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幸せ、売るよ

 阿東さんは子供の頃、訪問販売が家に来たそうだ。それだけなら大した話ではないのだが、その業者は子供の彼と取り引きをしたらしい。


「アレは夢だったのかもしれないですよ、それは前提で書いてくださいね?」


 私はそのお願いにもちろん頷く。オカルトなんて現実的ではない話で当然なので読者の皆さんもあくまで話として読んでいるはずだ。


「まだ幼稚園児だった頃ですかね、あの頃親父もお袋も休みで出かけてたんで、一人で留守番をしてましたよ。ああ、この前子供を一人で留守番させるのはどうこうって話題にもなってましたね、俺みたいな目に遭う子供が減るならそれもありだと思うよ」


 それで、一体どんなことがあったんですか?


「ごめんごめん、留守番をしてたら玄関チャイムが鳴ったんだ。親は鍵をもっているし、誰かが来ても相手をしなくていいといわれてたんだけどね、『ごめんください』と猫なで声が聞こえたんです。なんでその時ドアを開けちゃったかなあとは思いますよ。その声を聞いて何故か『開けなきゃ』と思って玄関の鍵を開けたんです」


 そこにはシルクハットに黒いスーツを着た男が立っていたという。日本ではまず見ない格好だけど、当時の俺は馬鹿でさ、立派な身なりの人が来たって思ったんだよ。で、『何のご用ですか』なんて聞いたんだけど、その男は『私は幸せを売って歩いているものです。この家の方に是非ご購入していただきたいと思いまして』まあ胡散臭いですよね。詐欺師だってもう少しまともですよ。でも当時は両親の仲もギクシャクしててその話を真面目に聞いたんだ。


『後払いで無利子でご購入頂けますよ、是非ともご購入して頂けませんか?』


 そんなことを男が言うわけさ、俺は金なんて持ってないから困ったね、そうしたらその男は俺に話を持ちかけたのさ。


『お坊ちゃんでも構いませんよ。幸せは誰でもご購入頂けます。いかがでしょう、あなたにもお悩みはあるのでしょう?』


 その言葉にドキリとしたね、両親の仲はあまり良くないってのに子供がお袋の腹にいてさ、弟か妹かなんて教えてもらえなかったけど、まともの育てられるような環境じゃなかったよ。しかも親父の勤めている会社は業績不振で人員削減をしてると来た、どれか一つでもなんとかして欲しいと思ったよ。


『僕でも買えますか?』


 あの時の俺はアホだったよ、どう考えてもやばい話に乗ったんだ。俺がそう言うと男は満面の笑みで『もちろんです! さあ契約を!』と言ってきてね。名前を拙い字で書いて拇印を押したらその男はニヤッと笑って玄関から出て行ったよ。


 それからは順調な人生だったよ、両親の関係は良好になって、可愛い妹も生まれた、親父の会社は業績が上向いて人員削減どころかボーナスまで出るようになったんだ。順風満帆な人生ってやつだな。


「なるほど、それで『幸せ』を買えたというわけですか?」


「そう思うだろ? でもさ、俺が大学受験に失敗してからおかしくなってるんだ。彼女もいたんだがそこで手痛く振られたよ。まあこれは分かる、俺が真面目に勉強してなかったしな。それから両親はつかみ合いの喧嘩を毎日してから離婚したよ。親父の会社は人員削減どころか倒産しちまった。俺はな、思うんだよ。あの男は幸せを先払いしただけで、今になってしっかり回収に来たんじゃないかってね。俺がこんな話をあんたにしたのだって謝礼目当てさ、とにかく金が無いんだよ」


 そうして話は終わった。あの男が何者だったのかは分からないし、偶然で済ませることも出来るだろう。しかし彼の買った幸せに利子が付いていないとしたら、それだけがせめてもの救いだなと思う。

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