奇跡のイヤホン
岩城さんはイヤホンをフリマアプリで購入した。有名メーカーのものをジャンク品として出品している人がおり、たまたま最速で見つけたので購入したらしい。
「別に怖い話じゃないですよ。ただ、奇跡みたいな事があるんだなって思ったんです」
すぐにイヤホンは郵送されてきた。匿名配送だったので相手は不明だが、イヤホン自体は綺麗なものだった。箱に入っており、完品だったため、何故あの値段がついていたのか不思議だった。
しかし掘り出し物だと思い彼はイヤホンをケースから取り出し耳に入れてみた。まずはフィットするイヤーピースを選択しなければならない、きちんとイヤーピースが全サイズそろっているのでそれは贅沢な悩みだった。
しかし、イヤホンを耳にはめたときに奇妙な音が鳴った。いや、音自体はごく自然なものだ、そのイヤホンが出しても何もおかしくはない。ただイヤホンを取り出しただけで音楽プレイヤーと繋がったのだ。
通常接続のためにペアリングが必要なはずだが、何故かイヤホンをケースから取りだしただけで接続が完了した。通常ワイヤレスイヤホンはケースから出しただけで繋がるはずは無い。いくらユーザフレンドリーな製品を作っているメーカーでも勝手にそこかしこに繋がるようなものを作るはずはない。
奇妙に思いながら音楽プレイヤーを操作してみた。何の問題も無く音が出る、それもかなり高音質だ。ハイエンド帯のイヤホンなので当然なのだが、ジャンク品ということでワケありの音質なのかと思ったのだが、そんな心配は吹き飛ぶ結果だった。
気分良くそのイヤホンを使っていたのだが、それからしばし経ち、音楽プレイヤー用に新しいイヤホンを購入した。音質は端から捨てた聞けるだけのイヤホンだ。いざ電池切れになったときのサブ機として数千円で購入した。
そちらをケースから取りだし、耳に入れた。そちらでは機械音で『ペアリング』と響く。どうやら自動で繋がったのはあのイヤホンだけなのかと思い、Bluetooth設定を開いた。するとそこには『○○のワイヤレスイヤホン』と表示されていた。その名前は音楽プレイヤーのはじめの持ち主のものだ。
実は音楽プレイヤーも中古で、少し前に購入したのだが、その時にあまりにも相場とかけ離れた値段だったため出品者に不具合があるなら教えて欲しいとメッセージを送ったところ、『娘が亡くなったので必要無くなった』という返答が返ってきた。
破格の値段であり、そんな話を聞いて『じゃあやめます』と言えるほど彼は強くなかった。割り切れば安い値段で買える掘り出し物だ。そう考えて購入した。その後配送前に出品者から一通りの経緯を聞き、それから配送された。
そして何の不自由も無く使用出来たのだが、その時も匿名配送だった。娘さんの名前はそこで聞いていたのだが、出品者の住所など一言も聞かなかった。
「つまり、亡くなった方の遺品を図らずとも二回フリマで買ったことになるんですよ。偶然と謂えば偶然なのでしょうけど、どうもこのプレイヤーがイヤホンの方を呼び寄せたように思えて仕方ないんです」
確率的にはあり得ることだし、怪異的なものは無い。ただ、世の中にはそういった奇跡のようなことがあるらしい。