39話【ルドフィア視点】二人にお茶を飲んでもらいたくて
プララちゃんとラッシュくんとリュゼがボードを見てからそろそろ相当な時間が経つ。
相当って一体どれくらいかって?
そうね。大体二十分ぐらいかしらね。
二十分でもそれなりに待っていた方だと思わないかしら? 私のティーカップに入っていたお茶はもうなくなったし、プララちゃんたちのティーカップの中のお茶は冷めきっているもの。待った方よ。
冷めないうちに飲んでほしかったわ。お姉ちゃん悲しい。二人のお姉ちゃんではないけど……
「……美味しいけど、冷めても」
……もう一回新しくお茶を作ることにするわ。
冷めたお茶は自分で飲んで、今度こそ二人には美味しいお茶を飲んでもらうのよ。
リュゼの分はそのままにしておくけど。
私はプララちゃんたちのティーカップのお茶を自身のティーカップに入れ替えて飲むと……
二人のティーカップを軽く洗い、茶葉を用意しておく……もちろん、同じものよ。
最後には魔力でお湯を生むの。
お湯を水属性魔力でポンっと出すのは無理だから、まず普通の水属性魔力を出して、それを火属性魔力であっためないといけないから手間かかるのよね。
もちろん、私が勝手に作ってるわけだから、二人に感謝を強要することなんてしないわ。
二人が強要なんてしなくても、私に対して感謝を述べてくれることを期待しながら、作るの。
「……出来たわね」
私のお茶はコトコトとかわいい音を立てながら、二人のティーカップに入っていく。
美味しくなるように願いを込めて作ったから、本当に美味しいわよ。美味しいに決まってる。
だから、今度こそ二人には飲んでもらうわ。
ティーカップを落とさないように、熱い部分が私の人工皮膚に当たらないように……ゆっくり……
ゆっくりと……二人のもとへ運ぶ。
……なんか、まだ見てるわね。
「二人共〜……そろそろ、それ見るのやめて飲んでくれないかしら? 美味しいのよ〜、毒入ってないわよ〜」
「……信じられないって言ってるんだよ」
「返事してくれてありがとう。聞いてくれてはいたのね。お姉ちゃん嬉しいわ」
「言わなきゃよかった。あと、ぼくはあなたの弟ではないのだよ。姉を名乗るな」
「うーん、ごめんね。悪かったと思うわ。反省するから、早く飲んでくれないかしら……?」
「……」
んー、ラッシュくんは強情ねぇ……どうしたものかしら。本当に食べてほしいのだけれどね。
プララちゃんの方はチラチラと見てくれてるから興味ぐらいはあるようだけど……
彼女を利用……という言い方はよくないわね。彼女の力を借りてラッシュくんと一緒に飲んでもらえないかしら。本当に美味しさに自信があるんだから。
「……う〜ん」
二人を騙して飲ませるのはやりたくないのよね。
騙すこと自体はいいとしても、相手があの二人だとやっぱり嫌なのよ〜、なんでか。
あと、早くボードから目を離してほしいとも思ってる。何がそんなに気になってるの?
それとも、私の話を聞きたくないから見る振りしてかわそうっていうこと? 悲しすぎるわ。
「……ラッシュ」
「なに? ねーたん」
「ちょっと飲んでみたいのですよ」
「えっ……」
あっ、あっ、プララちゃんが〜、プララちゃんの方から提案してくれたわ嬉し〜!!
いや、本当に頼みこむことも頭の中でほんの少し……塵ぐらいは考えていたのだけど、よかった。本人の方から提案してくれるなら私は何もしない。
見守り役になるわね。飲むってなった時にはすかさず差し出せるように近くにはいるけど。
机の上にトン、とティーカップを優しく置いて、その横で保護者を意識した優しげな母性のこもった瞳で穏やかに見守ることを心がけていくわ。
私は母じゃなくて姉だけど。
ついでにいうと、この子たちの姉ではなく、ドルイディたちの姉なんだけど、まあ細かいところは今はいいのよ。今は私はこの子たちの姉なの。
「……嫌なのだよ」
「でも、美味しそうなのです。さっきから我慢してたけど、漂う湯気が鼻腔をくすぐる度に思わず、体がそちらの方に引き寄せられそうになるのです」
「語彙力が高まってる……ねーたんがそう言うなら……と言いたいところだけど、ダメなのだよ!!」
ラッシュくん……迷ってる……?
