勝手に献花
M藤さんの知り合いのOにはあまり良いとは言えない趣味があった。そのせいで彼は今病院の中にいるそうだ。退院の目処が立たないのでM藤さんが私に事の顛末を話してくれた。
「あの人は悪趣味な奴でした、しかしそれにしても罰なんてものが当たるのでしょうか?」
彼女は話し始めに罰が当たると言った。何か不謹慎なことをやってしまったのだろう。多いところだと墓場へ肝試しにいってなどというものがあるが、今回話したいと言ったことはそういうことではないと言う。
「何か悪癖のようなものがあったんですか?」
M藤さんは嫌そうな顔をしつつも友人のイタズラを話してくれた。
「あの人は花を買うのが趣味だったんです」
「花ですか? 別に悪いことではないと思いますが……」
私は変な話しになってきたなと思ったのだが、彼女は私を遮って続けた。
「そりゃ母の日にカーネーションを送るだの、誕生日にバラの花を贈るだの、お盆に菊の花をお墓に供えるだのといったことは構わないと思いますよ、あの人のやっていることはたちの悪いイタズラだったんです」
イタズラか……一体何をやったのだろうか?
アイツは結構前からやっているといっていたんですが、遠出をするときに、安売りしている花を買って出かけるんですよ。それで出かけた先で交通量の多い交差点や横断歩道があったらその前にいかにもといった感じで置いていくんです。数日居座ってから帰るときに花や酒が追加されていたらそれをスマホで撮って笑い話にするんですよ、悪趣味だと思いませんか?
「それはなかなか……ですが罰が当たるようなことなのでしょうか? 何も無かった場所に彼は花を置くだけですよね?」
元々何も無かったところなのだから罰も何も無いと思うのだが、彼は実際そのせいで酷い目に遭ったそうだ。
あんまりうるさくは言いませんでした、被害者がいるようなイタズラじゃないですからね。ただ、ある日真っ青な顔をして私に相談に来たんです。あの人が言うには『花を供えた交差点で事故が起きた』そうです。普通逆ですよね、事故があった場所に花が置かれるのであって、花が置かれたから事故が起きたのではないでしょう? ただ、その必死な有様に幾人かの住職や神主を紹介したんですよ。知り合いに多いもので。
しかしその全部で門前払いを食らったそうだ。中には一目見るなり塩を撒かれてぴしゃりと玄関を閉められたところもあると言う。結局彼には偶然だよという空虚な慰め方をするくらいしか出来なかった。ところが事はそれでおさまらなかった。
「アイツの住んでいる近くで道ばたに花が置かれているのを見かけるようになったらしいんです。事故の話なんて聞きませんし、他に花を置かれているのを見た人は居ません。だからOも自分のイタズラに良心が痛んでそんなものを見たのだろうと思いました。ただある日Oから必死な電話がかかってきたんです。自分の住んでいるアパーの玄関前に花が置かれていたと焦りながら言っていました。でも私ももう頼れそうな場所は紹介しましたし、適当にあしらったんです。その翌日、彼の部屋に自動車が突っ込んだことを知りました。無保険無車検の違法改造車だったそうです」
偶然といえるような気もするが、あまりにもタイミングが合いすぎている。不気味なことは確かなので、一応交通安全のお守りを買って彼のところへお見舞いに行ったそうだ。
「それでお守りを渡したんですがね……アイツはお守りを見るなりそれを開けて中身を見てしまったんです。そんなことをしたら効果が……と言いそうになって私は見たんです。中には真っ黒になった紙が一枚入っていました、焦げたような感じになっていました。Oは『今すぐ持って帰ってくれ!』とわめいて私を追い出しました。それ以降は会っていません」
無事だと良いのですが、と言って彼女は話を締めた。卵が先か、鶏が先か、答えの出ない議論ではあるが、日のないところに煙を立てるようなことをするのが褒められたことではないのだろう。