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24話【ドルイディ視点】とんでもない王女と出会ってしまったようだ

 突きつけられたディエルドの魔力剣の切っ先は……仄かな光を帯びながら、女の頬を触る。


 少しでも動かせば、彼女の頬は切れるだろう。


 それを彼女もわかっているためか、笑いなどと言った挑発行為をする様子はなかった。


 ディエルドが少しだけ切っ先を動かした瞬間に、冷や汗が出ているのが見えた。


 それは彼の魔力剣を伝って床に落ちる。



「……痛いですわ」


「まだ冷たいだけじゃないかな?」



 ディエルドは軽くだけど、魔力剣を捻る。本当に軽くなので、近距離の私だから見えたと思う。


 それ故に血は出ないが、彼女に恐れを抱かせるにはきっと成功していると思われる。


 再び、汗と思われる雫が落ちていき……


 ……それが落ちた後に女は口を開いた。



「……わたくしが貴女たちの糸を掴んだのは貴女方の邪魔をしたかったのではなく、たまたま歩いていたら目の前に伸びてきたから反射的に掴んだだけですわ」


「そんなことはもう別にいいよ」



 ディエルドは私が思ったのと同じことを言った。


 糸を掴んできたことの理由も全く気にならないわけではないが、それより……気になることが……



「……貴方たちのお姉様の……?」


「その通りだねー。オレたちの姉であり、第一王女……ルドフィアの安否と居場所を……教えてもらいたい」



 ディエルドの持つ剣の切っ先に魔力が集まる。


 きっと、彼女を傷つける意図はなく、これも単なる威圧のためだと思われる。


 笑顔でディエルドは剣先をピクっと震わせる。


 それは剣先で頬を切り裂くための動作だと思ったのだろう。女の恐怖が伝わってきた。


 冷や汗ではなく、表情でね。



「早く答えるべきだと思うよ。オレらも暇してるわけじゃないしさ。ね? お互いのためにさ?」


「……別に答えないつもりはありませんでしたわ。少し怖くて……言葉が出なかっただけですの」


「……ふーん。ま、何でもいいけど、答えてくれるってことでいいのかなー……? 助かるよ〜」



 ディエルドは笑顔をより一層深く、しかし剣の手は緩めることなくそう言った。


 王子なのに騎士かと見紛うほど、剣が似合ってる。彼にこんな所があったとはね。意外性が強すぎる。



「……答えはしませんが、案内はいたしますわ。『遊び』を行う前に、貴方たちのお姉様がいらっしゃる場所に」


「……本当かな〜……?」


「本当ですわよ。最初は案内するつもりはありませんでしたが、貴方たちの信頼を少しでも得て、早く遊びに興じるにはそれが最善かと思いまして」



 女の言葉は……根拠がないが、嘘のようには感じられない。


 だが、そうやって勘だけで信じて痛い目を見たくはないとも思っているから……


 ここは私が何かしら行動を起こそうと思った。


 ……思ったんだが、またまたディエルドが制止する。



「ドルちゃ〜ん? ドルちゃんはゆっくりしててって。ね?」



 何が『ね?』なんだよ……いい加減、そういう言葉で乗り切ろうとするのやめなよ……



「……」



 ……別にここで止めても意味がないのだろう。彼の決心が固いことはその顔でわかるし。


 それより、プララとラッシュのことを気にしたい。


 私は移動して、階段の下を覗く。



「……うん」



 二人は……なんと、遊んでいた。


 こちらを見てすらいないよ。仲良く向かい合って……何やら手遊びだ。かわいい。


 私が姉弟を見ている間にディエルドが女の首筋に剣を添えたまま歩いていた。


 今のディエルドはまるで処刑人のようだよ。その表情が笑顔でなければ。


 女の方も冷や汗なんかはもう一つもないし、顔にもディエルドほどじゃないが、微かな喜色を感じるので、その点は処刑される者に見えないかな。



「……案内しながらなのですが、わたくし……今更気づいたことがありますの」


「……何だろー……? 当ててみよっか?」


「あ、いいですわね。当ててみてくださいまし」


「えー……? ご飯食べたかどうか?」


「残念! 違いますわ〜」


「あちゃー、違ったかー!」



 テンションがおかしすぎるだろう……


 ディエルドは剣を突きつける側のテンションと表情じゃないし、女の方も突きつけられている側のテンションじゃないよ。何だよ、これ……


 会話だけ聞いてたら、旧友のように感じてしまうよ。


 えっ、本当に初対面だよね……? はは。



「正解は……」


「あ、ちょっといいかな?」



 ディエルドは手を前に突き出すと……



「……あと、どれくらいで着くわけ?」



