浮気相手は……
Oさんはかつて結婚していたのだが、夫の浮気があり、相手方の有責ということで離婚した。ところがその証拠集めは随分と手間取ったという。
「信じて貰えないかもしれませんがね、私は夫を幽霊に取られたんですよ」
そう言うOさんは大して悲しそうでもなくそう言った。幽霊が浮気相手とでもいうのだろうか? にわかには信じがたい話だ。
「始めは元夫の帰りが遅くなっていただけだったんですけどね、その頃はかき入れ時だったので気にしなかったんです。でも明らかに余裕のある時期でも帰りが遅くなってきまして、これは怪しいなと睨んだんです」
しかしいきなり直球で聞くのも躊躇われたので、夫の帰り道にあるスーパーでゆっくり買い物をしながら表の道路を見て何か分からないかと探ったそうだ。
「嫌な予感は的中して、元夫は女とともに歩いていたんです。ただ、まだ決めつけるのはよくないので興信所に頼んだんです。しかしそれで話がややこしくなりまして……」
興信所では浮気を証明出来なかったそうだ。一月ほどつけていたそうだが、ハッキリと証拠を掴めなかったと言われた。その際、証拠を掴めなかったのでと結構な金額を割り引いてもらったのだが、本来は一ヶ月もかけたのだから証拠が掴めなくても料金は取るはずだと思った。
「それで、仕方ないので自分でつけていくことにしたんです。なにしろ現場を見ていますからね、それで何もなかったですとは納得いきませんよ」
そうして夫の帰社時間を狙って張り込んでいると、会社から出てきたところをこっそりとつけていった。すると少し目を離した隙に女が夫の腕に抱きついていたという。しかしいつ抱きついたのだろう? 目を離したのは信号が変わったときの一瞬くらいだ。突然親しそうにで会う事なんて出来ないはずだ。
理屈はさっぱり分からなかったが、夫が浮気をしていると確信をした彼女はそのまま後をつけていったそうだ。
「それで、夫はある家に入ったんですが……その家がどう見ても誰も住んでいないような廃屋なんです。肝試しとかそんな雰囲気でもなく、まるで恋人の家に入るような顔をして二人で入っていきました。私は不気味になって逃げ出しました。その晩、夫と大喧嘩をしたんですが……夫は昔の恋人とよりを戻したから別れて欲しいと言うんです。私は気持ちなんてとっくに冷めていましたし、構わない話なんですが……あの人は昔恋人と死別したと言っていたんですよ。もちろんそれは虚言なのかもしれませんが……」
「なんとなくあの女がその恋人なのではないかと思ったため愛情は一気に冷え込んで恐怖が襲ってきました。私は早く別れようと離婚届を持ち出すと、慰謝料も支払うからと離婚にはあっさり承諾しました。それで、昔のように働いていたんですが、あるときから慰謝料の振り込みが無くなったんですよね。腹が立つとかそんな感情は無かったですね。ああ、いよいよもっていかれたかって感じです」
案の定、少ししてから元夫の訃報を聞いたのだが、Oさんは慰謝料はもう必要無いから一切関わっていないという。




