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37話【ドルイディ視点】カイスイで満たされた部屋

 入室した部屋は何故か水に満ちていた。


 しかし、普通の水ではないようで扉を開けた時にもその部屋の水が廊下側に流れ出ることはなかった。


 さっきリモデルが言っていた天井と床が反転するという現象も不思議だが、これも中々……



「ぶぶ……」



 水中だと会話もままならず、作戦を立てようがそれを伝えることが出来ない。


 私は身振り手振りで一旦外に出たいということを伝えて、二人と一緒に廊下に飛び出た。


 私、リモデル、ディエルドの順番でね。


 普通の水ではないかもしれないが、それでも水の中だとやはり口も鼻も抑えてないとまずいね。


 かなり息苦しかった。出るまでの私はきっと瀕死を思わせるほど青い顔となっていたはず。



「ぷはっ……苦ぅしっ……えおっ」



 水を私は吐き出した。本当は嫌だが、両方の手のひらに。


 どんな水なのか調べたかったんだよ。液体である時点で糸による解析は無理だから、注視する。


 んー、見る限りではどう考えても普通の水だ。


 だが、さっき口に入った時にわかったけど……なんかしょっぱかったね。塩が入ってる?


 なんで、水に塩が入ってるんだろう。



「ドル……これは多分、特に身体に害があるわけではない水の一種だと俺は思ってる」


「でも、しょっぱいが……」


「何かでそういう水があると聞いたことがあるんだ。名称は『塩水』……『カイスイ(?)』とも言うようだが、ともかく、毒の水ではないと思っている」


「そうなんだ……」


「光属性の魔力で浄化すれば、普通の水に戻るということも知ってる。やってみたらどうだ?」



 私は頷いてみた。


 やっぱり、光属性の魔力って一番実用性高いよね。闇属性が最も得意な人形としてはあんまり言うべきじゃないことかもしれないけどさ。


 リモデルは……疲れてないようだよね? そのリモデルが思案せず大丈夫だと言うということは、きっとその情報というのは確かな筋からのものなんだろう。


 ちゃんと信じるよ。


 本当はリモデルの言うことはどんなことでも無条件で信じたいところだが。


 ……あ、無条件ってのはさすがに宗教の妄信的な信者感があるな。撤回しておくとしようか。



「……浄化されたな」


「うん。ちょっと確かめるために飲んでみるよ」


「飲んでみるのか……まあ、いいかな。見てるよ」



 え、見られるの……まあ、水飲むくらい恥ずかしくないけどね。音立てないようにしよう。


 私はスーっとそれを音を立てずに飲み切ると、口元の水を用意していた手布で拭き取る。


 全部飲みきる必要はないかもしれないけど、口をつけた水をまた部屋の中に戻すのもどうかと思ってね。リモデルもディエルドも入るわけだし。


 それで、味についてだけど、無味になってた。完全に私がよく知るあの無味の水だ。


 安心をする味と言ってもいい。



「ドルちゃーん、ちょっと言いたいことあるんだけど、いい……? 無駄なことじゃないよ……」



 ディエルドはそう言いながら、私に近寄ってきた。いや……いいとは言ってないが……


 耳の方に顔を寄せてきたから、なんかイタズラしそうだと思ったが、そんなことはなさそうだ。


 口を開いた瞬間に真剣な声で話し始めたからね。


 早口な上に小声だったから聞き取れなかったけど、多分『部屋の水も浄化してみたら?』みたいなことを伝えてきたと思う。確かにいいかもね。


 宝がそれで見つかるわけじゃないけど、入った時にあのしょっぱい水を口に入れずに済むし。


 私が「いいね」と言った後に得意気な顔をするディエルドの眼前にリモデルが割り込んだ。


 ありがとう、リモデル。


 ……あの感じだとそのまま調子に乗り続けて、ウザいと思う羽目になりそうだったし。



「魚には多分、影響ないよね?」


「……わからない。でも、多分だいじょぶじゃない? あの魚も、きっと普通じゃない」


「ああ、それなら、オレも思ってたよ。ディエルド。どいつも人工物のように見えていたから」



 あ、ああ……リモデルは人形師だもんね。そういうのがまあ、感覚でわかるものなのか……な?


 私は人形師のようなもの……いや、近しい存在であるのに、全くわからなかったが。


 ……ディエルドもあの感じだと気づいてたってことだよね。きっと薄々ね。


 なんか、それって……悔しいね。



「……」



 まあ、でも……確かに、よくよく見てみたらー、そんな気がしないでもないかもね。


 本当によく見てみたよ。血眼で!!



「……あー、あの魚が宝を食べてるかもしれないし、糸で体内を探ってみる? リモデル、ディエルド」


「それって一回部屋の外に魚を出すってこと?」



 そうだよね。水中だと糸は出せても届かないしね。一回外に出さないといけないかも。


 ただ、水の中はかなり動きが鈍くなる。それでいちいち動いている魚を捕まえて外に出すのは骨が折れるから……結界を張って近づいて捕るべき。


 結界は水をも弾いてくれるからさ。


 捕る瞬間に腕のみ結界を解除し、水が侵入しないようにすぐに展開しないといけないけどね。


 かなーり骨は折れるだろうし、きっと魔力消費も激しいと思うんだが……いいと思う。


 結界を展開して近づき捕獲作戦、かな。



「……どう?」



 私がその考えたことを二人に対して口にした結果、二人からは同じ答えが返ってくる。


 なんか、少し仲良しになったかな?



「うーん、いいんじゃなーい……?」


「いいと思うぞ」



 ディエルドはともかく、リモデルは考える素振りを見せてから答えると思ったので、ディエルドの答えの後にすぐに答えてくるとは思ってなかった。


 他に方法なんてなさそうだからかもしれない。


 いいよね。この方法(やりかた)。よし、決定だね。



「うんうん、じゃ試すよ?」


「問題ないよ」


「ああ」



 それを試してみることは、その後にもう一度聞いてみたことで確定したので、結界張ろうかな。


 ……と思ったが、その前に気遣いかリモデルが私にも……あと、ディエルドにも結界を張ってくれた。


 しかも、上級の魔法結界を。優しい。


 魔力はまだまだあるから、私は使う必要ないってさ。温存しておいてってよ。


 ちなみにディエルドにも似たようなこと言ってた。



「……うんうん」



 結界張りも水の浄化も終わり。


 ……念の為、水をつついてみて……何も起こらないということがわかると、私たちは入る。


 なんか、不思議な気分……魚人になったような気分というのがちょっと近いんじゃないかと思う。



「……楽しい」



 このような不思議でありながらも、さほど怖くなく、楽しめる要素のある部屋がまだあるかもしれないと思うと、少しはこの館も悪くないかも……


 ……ということを、私は虚ろな目をしてスイスイと泳ぐ魚のことを見ながら、思った。

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