 と言った。剣に力が再び……少しとは言え、こもっていたように見えた。


 急いでいることを忘れたようにも見えたが、どうやらそんなことは全くなさそうだね。



「……心配しなくても、そんなに時間はかかりませんわ」


「……」


「もちろん、別のところに案内する気だってありません。長話で忘れさせようともしてません」


「……ふーん。ま、こちらとしては姉さんのことを救い出すのが目的だから、今日のうちに無事な姿で返してくれれば文句はないよ。嘘ついてないんだね?」


「……もちろんですわよ。神に誓うぐらいはしておきましょうか? 本当ですから構いません」



 ディエルドは「いや、別にだいじょぶ!」と言って再び笑顔になると……剣の力を緩める。


 女の方は慣れてきていたのか、元々冷や汗も滲み出ていなければ、表情にもさほど恐怖は感じられなかった。これは……大丈夫かな……?


 一度、ちゃんと頬に傷をつけて、恐怖を復活させてみるべき……いや……


 さすがにそれはやらないか。やりたがら、ないか。



 そんなやり方をディエルドは選ばないよね。



「それじゃ、遅くなりましたが、気になったことを……」


「あ、ごめん。忘れてたね〜」


「酷いですわ。話そうとしたのに……」


「悪かったよ。何が気になったのさ」


「正解は……名前ですわ。わたくし、まだ自己紹介をしていないのです。名乗ってもよろしくて?」



 視線を前に向けた……少し先に他とは違う異質な雰囲気を醸し出す扉が見えてきた。


 何となく、あそこがこの女のいうお姉様の場所……かな……と思った。合ってたら嬉しい。



「……いいよ。キミの名前を……教えてくれ」



 何を格好つけてるんだ……


 後頭部を叩いてやってもいいが、少し距離があるのでやめておく。


 わざわざそのために駆け出して体力を使うのも馬鹿らしい。体力がもったいないよ。



「わたくしの名前はリュゼルスハイム・アミュ・ルィスティヒと申します。ルィスティヒ人形国の第四王女ですわ。以後、お見知り置きを」


「ルィスティヒの第四王女だって……? えっ、本当にそう言ったの? キミ。冗談じゃなく?」



 ディエルドと同感。王女だと……?


 しかも、同じ人形国の第一王女と来たよ。もし、そうなら何故にこんなところにいるというのか。


 ルィスティヒは隣国ではなく、それなりに遠い場所に位置している。


 行ったことはないが、少なくとも王女が護衛もなく一人で易々と移動できる距離ではない。


 地図を見れば、誰でもわかることだ。


 疑いの視線を向けていることにきっと彼女も気づいているが……それでも否定しない。


 それどころか、「間違いない」と付け足した。



「そう、何度も何度もわたくしのことを疑わないでくださいまし。もう、傷つきすぎて、わたくしの陶器のような心は粉々に砕け散りそうですわ……」



 嘘泣きをするかと思ったが、それはなかった。そこまでしたら、逆に嘘感が増すからね……


 本当なのだとしたら、リュゼルスハイムというようなので、一応そう呼ぶことにするか……


 呼び方を決めた……そんな場面でリュゼルスハイム(仮)は……



「えっ……ええっ……!?」


「如何です? 信じていただけますか?」



 リュゼルスハイム(仮)が取り出してきたのは何と……ルィスティヒ人形国の王家の者しか身につけることが許されないと言われる……指輪だった。


 私も、ディエルドも以前にこの国に王族の一人が来た時に、一度だけ目にしたことがある。


 間違いない……この女が盗んだのでないのなら、本当に……本当に女は王族だったことになる。


 王家の大事な指輪を簡単に他人に見せるようなことをしているのなら、ドン引きだね。



「わたくしが王族であるのなら、なんでこんなところにいるのか、気になりますわね?」


「あー……うん。気になるよー……」



 誰か見てよ……この国では中々の問題児で他人を困らせまくる第二王子のディエルドが他人形を見て、ドン引きしながら、無表情で応対する姿を……


 多分、私だけでなく……彼もリュゼルスハイムの答えに察しはついてるだろうな……



「追放されたのです! 何故なのかおわかりですね?」


「ああ。十分わかっているともよー……」



 力なくそう言う彼と何故か自信満々にそんなことを言っている彼女を見て私は……


 『ああ、やっぱりそうだったか』と強く思った。ディエルドもきっと思ってるよ……


 とんでもない女……それも王女ととんでもない場所で出会ってしまったものだ。


 そう思いながら、私とディエルドは視線をリュゼルスハイムからずらして……


目前のお姉様がいるとされる扉に向けるのだった。

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