お金配りアカウントの怪
「SNSにお金を配ってるアカウントってあるじゃないですか? アレが本当に配っているかどうかはとても怪しいんですが、それは置いておいて、知り合いにそういうアカウントに関わって酷い目に遭った奴がいるんですよ」
昨今、SNSでお金を配るのでフォローを頼むアカウントは存在している。それが規約的にどうであれ、消すことは出来ないほどに多くなってしまった。お金に限らず商品を配布するなどと謳うアカウントもあるが、実際のところは怪しいものだ。
そしてこの青木さんの知り合いはそれに関わってしまったそうだ。貧乏な大学生活を送っていたのでダメ元でそのアカウントをフォローしたところから始まる。
「始めはただ単にフォローするだけでお金がもらえるというアカウントを無差別にフォローしていたらしいんです」
その彼は、所謂『お金配り』をしているアカウントを片っ端からフォローしていったらしい。そしてひたすらお金がもらえるような書き込みをして一つでも儲かれば御の字くらいの感覚で続けたそうだ。
「それがただ騙されただけだったらいいんですがねぇ……実際に当選のメッセージが届いたらしいんですよ」
私はそれを聞いて、個人情報を奪われて逃げられる詐欺ではないかと思った。それは確かに怖いのだが、怪談ではないだろう。
「言いたいことは分かりますよ、詐欺じゃないかって話でしょう? それが困ったことに住所を送ると、後日現金書留が送られてきたんですよ。現金が送られてきたときはソイツもすごい喜んでいたんですが……」
「何かあったんですか?」
「それが……梵字って知ってますよね? お墓に刻んであったりするあれです。それが送られてきた現金全てに書かれていたんです。全部で一万円札十枚だったかな、それだけの金額の紙幣全てに書かれていたそうです」
それは不気味ではある。しかしそれだけだったら驚かせるだけのことかもしれない。
アイツはさっさとATMに突っ込んで口座の残高を十万円増やしていましたね。本人はATMなら札になにが書かれているかなんて気にしないから、だそうですよ。一応そのおかげでその月の暮らしは楽になったそうですが、妙なことが起きるそうです。
始めは給料日でしたかね、アイツ、結局散財して日払いのバイトに入ったんですが、その日の給料を手渡しでもらって中を見ると、この前見た字の書かれた一万円が入っていたそうです。不気味になって今度はコンビニに行って現金として使用して、お釣りに変えたそうです。それで多少目減りはしたものの、まさかこんな偶然が何度も起きるはずがないと思っていたようですが……
それからもその彼の元にはたびたび梵字の書かれた一万円札がやって来たそうだ。ATMから引き出したらそのお札が出てきたり、会社から銀行に入れておいてくれと言われたお金に梵字が入っていたり、とにかく逃げられないようで、それからその彼はクレジットカードを作って現金を出来るだけ持たないようにしているという。
「まあ、別に害が何かあるわけでも無いようですが、やっぱり不気味ですよね。アイツは現金を持つのがすっかり嫌になったそうですよ。おかげで現金のみのところで買い物がろくに出来なくて苦労しているそうです。でも現金を持つ気にはならないようですよ。他人事なので好きにすればいいですが、あの生活じゃこれからも苦労するでしょうね」
そう言って話を終えた。たまたまその辺の銀行のATMに入れた現金が他所で出てくる確率がどれくらいのものかは分からないが、彼は、安易に美味しい話には食いつかない方がいいですねと言う。