうの景色が透けたのを見て『薄くなっている』と思い申し訳ない話だが彼をそのまま見送った。

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