楽しい葬儀
昔の話、Nさんの実家は山間の集落にあった。そこでは奇妙な儀式が行われていたという。それは亡くなった人が出ると、村総出で葬儀を行うそうなのだが、その時に奇妙なことがあると言う。
「葬儀ってそれなりに悲しいものじゃないですか? 地元じゃ死人が出ると村人が集まって酒を酌み交わすんですが、みんなニコニコ喜んでいるんですよ。そりゃ大往生で百歳超えの人が老衰で亡くなったとかならわかりますよ、でもあそこじゃ三歳の子供が川で溺れて死んだときでさえみんな喜んで葬儀を上げるんですよ」
それは確かに奇妙と言えば奇妙だ。老人が大往生したのと子供が事故死したのではまったく雰囲気が違って当然なのではないだろうか? それではまるで……
「死人が出たのを喜んでいたんだと思うんですよ。誰かが死ぬ度に喜々として集まって酒を開けるんですからね。それだけだったらまだよかったんですが……」
今まででも十分奇妙な話のような気もするが、実際はそんなことより大きな問題があるらしい。
「地元は農業しかしていないのにそれなりに食っていけたんですよ。確かに農業で食べていけないとは言いませんが、あそこは普通以上の暮らしが当たり前だったんです。上京してから生活費の相場を知って、どうしてあの辺鄙な村があそこまで良い暮らしができたのか不思議でならなかったんですよ。それと、一年だけですけど過疎が進んだ村だったので誰も死にそうにない年があったんですよ」
「田舎でもそれなりに稼いでいる人は居ると思いますが……」
「そうですね、そこはギリギリ納得するとして、問題はその年なんですよ。とにかく死人が出ない。村人はそんなに多くないので死人が出ないまま十二月に入って雪が降り始めたんです。十二月に入ってから大人たちが会合だと言って出て行くことは増えたんです」
その時にはNさんに、留守を任せるから決して外出しないように強く言われたらしい。彼はそれに従って外出は決してしなかった。そしてそれは数回目の会合をした翌日のことだ。
「村で身寄りのない爺さんが居ましてね、そこの爺さんが亡くなったという話が入ったんです。身寄りも亡い人ですし村でさっさと葬儀を上げたんです。私も参加しましたがその時のみんなは喜んでいると謂うよりは安堵しているように見えました。その理由は分かりませんでしたが、その時は大人たちが飲む酒の量も減っていたような気がします。そしてその老人は村の斎場で焼かれたんですよ」
「なるほど、それから何か心霊的なことがあったんですか?」
私も心霊現象を集めている手前、そう言った話を聞かなくてはならない。
「申し訳ない、実は心霊現象とは少し違うんですよ、ただ怪談にはなると思いますよ」
少し落胆したが、たまには奇習を押してもらうのも悪くないと思い話を続けてもらった。
「その爺さんは村で焼かれたんですが、東京に来て気付いた事なんですが、あの村には墓というものは無かったんですよ。それで焼かれた後身寄りもないのにどこに埋葬するのか不思議だったんですよ。でもすぐにそんなことは忘れて日常に戻りました。そして都会に出て、大学にも入ったんですが……とある本にあることが書かれていたんですよ」
声を潜めてNさんはコソコソ言う。
「骨ってね、肥料になるんですよ。動物の骨とか肥料に使われるらしいんですけど……じゃあ……ね?」
私はなんだかゾクリとしたのだが、証拠がなにかあるわけでもないので、貴重な話をありがとうございますと言いその場を後にした。なお、彼は未だにどんな野菜を買うときも産地が明記されているものを買うようにしているらしい。