深き森
ラゴス守護兵団長
朝になり野営を片付け、森を抜ける準備を始める。
森は魔物の巣窟になっており大変危険であった。
戦闘は避けられない。
戦闘できない村人を囲う様に守護兵団が隊列を組んだ。
ユオは斥候である。いち早く敵を察知し排除する位置にいた。
ユオの後ろに守護兵団長のラゴス。前にいるユオには口頭で、後ろにいる守護兵にはハンドサインで意思伝達ができる絶好の位置である。
ドランは守護兵と共に村人を守る戦闘員として隊列に入っていた。ドランが自ら希望しての事であった。
エルミーも「ドランの援護に」と、村人を守る隊列に入った。
ガーランは守られる側の陣に入った。ガーランは村を守る時には立ち上がったが、元々は革細工職人で戦闘は不向き、妥当な選択であった
レオンはまだ戦う事ができないのでレオナントとガーランに挟まれる形で歩く事になった。
「行くぞ。最後の山場だ…」
守護兵団長のラゴスの号令で隊列が動き、森へ入る。
深い森…空気が変わったのがわかった。
森は薄暗く所々にしか太陽の光が入ってこない程、深く生い茂っていた。
「寒いね…」
エルミーが言った。
「木々が多くて、太陽の光がまともに入らないのです。夜に抜けるよりはマシですが、危険な事には変わりないですよ」守護兵の1人が答えた。
「こういう場所は魔力が溜まりやすくて精霊も多い…十分に注意してくれ…」ラゴス守護兵団長が注意を促した。
「精霊かぁ〜 精霊相手は無理だなぁ〜 実体ないから、ぶった斬りようがないしなぁ〜」ユオが頭に手を組みながら言った。
「精霊が出た場合はどうするんです?」
ドランが近くにいた守護兵に聞いた。
「…逃げの一手しかありません。」
「…え」
「剣や弓は全く役に立たないので、逃げるしかありません。」
守護兵の言葉にドランは息を呑み聞いた
「…精霊は何をしてくるんですか?」
「…わかりません。全て精霊の気分次第です。」
緊張しながら守護兵は言った。
「出会わない事を祈って進みましょう。」
守護兵の言葉に小さく頷き、ドランは気合を入れ直した。
森を入って30分くらい経った頃
「…ユオ」
ラゴス守護兵団長が小声で言った。
「…はい」
ユオは刀を握り、臨戦態勢に入った。
「どれくらい来る?」
「足音だけだとなんとも…多分だけど二足歩行タイプがザッと6体…内1体はちょっと厄介そう…」
ユオが敵を察知していた。
「先手は取れそうか?」
ラゴス守護兵団長はユオに聞きながら、後方に戦闘準備のハンドサインを送る。
ドランとエルミーも周りが武器を構え出したので、同じく戦闘準備に入った。
「ん〜…ちょっと危険っすね〜」
ユオはそう言うと、少し下がった。
「では、ここで迎え討つ。」
ラゴスはユオの隣に行きながら剣を抜いた。
足音が近付いてくる。
ザッ ザッ ザッ ドンッ ドンッ ザッ
時折大きな足音が響いている。
そして魔物が姿を現した。
「ん~ やっぱりかぁ〜」
ユオはあちゃ〜という表情で言った。
豚の頭をした魔物が5体、焦った表情でレオン達の所へ向かってきた。
「…オークが5体とあの後ろのデカいのは…」
守護兵達が息を呑む
「…ゴーレム」
ラゴス守護兵団長に緊張が走った。
「…デカい」
ドランもエルミーもゴーレムは初めて見たのだろう。驚いていた。
「さしづめ、オークが暴れ回ってゴーレムを起こしたのだろう…迷惑な奴らだ…」
ユオが言った。
「オークはゴーレムから逃げているが、あいつらも襲って来るぞ!先に倒せ!」
ラゴス守護兵団長が指示し、弓兵隊がオークに向けて矢を放つ。エルミーも共に放ち、弓兵隊だけで3体のオークを仕留めた。
「ほいっ!」「フンッ!」
ユオとラゴス守護兵団長が残りの2体を仕留める。
「オークは瞬殺したが、問題はあれ…だな…」
ラゴス守護兵団長は体制を整える為、後退の指示を出した。
ゴーレムと適正な距離を取りながら、様子を伺う。
「…ユオ」
ラゴス守護兵団長が言うとユオが目の前から消えた。
ガンッと音がした。
「くあぁ〜 クッソ硬ってぇ〜」
ユオはゴーレムに一太刀入れようとしたが、弾かれてしまった。
「む〜…さすがに石を切るのは無理かぁ〜」ユオは刀を弾かれ手が痺れたのだろう。両手をパタパタと振っていた。
ゴーレムが右手を振り上げた。
「全員退避!」ラゴス守護兵団長が号令をかけた。
間一髪で間に合いゴーレムの拳が地面にめり込んでいた。
ラゴス守護兵団長とユオが前に出てゴーレムと応戦する。
「決め手が…ない」ラゴス守護兵団長は打開策を模索したが、この状況を変える一撃がない事を悟っていた。
(どうにか、村人達だけでも逃さねば…)
ラゴス守護兵団長はそう考えていた。勝ち筋がない以上逃げるしかないが、逃げるには体制が悪すぎた。
「ドランッ!!」
レオナントがドランに声を掛けた。
そしてレオナントはドランにある物を渡した。
鍛冶屋が鉄を打つ為に使うハンマーであった。
戦闘用ではないが鉄を打っても壊れない頑丈な物だった。
ドランはハンマーを受け取りこれからやる事を覚悟した。
ドランは静かに歩き出した。




