変わった話
青子さんは昔見ていたマンガが明らかにおかしくなっていたという体験があったそうだ。
「いや、大した話ではないんですけど、どうにも納得がいかないんですよね」
彼女がまだ学生だった頃、お気に入りだった少女マンガを集めていた。事はその時にあったと言う。
割と自由になるお金があったので調子に乗ったんでしょう、マンガを買い集めて読みあさっていたんです。まだ電子書籍が無い時代でしたね。とあるマンガを読んでいると少女が剣を取って敵に突き刺してトドメを刺していた場面があった。当時は印象的だったのでハッキリと覚えているそうだ。
「記憶違いということは無いと思うんですが……最近引っ越したときにそのマンガが出てきたので一巻から読み直したんです。そうしたら少女が剣を撮る場面で、少女の母親が剣を取って敵を倒すように話が変わっていたんです。復讐譚だったので初めの方で退場したはずの母親が出てくるのはおかしいんですよ。それで初めの方を読み直したんですが、母親が殺される展開が無くなっているんですよ。なんとなく釈然としないんです」
「それ以外に何か変わったことはありましたか?」
「不思議なのはネット上でそのマンガの解説を見ても、変わってしまったあとのストーリーが紹介されているんです。私の記憶がおかしくなったのかと思いました。それが一番理屈としては正しいんですがね……」
そこで言葉に詰まった彼女に何かあったのかと聞いた。
「そのマンガを読み終わって記憶違いで片付けようと思ったんですが、その日に母が脳溢血で倒れたと電話がかかってきたんです。大急ぎで実家に帰って母に会うと命に別状はないと言われ、安心して母を待ちました。ICUに入れるようになって母に会ったのですが、母は人が違ったようにぼんやりとした目で私の方を見たんです。そして僅かに口を動かしたのですが、何を言いたかったのかは分かりません」
「その後、お母さんに何かあったのでしょうか?」
「いえ、それきりですね、今では指先が少ししびれるくらいで普通に暮らしています。私は状態が安定してからマンションに帰ったんですが……先ほど言った本のシリーズがまとめて消えていたんです。二十冊にも満たないそれほど大きなものでもないですけど、綺麗に本棚に空きが出来ていて一体何が起きたのか分からないんです」
偶然にしては不思議な話だなとは思う。一体何故本の内容が変わったのか、その時同時に母親に起きたことと何か関係があるのか。
「アレがなんだったのかはさっぱり分かりません、ただ作品がネットで検索しても消えているのでそもそも存在しなかったのかもしれませんね。そう考えるのが一番楽なんですよ。ただ一つだけ心がけていることがありまして……」
彼女はまだ母親にはなっていないが、子供が出来たら母親がストーリーに深く関わる本は処分しようと決めているそうだ。