異世界転生した勇者の俺は王女から婚約破棄されて国外追放になったがその方がよっぽど幸せだった件
「あなたとの婚約は破棄しますわ!」
「なんだって?」
俺は目の前で怒りの表情を浮かべている王女を見つめて呆然としてしまった。
今言われたことが信じられなかったからだ。
「何度も言わせないでいただきたいですわ、勇者ヴェルト。王女であるわたくしと婚約しているにもかかわらず浮気をしたあなたとは結婚できませんわ。ですので、あなたとの婚約は解消させていただきます」
俺はもう一度聞いても理解できなかった。
いや、言葉はわかる。婚約破棄だな。別に問題ない。ただ、浮気だと?
それを目の前のビッチ……違った、王女が言うことが理解できなかったんだ。
なにせこいつは俺が魔王を倒したときに連れていた仲間である、剣士とも賢者とも浮気してる。
まさかの聖女とも百合の関係だ。
貞操関係だけはこの女に言われる筋合いはない。
しかも俺は誰とも浮気はしていない。
昨晩、なぜか寝室に忍び込んできた聖女はお説教して部屋に戻した。俺は今、女に興味ないんだ。
もちろんこの王女にもなんの幻想も抱いていない。
婚約していたのは魔王を倒した勇者の使命として王女と結婚してほしいと王様から頼まれたからだ。
あぁ、そうか。
俺と王女との結婚を推進していた王様が亡くなって喪があけたから婚約解消とか言い出したんだな。
なら俺も自由にさせてもらおう。
「特に浮気はしていないが、お前が解消したいというなら問題ないぞ?」
「なっ……」
自分から言い出しておいて、なぜこいつが驚くんだろうか。
顔だけは可愛いけど、浮気ばっかりのこいつへの憧れなど端から1mmも持っていないんだが。
そもそもお前、俺が勇者に選ばれたパーティーのときになんかすり寄ってきたけど、特に相手にせずに飯食ってたら速攻で剣士にアタックしてただろ?
「それならあなたにはこの国を出て行っていただきたいですわ」
「もちろんだ。ここにいる義理ももうないしな」
「なっ……」
だからなんでお前が驚くんだよ。
俺は俺と両親を助けてくれた王様……もう亡くなったから前国王だな。彼への義理でここにいただけだ。
もう十分だろ?
魔王まで倒したんだ。結構可愛かったのに。
魔王って言うから、ドラ〇ンク〇ストのゾー〇みたいなのを予想してたのに、そこにいたのは絶世の美女。
危なかったぜ。両親のことと国王陛下への義理がなかったらその場で剣士も賢者も聖女も倒してしまうところだった。
まさかの反乱……そんなこともないんじゃないか?
こいつら全員貴族だから、平民出身の俺の扱いは酷い。
最初からこの世界で生まれて死ぬ人間なら身分差は頭に刻み込まれているから気にしないのかもしれないけど、俺にはなぜか前世の記憶があるから苦痛で仕方がなかった。
「じゃあ、俺は行くぜ?じゃあな」
「待ちなさい!剣を……あなたの剣を返しなさい!あれはこの王国のものです!」
なんだよけち臭いな、と思ったものの、聖剣で国宝扱いされているから当然か、と思い直す。
「ほれっ」
「きゃっ、あなた……」
それを王女の方に放り投げて俺は窓から部屋を出る。
飛べるから問題ない。
王女が何か言ってるが、それも問題ない。
これで自由だ。
俺は残りの人生を謳歌するぜ。
前世の記憶にあるようなうまい料理や娯楽はこの世界にはないが、変わりに自然があるし、魔法や剣もある。
なにかを極めてみるのもいいな。
ん?どんな前世かって?
わかるかな?日本っていう国なんだけど。
その首都の東京っていう街に住んでた平凡な少年?青年?の記憶だ。
世界中にダンジョンが出現していたし、海外の予言者が7の月に世界が破滅する?とか書き残したせいで世界が混乱していたな。
俺は興味もなかったし、特に大きな魔力も持ってなかったから普通に理系の大学を目指して勉強していた。
いや、受かったんだったかな?
