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弔えないもの

 その日、K太さんは自動車を運転しながら出社していた。対向車線が妙に混雑している様子を見て、先頭にパトカーがいたことから事故でもあったのだろうと思いつつ、急いでいるこちらの車線でなかったことに感謝した。不謹慎かもしれないが、自分が巻き込まれなければそれでいい。


 そんな身勝手ともいえる考えをしてから、すぐに頭から振り払って会社への道を急いだ。その時は警察が近くに居るということで制限速度を皆守っており、多少のじれったさを感じながら出社した。


 そして一日の業務を終え退社となったのだが、帰り道で妙なことが起きた。彼のつけていたスマートフォンに緊急発信の画面が表示されたのだ。もちろん何かにぶつかったリなどしていないし、事故など起こしていないのは明らかだ。妙に思いながらもダッシュボードに置かれたスマホのキャンセル表示を押して間違いだったということにした。機械だって誤検出位するだろう、その程度に考えて帰宅をした。


 それから数日に一度、スマートフォンが交通事故を誤検出するようになった。流石に回数が多いのでイライラしていたのだが、よく考えてみると毎回誤検出が起きるのはこの間事故が起き、パトカーが止まっていた現場の近くだ。


 それに気付くとなんだかと単に不気味な感じになり、事故検出機能をオフに設定した。それでスマートフォンが騒ぐことはなくなったのだが、その代わりに今度はその近辺で夜走っていると何故かハイビームになるようなことが起きた。一応そうなったら、レバーをいったんハイビームの一にして戻すとロービームに戻るのだが、前を車が走っていてもハイビームになるので、不要なトラブルの元になると思いついに夜間にその道を通るのをやめてしまった。


 それで落ち着いたのだが、とある日、まだ日中にその道を通ると道ばたに花束が置かれているのを見た。なんとなくだが、それを気の毒に思い、ある日花屋で小さな花束を買い、その道を通るときに少しの間路肩に車を止めてそれを備えて手を合わせた。それ以降、時折夜間にその道を通っても怪現象が起きることは無くなった。彼にとってはそれで済んだ話なのだが、初めてそこで事故を見て以来、しばしば小さな事故が起こっているようだった。


 そんなことを気にしてもキリがないし、幸い死者が出たという話も聞かないので、たまたま事故が起こりやすい場所なのだろうと思い、そこを通るときは注意深くスピードを緩めることにした。


 ある日、そこを通っていると、すごいスピードでバイクが対向車線にはみ出してからすごい勢いで追い抜いていった。そしてそのバイクは電信柱にぶつかって砕けたのだが、炎は一切見えず、血液の跡も無い。一応車を止めたのだが、事故の証拠が無いので警察に行っても無駄だろうということと、おそらくあのバイクがあの日事故を起こしたものだろうと予想はついた。多分この世のものではない、そう考えると少し気が楽になると同時に、自分の弔いではまだ成仏していないことに哀れみを覚えた。


 休日に一回日本酒の小瓶を買って、その事故現場にお供えをして手を合わせた。日本酒には幽霊に聞くことがあると聞いたので飲酒運転などしてはいけないのだが、幽霊に供えるくらい良いだろうと思いそれであのバイクを弔った。


 それ以降も事故は時々起きたのだが、それは少しだけ話題になった。バイクが車を追い越して電信柱にぶつかり、それに気を取られた運転手が事故を起こすというのは予想通りだったのだが、そのバイクには乗っている人間がいないと噂になったのだ。


「どうも人間は酒で弔えても、機械が飲めるわけないですもんねえ……」


 というわけで、その場では未だに乗り手が成仏したというのに、幽霊バイクだけが同じコースを走って事故を起こしているそうだ。

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