約束
剣と魔法のファンタジー。
契約と約束。この世界での法律とは優位な者が決める。
「契約」双方の合意を持って成立する法的拘束力がある事柄
「約束」双方の合意で取り決められる事柄
この世界で契約を結ぶ者など殆どいない…
なぜならこの世界での契約とは「死」を意味するからである。
~~~ある村での話~~~
「また魔物だぁ!!」
村の見張り役がけたたましく叫ぶ。
「戦える者は武器を持ち、村の外へ集まれ!」
村長である父のレオークが号令をとる。
「レオン!」母のエリンがレオンの手を引き、逃げる様に促す。
「母さん…足が動かないよ……」
恐怖と疲れから動けなかった。
今回の魔物の急襲で3日連続であった。昼夜問わずに迫り来る魔物に村の住民達も疲れが溜まっていた。
「ほら!逃げるわよ!」幼なじみのルナにも手を引かれ立ち上がった。
「うん…」
門を破って村の中まで入って来た魔物と村の住民が戦っている。
そこら中に魔物の死体や村人の死体が転がっていた。
村を抜け出し、小高い高原に向かっている途中にそれは起こった。
「きゃああ」母のエリンの叫ぶ声が聞こえたと同時に、目の前が暗くなった。
(なんだろう…この暖かいのは)
目の前に覆い被さり視界を奪っていたのは変わり果てた姿のエリンだった。
魔物にやられたのだ。それもただの魔物ではない。
村にいる魔物の5倍はある大きさ。
更に武器や防具も他の魔物とは一線を介していた。
「う…そ…」ルナが絶望した顔で膝から崩れ落ちた。
まるで自分の命の終わりを悟った様であった。
「母さん!母さん!」レオンは既に事切れている母の身体を揺すり叫ぶ事しかできなかった。
「レオン!にげて!!」魔物が不気味な笑みを浮かべ、レオンに刃を向けた。
恐怖のあまり目を瞑る。もうダメだ…死んだ…
そう思った時、金属が弾ける音がした。
「レオン!ルナ!」父のレオークが村から追ってきたのだ。
「エリン…」レオークはエリンの無残な姿を発見し悔やむ顔を浮かべ、堪える。
「鬼畜が…」怒りと悲しみが入り混じった目でレオークが魔物を睨みつけ、魔物との一進一退の攻防が始まった。
しばらく打ち合いをしていたがレオークが優勢になりつつあった。魔物は焦った表情で防御に徹していた。
勝てる!そう思った時、また魔物は不気味な笑みを浮かべた。刹那、熱を帯びた目が眩むほどの強烈な閃光が目の前を走った。
レオークの胸に風穴が空いた。
魔物もレオークとの戦闘で疲労が出たのか、膝をついて苦しそうに胸を押さえている。
「まさか…魔法…」ルナは困惑な表情を浮かべ言った。
そう…この世界で魔法を使用するには精霊と契約をしなけければない。この世界での契約は双方で優位となっている方が契約条件に対する裁量権があり、劣位の者は半ば強制で同意する事となる。
精霊は契約において神の次に優位な種族。実質絶対的優位な存在。
つまり精霊は好きな条件を相手に叩き付け、契約をするのだ…それがたとえ命であっても精霊には関係ない。
精霊の好物は生き物の魂。精霊の契約とは契約者に寄生し徐々に魂を喰われる事が殆どである。魂を喰われる時は立っていられない程の激痛が伴う。魔法を行使する時も当然、魂を喰われる。
そして徐々に寿命がなくなっていき、死ぬ。
故に魔法を行使する者は非常に短命であった。
それ程までして得た力。非常に強力である。
「父さん!!」胸を貫かれたレオークは即死であった。
レオンは絶望する。もう立つことも叶わない。
月の光が異常なまでに眩しかった。
魔物が再びレオンに刃を向け、振り下ろされる。
「ねぇ…レオン…約束して…」
ルナの声が聞こえた。ルナは祈る様に月を見上げていた。
「必ず…私を迎えに来て!」
ルナがそう言うと同時に魔物を睨みつけた。
魔物の全身が月の光に包まれた。
月の光は徐々に強く光を増す。
光が強く眩しすぎて、まともに見ることすらできない。
そして、魔物は跡形もなく消えた。
まるでそこには何もいなかったかの様に一瞬で消えた。
「ごめんね…レオン…」
「ルナ…まさか…魔法を…」
「迷ってる余裕なかったんだぁ」ルナは泣きながら言った。
そして徐々にルナの体が霞んでいく。
「ルナ!」
「レオン…私…死ぬわけじゃないよ…ずっーと遠くにいるから必ず迎えに来てね…約束」
ルナは月が雲に隠れたと同時に姿を消した。
今回はがんばります!