それでお祝いに海外旅行に両親が連れて行ってくれるところで、その飛行機が墜落したんだよ。
次に気づいた時にはヴェルトと名付けられた少年だった。
乗っ取ったとかじゃなく、ふと思い出したんだ。
まぁ、ほぼ役に立たなかったけどな。
この世界の俺は膨大な魔力量を誇り、さらに天才と呼ばれるほど魔力の扱いに長けた子供だった。
俺はこの広い世界を自由気ままに旅した。
するといろんなことが見えてきた。
意外に旨い料理、美しい景色、優しい人々。
俺が行く世界はそんなもので満ちていた。
俺はそれを守りたいと思った。
だから魔法を高め、剣も高め、さらに肉体も高めた。
残念ながら精神は前世からのエロガキが少し大人になった程度だったが……。
ん?なんでエロガキが王女や聖女に欲情しなかったのかって?
無理だろ。
だって王女はビッチだし、聖女は8歳だ。
相手として終わってる。
もちろん聖女には可能性があるが……。
だから俺は旅で仲良くなった娘と結婚したよ。
子どもも作った。
こいつらが強く生きていけるといいなと思ってできる限りの技能も伝えた。
あぁそうだ。
なんと復活した魔王とも出会ったんだぜ?
今度は敵対は避けて、遊び相手になった。
お互いに技能を磨いて試す相手だ。
楽しかった。
こいつの方が俺より先に死ぬとは思わなかったが、葬式には出た。
魔王を継いだやつはあんまり好きな相手じゃなかったが、先代魔王の手前、表立って喧嘩したりはしなかった。
俺の人生、前半は酷いものだったが、後半は良いものだった。
だから満足して閉じたんだ。
その先があるなんて思いもせずに……。
まぁいっか。
俺は行った先でも気に入らないやつはボコって、気に入ったやつは魔法や技術を育ててやるという自由気ままな生活を続けてるよ。
一方、俺を追放した後の王城にて
「どういうことですか?勇者様を追放とは?」
はげたおじさんが慌てふためいて王女を問いただしている。
「だから、ルード大臣。説明した通り、あの男は浮気をしたので婚約破棄を申し渡し、国外追放しました。もちろん、聖剣は返還させておりますので問題ないでしょう」
王女はしたり顔で聖剣を見せながら説明している。
「浮気か……酷い男だな。こんなに美しいメルフィアと婚約しながら浮気とは……しかしご心配なされませんように。私が立候補しますので」
その横で顔を歪めながら怒りを表しているのは剣士ラーゲンは、全て計画通りなので予定通り王女の婚約者に立候補する。
もしこれが認められれば、彼が次期国王だ。
公爵家出身の彼にとっては、欲望も権威欲も実家への義理も返せる会心の一手だった。
「悔しいが、次期国王ともなる王女様との結婚は譲ろう。しかし、私は約束通り宮廷魔術師長となって、2人を支えよう。勇者などいなくても心配ない」
さらにその隣で自分の利益を確保しに行ったのは賢者サディックだ。
彼は子爵家の出身であり、身分ではラーゲンには叶わないので、宮廷魔術師長の地位を守りに行ったのだ。
目的はもちろん王宮内に居続けることで王女との関係を維持すること、つまり公然の秘密としての浮気相手だ。
「……」
もう1人、パーティーのメンバーであった聖女ユリアは、王女の腰にしがみついたまま離れない。
そんな聖女の頭をなでながら王女は微笑む。
「この国には魔王を倒したパーティーのメンバーである剣士と賢者と聖女がいます。3人とも王宮に。ですので、なにも問題ありませんわ」
王女はこれが結論だと言わんばかりにしたり顔でルード大臣に宣言した。
しかし……
「えぇと、勇者様不在ですか?だとすると、私は退任させていただきます。あの方にお仕えできると思っていたからこそ、こんな面倒な職を受けたのです」
「なっ?」
なんとルード大臣が辞任した。
この事態を王女は全く考えていなかったようで、目の前でゲットした肉がはじけ飛んだときのゴブリンのような驚きようで固まった。
いや、外見だけは美しいが……。
「ルード大臣。それは勝手が過ぎるというもの。あなたには周囲を思いやる心がないのですか?」
