分かってしまう人
Aさんは霊感などないと言っているが、何故か人の死を予測出来る力があるという。本人曰く、それは心霊的な者ではなく、鋭い直感のようなものらしい。
「困るんですよ、毎回この話をしたら幽霊が見えるのかなんて言われるんですよ、そんなもん見えないっての」
そう言いながら身の上話は始まった。
「初めてそれに気付いたのはじいさんが逝っちまうときだったな。なんていうかさ、ゾクリと背筋が冷えるんだよ。アレだ、ロボットに乗るパイロットが感じるプレッシャーみたいなもんじゃないかな? まあロボットなんて無いから実際どんなものか分からないのは同じだけどな」
別に深刻さの欠片も感じない、のんびりとした感じで彼は話していく。
「でさ、その感覚を覚えた翌日に爺さんは死んじまってな、なんだったのか分かんなかったんだけど、学校で同じ感じになったときは翌日にクラスメイトが死んだんだよ。別に悼んだりはしなかったが、いいものだとは思わなかったよ。数回もその直感が当たると信頼出来るものだと分かったんだよ。一度二度ならともかく、三回も直感が当たるなんて偶然じゃないだろ」
彼はほとんど人にその話をしていないそうだ。なんでも『そんなもの言い当てようが外そうが好印象を与えられるようなわけないだろ? だから黙ってるのが正解なのさ』そう言って力なく笑う。
「俺さ、親父もお袋も生きてるんだよな。二人とも元気なんだよ、健康診断で何一つ引っかかったことがないのが自慢みたいだよ。それは悪い事じゃないんだがなあ……」
なんだか歯切れの悪いものを感じながら彼の話を聞いていると、不意に『あんたはそんなもの感じないか? と言われた。そういう感覚は無いと言うと、彼は少しうつむいて言う。
「最近さ、四六時中背筋が冷えるんだよ。初めは誰か身近な人が死ぬのかななんて思ってたんだよ。いい事じゃないが仕方ないだろ? なにしろいくらか落ち着いたとはいえあれだけ感染症が流行ったんだぜ、そりゃ知り合いのいくらかくらい死んでも驚かないと思ったんだがなあ……」
「一体なにがあったんですか? 何か心配されているようですが」
「いやな、死人が出ないんだよ。良いことなんだが、俺の直感は全部当たってきたんだよな。なのに今回は誰に会っても特別『コイツだな』って奴がいないんだよ。それなのに少しずつ背中にドライアイスを入れられるような感じがするんだよ。誤魔化すためにカイロを貼ってみたりもしたんだけどなあ……なんか誤魔化しようがないんだよ」
「つまり、死ぬ人はいないのでは?」
私の言葉に彼は力強く首を振った。
「それは無い。俺の直感は確実に当たってきたからな。あんたも大体分かってんだろ? 身近に死ぬ人がいなくって、それなのに誰かが死ぬことはなんとなく分かる。つまり誰が死ぬかって言うと……俺だろ? どこに行ってもその感覚がついて回るからなんとなくは分かってたんだけどな。いざ自分がその対象になると怖いんだよ。お寺や神社にも行ったけどさ、みんな俺にはなんの霊も付いてないっていうんだよ。いっそ幽霊でも憑いてた方がよかったな。ま、くだらない話だったな。あんたが怪談を集めてるって聞いてさ、話しておいてもいいかなって思ったんだ。もし俺以外の誰かが死んだなら連絡するよ、望みは薄いけどな。それだけさ、こんな変な奴がいたって覚えておいてくれ」
そうして彼と別れ、私は彼の話を残した。もう一年は経つが、未だに彼からの連絡は来ていない。誰も死んでいないことを祈るばかりである。