でも、ティーカップに手を伸ばしてるのよね……もしかして、結構揺らいでる……?
そう思った直後にラッシュくんが自分のティーカップと……プララちゃんのティーカップを机の端に追いやったことで私は彼の考えの一端に理解が至り、思わず震えてしまった。精神もそうだけど、肉体も……
この子、本当に姉想いのいい子……優劣つけてはいけないと思うけど、さっきまでは正直プララちゃんの方がかわいくて好きだと思ってた。
でも、ラッシュくんもかわいいし、いい子だし、大好きになってしまったわ。
私が少し視線を逸らすと、それに敏感に気づいたラッシュくんがティーカップを持ち上げていた。
かわいいわ。かわいすぎるわね……
「ねーたん、ここはぼくが浄化してから毒味を……」
「ダっ、ダメよ!? えっ、何しようとしてんのよ!!」
浄化とか言い出したんだけど、この子……
予想外すぎて思わず、語気を荒らげてしまったわ。ちょっと怖いと思われてしまったかしら。
「浄化なんてしたら、ただのお湯になっちゃうでしょうが!! えっ、わかってるわよね?」
「わかってるんだよ。でも、浄化もせずに飲んだら、身体にどんな影響があるかわからな……」
「あー、もう!! わかったわよ!!」
私は彼のティーカップのお茶を少しだけ飲む。
「ちょっと悪いけど、飲ませてもらったわ。これで毒がないことがわかったでしょう……?」
「耐性があるとか……」
「……もういいわ」
この子、かわいいけど、中々に面倒くさい。
もう、いいわよ。そこまでして飲んでもらいたいと思えなくなってきたところよ。
片付けるとするわよ……あーあ、残念。
私が肩を落としながら、ティーカップを片付けようとすると……その肩をプララちゃんが掴む。
「えっ、なに……」
「飲むのです」
プララちゃんはそれだけ言うと、私からティーカップをひったくり、一気に飲み干した。
当たり前だけど、飲ませようとしていた私も……隣にいたラッシュくんも絶句した。
えっ、いや、だって……絶対に飲まないことになると思っていたもの、私……諦めたもの……
嬉しいけど、なんでかしら……?
いや、さっき美味しそうだと言っていたものね。嬉しいわ、嬉しいわ……プララちゃん。
「何故なのだよ!?」と必死そうに問うラッシュくんに私に抱き寄せられたプララちゃんは……
「ほら、その人の言う通り大丈夫なのです」
と言ってくれた。まさに天使ね。最高だわ。
ラッシュくんもかわいいけど、その疑り深い性格は直してもらわないと本当に困るわ……
ディエルドみたいに若干の鬱陶しさを感じる羽目になってほしくない。そう思うから……!
私がプララちゃんを離すと同時に、ボードをじっと見ていたリュゼがボードから目を離して、私のもとにやってきた。何か言うつもりのようね……
「……ルド様、ちょっとドルイディ様たちが立ち往生しているようなので、様子を見てきてほしいですわ」
「えっ、あっ……それは気になるわね……」
そうよ。この子たちに夢中になって失念していたけど、ドルイディたちの動向も気になるのよ。
私は仕方ないといった様子でプララちゃんが渡すお茶をスーっと飲むラッシュくんを見た。
嬉しいわ。渋々とはいえ、ありがとね。
もっと、警戒を解いてもらえるように、ドルイディの向かう途中で考えようかしら……?
私はもしものため、ということでリュゼが渡してきた予備のボードを受け取ると……
「行ってくるわね……」
……三人のことを見ながら、部屋の扉を開けた。
プララちゃんとラッシュくんが何も言ってくれなかったのは悲しいけれど、仕方ないわね。
言ってもらえるように、頑張るわ……!
……扉が閉まるまでの間、私はかわいい姿を見せる姉弟のことをじーっと見つめていたのだった。
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