そんな王女への助け舟なのか、声をあげたのはこの王国の軍事を一手に率いるハーグリード将軍だ。
「そうですとも。大臣ともあろうものが、あのような下賤な平民に仕えたいなどと、あなたに貴族の心はないのですか?」
王女は語気を強めて大臣を糾弾する。
「そもそも勇者様の浮気などと言われていますが、それは本当なのですか?」
ルード大臣もまさかハーグリード将軍に責められるとは思っていなかったのか、そもそもの王女の言葉に疑問を呈した。
彼も王女が尻軽なのを知っているのでそもそも彼女が勇者を非難すること自体に違和感を覚えているが、さらに信じられないのはあの勇者が浮気したということなのでそちらを聞いたのだった。
「もちろんですとも。ここに証人がいます。ねぇ、ユリア。あなたは昨日あの勇者の毒牙にかかって」
「浮気なのに毒牙ですか?」
さっそくおかしな表現が登場したのですかさず大臣が突っ込む。
「えぇ。あろうことか勇者は聖女に懸想し、彼女を寝室に連れ込んで襲ったのです。なんとおぞましい」
「はぁ……」
おぞましいのはお前の方では?という気持ちを全力で隠した表情を大臣は聖女に向ける……。
聖女は顔を王女の服にうずめたままだ。
「にわかには信じられませんな。して、聖女殿、どのようにして勇者様に襲われたのだ?」
一方、女性の感情の機微などみじんも理解していないハーグリード将軍がずけずけと核心に迫ることを聞いた。
「なっ、将軍!襲われて震えている女性にそのようなことを聞くのですか?」
当然王女は怒る。
「しかし、どう魔力を読んでも処女のままの彼女が襲われたというのが理解できぬのでのう」
「なっ!?!?」
しかしこの場の雰囲気を読むことも放棄したハーグリード将軍はそのまま核心的な事実に踏み込んでしまった。
「何を言うのだ将軍!まさか聖女が嘘をついているというのか?」
そのやり取りを静観していた剣士ラーゲンが堪えきれずに怒りを露わにして割って入った。
「そう言っているのだ。もしくは王女様なのか。いずれにせよ聖女様が処女であるので勇者様の浮気はない。にもかかわらず婚約を破棄し、彼の方を国外追放するというのであれば、ワシもルード大臣とおなじく辞任する。大臣、一人で勝手に辞任することは許さん」
ハーグリード将軍は辞めるなら全員辞めるから事実を明らかにしていけとルード大臣に言っていたのであって、決して王女に従えなどとは言っていなかったのだろう。
「なっ……」
王女は一日に何度驚けば気がすむのだろう。
しかし、その衝撃は理解できるだろう。
なにせ手元に残ったのは年若く、国政で役に立つのかは未知な人材ばかり。
一方で、経験豊かな大臣と将軍が辞めると言っているのだ。
「えっっと、その……昨晩勇者のお兄ちゃんのところに行って来いって言われたから行ったけど、こんな夜中に男のところに来るなって怒られて部屋に連れ戻されたよ?」
「なっ……」
さらに追い打ちをかける聖女の言葉。きっと将軍の視線に耐えきれず、つい語っちゃったのだろう。
たかだか8歳の女の子なんだから。
そして大臣も将軍もあきれ顔である。なにせ計画がゆるすぎる。
夜中に自分の元を訪れたからと言って、こんな小さな女の子を襲うバカが王女と剣士と賢者以外にいるだろうか?
この話を聞いた王宮の要職にあるものたちのうち過半数が辞任してしまった。
領地があるものは領地へ、平民は国外へ向かっていった。
そんな状況でも王女たちは厚顔無恥にも、辞任してしまった者たちへの怒りを全く隠すことなく方々で当たり散らしながら、それでも自分たちに従うものたちを引き上げて体制だけは整えた。
残念ながらこの割を食うのは国民だが、彼らとて大人しく従い続けるだけではない。
圧政、腐敗、増税のトリプルコンボを決めたことによって追い詰められた国民が決起して剣士と王女を玉座から引きずりおろすまで、5年ともたなかった。
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