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9話【ドルイディ視点】土塊人形(ゴレム)

 ファルの土塊人形(ゴレム)は通常の土塊人形(ゴレム)と比べれば速いが、リモデルの足に追いつけるほどの速度ではなかったようだな。


 少し視線を後ろに向けたが、もう遠くにいる。


 ……まあ、本気を出せばもっと速い可能性はあるが。


 ファルが捕獲ではなく、監視を命令しているのなら、本気を出すことに意味はないからな。


 どちらであれ、今のこちらからしたら好都合。完全に見失わせてやろうと思う。



「……ドル、油断するな。あいつはもっと距離を離さないと、こちらの居場所ぐらいわかる……はず」


「視力が高いとかそういうことじゃないよね? 探知機能を搭載しているってことかな?」


「そういうこと。さすが。俺のこと、少しはわかってもらえてきてる?」


「さあ、どうかな。そうだと嬉しいが」



 本当に嬉しいとも。彼氏の内面をすぐに言い当てられるようになったら、恋人って感じがするじゃないか。


 ん……? 恋人って感じとは……? 自分で思ったことだが、疑問に思ってしまったよ。


 私を作り出してくれたあの人が恋人は内面がどうだかって言ってた気がする。それで恋人と言えば、内面を言い当てられるもの、という印象が生まれたのかもね。


 なんでもいいが、彼も私と同じようなことを思っていてくれたら嬉しいな。



「……ドル」


「どうした?」


「君は土塊人形(ゴレム)に興味があるのか?」


「……なんでわかった?」


「あるんだな。了解だ」



 何故だろう。表情とかそんなにおかしかっただろうか。表情筋は動かさないように努めていたつもりだったが。



「……?」


「何となくそう思ったから言っただけだよ。まさか、本当に好きだとは。驚きだな」



 なるほど。表情とかではなかったわけか。よかった。


 ……いや、別によくはないか。


 いやいや、やっぱりいいだろう。それって私のことを彼もわかってくれるようになってきているということじゃないか。むしろ、良すぎる。嬉しすぎることだ。


 喜ばしいな。うん。



「輝いてるように見えたんだ、その瞳が」


「瞳が、ねぇ……見間違いじゃないか? そんな機能を私はまだ搭載できていない。今度、搭載してみようかな」


「……普通の人形ならその反応が素なんだろうが、君の場合は判断がつかないな。ボケのつもりか?」


「……ど……ちらだろうね」



 え、ボケ……? え、何がおかしかったのだろうか。普通、人形も人間も瞳は輝かないと思うのだが……



「素っぽいな。覚えておけ。希望や喜びが感じ取れるような表情をしている者に対して『瞳が輝いている』と褒めることがままある。人形より人間がよく使うな」


「どんな表情だ。希望や喜び……?」



 ああ、でも言われてみたらわかる。そういった希望や喜びを感じているような人間の瞳は確かに輝いているように見えないこともない……ように思う。


 だから、だよね。それで合っていると思うが。合っていてほしいが。


 ……取り敢えず覚えておこう。いつか使ってみたい。希望や喜びを感じているような人間に使うんだよね。



「ありがとう、今度使ってみる」


「ああ、そうか。君の知識増加に寄与できたなら、嬉しい。是非、使ってくれ。例えば俺とか」


「そんなに喜びを感じることとかあるのか?」


「君といる時とかな。楽しく感じるようになってきてるから、普通にあると思うぞ」



 嬉しい言葉を平然と言えるものだな。初期の印象よりもっとかっこいいと本気で思っている自分がいる。


 意外と女性経験があるのか? でも、交際経験はないと書斎に入る前に言ってたんだよな。


 いや、でも女性経験があるなら、交際経験もあるとはならないからね。女性経験だけはありそうだ。



「……そうだ、ドル。君はなんで土塊人形(ゴレム)に興味を持ったんだ? 嫌じゃないなら教えてくれ」


「……それを聞きたがるか」



 大した理由ではないんだがな……まあ、話して困るようなことでもない。話していく。


 ……もう最初の部屋に着いてるからね。座りながら話すよ。


 部屋に着いたくらいで安心できるのかって? リモデルが鍵を閉めてるから安心だと言ったんだよ。


 私は部屋の真ん中に置かれている食卓と思しき机……そこに部屋の端にあった椅子を雑に持ってくるとそこに腰掛ける。リモデルと一緒にね。



土塊人形(ゴレム)というのは純度の高い土属性の魔力や魔石……その他、魔力の籠った魔道具などを使うことにより、生成可能な土属性の自律魔導人形だ」


「ああ、知ってるよ」


「知能は私のような普通の人間を参考(モデル)にした通常の自律人形と比べたら、高性能のものでも知能は数段劣るが、彼らはその分攻撃力が高く、魔力制御能力(特に土属性魔力)も高かったりする。まあ、後者においては私もそれほど劣ってはいないがね。その他、魔力貯蔵庫などの違いが……ってそろそろ退屈に感じてきてないか?」


「……いや、別に退屈ではないが、思ったより話が長くて驚いてる。あと、君の饒舌さにもな」


「……そうか」


「饒舌なのは悪いことじゃないよ。でも、そうか。君は好きなことになるとそこまで饒舌になると。またまたいい情報を得た。俺を語る時にもそれぐらい饒舌になってくれるよう、これから努力させてもらうとしよう」



 それなら、私も貴方を饒舌させられるように努めたい。


 と、心の中で思う。口に出すのは少し羞恥心が邪魔させたんだよ。



「……」



 椅子から立ち上がり、その椅子を元の位置に戻しているリモデルを私は見つめる。


 リモデルが椅子を戻している理由はすぐにわかったよ。土塊人形(ゴレム)が近づいているから。


 足音をできる限り小さくしているようだが、それでもあの巨体なら完全に消すなど無理。普通に聞こえるほどの大きさの足音を出しているよ。



土塊人形(ゴレム)の魅力はあの足音にもあるんだよ」


「そうか。覚えておくとしよう」

 


 独特な足音ってわけじゃない。他の人間や人形はこの魅力を多分わからないんじゃないかと思うよ。


 土塊人形(ゴレム)の足音に耳を澄ませながら、私はリモデルと同様に椅子を元の位置に戻していった。


 さあ、どうするか。


 こちらがこの部屋にいることはきっとバレてる。


 だが、さすがにファルがこの部屋を壊す命令なんてさせないんじゃないかと私は思っ……



「……っ!? ねぇ、リモデル!!」



 とてつもない大きな音と振動が伝わってきた。


 地震ではない。何かが倒れた音だ。普通に考えれば、土塊人形(ゴレム)だが……一体何故だ?


 揺れはその何かが倒れた際に一瞬生じただけなので、私は大丈夫だったが、平衡感覚がなくなってしまっているのか、リモデルはよろけてしまっていた。


 そんなリモデルを倒れないように軽く支えておきながら、ドアの方を注視する。


 なんだ……?



「普通に考えれば、土塊人形(ゴレム)だが、ああいう人形は魔力充填式ってわけでもないんだろ?」


「うん。それで合ってるよ。あれは魔力が尽きれば、それで終わってしまうから充填式じゃない。でも、他の自律人形と比べて壊れにくい。何があったんだろうね?」


「ああ、私も気になるよ」



 ドアを開けてみたいが、それで何か起きたら危険だな。


 どうするべきか……


 私はリモデルと顔を見合せながら、考えるのだった。

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