40話【ルドフィア視点】不良品は壊して再利用
まだちょっと見ていたかったわ、あの姉弟のこと。でも、今は我慢ね。本物の妹や弟のもとに行かなきゃいけないもの。きっと、困ってるんだわ。
立ち往生してるってことはきっとそういうこと。待っててね、お姉ちゃんが何とかしてあげる。
「えーっと、場所はー……」
どうやら、部屋の中で水で満たされた部屋の前で何やら三人揃って立ち往生してるっぽいわ。
ボードに部屋の名前とそこに三人がいることを示す点が表示されているからわかったの。
それにしても、三人いるってことは……もう一人はリュゼが言っていた例の人物かしら。
男よね……男って言ってた気がするわ。
部屋を出て、たまたまドルイディたちと出会って一緒に行動してるってことかしら……?
どんな人物なのか見てみたいわね。二人に害を及ぼすような人物なら引き離さないと……
「……あー、それにしても……プララちゃんたち良かったわ。愛らしくて堪らない……」
思い出して……その度に胸がキュンキュンするの。飛び跳ねるような、そんな感じ……幸せ。
やっぱり、妹や弟っていいわ。もう、あの子たちも私の妹や弟ってことにならないかしらね……
なったら、いいな……と思うけど、そんなことが無理なのはわかってるから諦めるわよ。
私は離れつつあるあの子たちの部屋の扉を一瞥しながら、悲しい気分になっていた……
リュゼもあの子たちのかわいさに気づいてしまっていたから、彼女が何かしてないといいけど……
そのことを知られたくないのか、リュゼは事前に自分の反応をボードから消している。
……困った女だわ。この館での諸々が終わったら、ちょっとどうするか考えておかないと。
「……あれ?」
そんなこんなで色々と考えながら歩いていたせいで、どうやらドルイディたちがいる方向とは全く別の場所へと進んでしまっていたわ。真逆よ。
……私ってドジね。ダメなお姉ちゃんだわ。
今はみんな動き始めているわね。まずいわ。問題が解決してしまったのかしら?
問題があるのなら、お姉ちゃんであるこの私が解決まで導いていってあげたかったのに……
でも、どっちにしろウロウロしてるから、多分……まだ部屋の前からは離れない気がするわ。
「……早く! 早く行かないとね……!」
そう思って引き返そうとしたところ、とある見知った者の反応が目に入ってしまった。
わかりやすかったんだけど、ドルイディたちのことに気を取られていて、さっきまでは全くと言っていいほど視界に入っていなかったわ。
「……後でなら忘れちゃうし、向かうべきよね」
三分ぐらいで終わらせてすぐドルイディたちのもとへ行けばいいだけの話よ。ええ。
場所は二階の……えっと、階段近くね。
十秒前の急いでドルイディたちのもとへ向かおうとしていた私は何だったのかしら……
「うーん、いいわ」
私の現在地は三階なのだけど、階段が目の前にあるから急いでいけばすぐ着くわね。
ドタドタと駆け出して向かうのははしたないから、私は音を立てずに……しかし、速さは出しながら、その者がいる場所へと向かっていったわ。
その時間、脳内で数えてみたけど、大体二分。想定より一分も遅くなってしまったわ。残念。
「さーて、見つけたわよ……」
「……」
この地面に頭以外が埋まっている男……ここに来てたことは知っていたけど、すっかり忘れてたわ。
「……休眠状態に入ってたのね。じゃあ、起こさせてもらうわ」
頭だけ見えているんだけど、目を閉じているだけでなく、完全にこちらへの警戒心もない。
……少し見ただけでわかっちゃうのよね。
乱暴に起こしてもよくないし、取り敢えず地面から引っ張り出して普通に休眠状態を解除させましょう。
久しぶりに私の顔を見てどんな反応するかしら。
「よーいしょーっと!!」
ちょっとかよわい私には辛かったけど、引き抜き成功よ。なんか農家になった気分。
私、野菜にそんな詳しくないけど、こうやって引き抜く野菜って確か多かった気がするの。
農家の人に怒られる妄想が頭に沸いてきたから、そんな考えはここで終わらせておきましょうか。
それで、休眠状態解除のボタンなのだけど、これは確か後頭部だったはずよね。
休眠状態になるボタンでもあるため、もう一度押せばまた休眠状態になると思うわ。
「……ん、あ」
「あ、起きたわね……」
「だ、れだァ……ってテメェは!?」
彼の驚く顔を見て、私は理想的な反応に思わずにやけてしまったわ。
そのにやけ顔を両手で覆って元の表情に戻した後、私は彼との会話を開始していく。
「そう。覚えてるわよね。貴方の作り主であるルドフィア・ペンデンス・オトノマースよ」
「ルドフィアかァ……」
「久しぶりね、アサシィーノ。ちょっと聞きたいことがあるのよ。貴方、どうやって穴に埋まった状態で休眠状態に入るボタンを押したの?」
「……頭を後ろに勢いよく倒した」
ふふふ、面白いわね。それ。
発想は凄いのよね。本物より……
私は軽く笑いながらも話を続けていく。
「それで、なんで床に……?」
「リュゼルスっつー王女にやられただけだァ……どうやっても出れねェから仕方なく眠ることにした。無様なオレをテメェは笑いに来たってわけかァ?」
「違うわ、違う。私は貴方を壊しに来たの」
「は? 何言ってやがんだテメェ……」
「……貴方は本物のアサシィーノくんが『弟のようであり、尚且つ不在時に代わりに仕事をこなしてくれる存在が欲しい』と言ったから生み出した存在よ……」
でも、不良品で性格も知識も技術もほとんどが本物とは違うものになってしまったし……
「本物のアサシィーノにも求められていないんだから、害でしかない貴方はいい機会だし、壊しておこうかなって。許可は事前にとったから大丈夫」
「……ッ」
「ふふ、実は貴方をここに引き寄せたのにも関わらず、『遊び』に参加させず、ここに埋めさせたのは私が壊すためだったの。知らなかったでしょ……?」
「……ッ……このクソが……ッッ」
「そんな歯を剥き出しにして吠えないで。怖いわ。ちゃんと再利用するから、安心して」
ちょうど、プララちゃんみたいな妹やラッシュくんみたいな弟が欲しいと思ってたのよね。
素体が男だから、ラッシュくんっぽさを意識した自律人形を作ってみるのがいいかもしれないわ。
今度こそ、失敗しないように気をつけて、ね。
怒り狂って向かってくる彼のことを見てクスリと笑いながら、私はそう思った。
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