23話【ドルイディ視点】ディエルドの……いいところ
久しぶりに手動投稿です。
二階は部屋の数が多くはなさそうだ。
廊下もそんなに長くなくて、糸を伸ばせば普通に奥に着くんだよね。
そして、扉がどこも閉まっている。
黙って着いてきてくれていた三人と顔を見合わせて頷いた後、私は糸をそのままに廊下を突き進む。
廊下を進んで、私たちは五分で奥の壁に到達。
「……ん?」
何か……形容しがたい違和感が……
ここは本当に奥なのだろうか……?
そこを試しに硬糸でつついたところ、壁がハリボテのように後ろに倒れていく。
そうして明らかになったのは別の階段。
「……なんかおかしいな」
「う〜ん? どこが……?」
ディエルドが疑問を抱いたようで質問してきた。
「いや、二階にいると思っていたけど、この『レーダー』は現在三階にお姉様がいると言っている」
「移動したという可能性は……」
「……ないと思う。いや、ごめん。根拠はないけど」
転移した……という可能性も捨てきれないが、きっとこれは……偽物の二階だと思ってるんだ。
この……不思議な屋敷ではありえることだ。
取り敢えず、私は上の階にこれまでと同様に利き手である右手で糸を伸ばす。
「えっ……」
そうして伸ばした糸がピンッと張った。
突然で……尚且つ予想外のことだった。
私の驚きは後ろにいた三人にも伝播していた。「どうしたんだ!?」という声が聞こえる。
えっと……何かに引っかかったわけではなさそうだ。もしかして……誰かが掴んだ……?
引っかかった時の感覚じゃない。何かが糸を掴んだんだ。人間か人形かは特定出来ないが……
「……っ」
引っ張ってみるが、こちらに引き戻せない。
張ったままだ。相手は馬鹿力の持ち主か……? それとも、誰かと協力して持っている……?
とにかく、いくら引っ張ってみようと……こちらに引き寄せることは出来なかった。
こうなると、切るしかないね。
私はその糸の切断をするために得意な闇属性の上級魔法の『強闇刃』で切断することにした。
中級で済ませられるんならそれがいいけど、硬くしたから多分それじゃ切断できないんだよ。
「……ドルちゃん」
「……なんだい……っ。今、私は……!!」
「いやさぁ、ここはオレがちょっと行ってくるとするわ。いいとこなしすぎるのも嫌なんでね」
「はぁ……?」
引き留めようとする私の肩に手を置いて、ディエルドは首を振ってきた。
そのディエルドを私は睨む。
別にふざけてるとは思ってないが……
しかし、ここで階段を上ることが現状危険なのは見てわかるはず。それなのに、私の制止を振り切って上にあがろうとしていることが腹立たしいんだ。
無理やりにでもこちらに引き寄せようと思ったが、そんな私の左手からの糸を彼は軽々とかわしていく。
普段なら捕まるだろうに、なんで捕まらない……!
「……危険なのはわかってっけどさ。これ以上、キミの糸を無駄にさせたくないんだよ。オレはさぁ」
「……」
「だいじょぶ。結界は張った。ちょっと糸を掴んでる奴の特定と、そいつから糸を離させるだけ。もっのっすっごくかんったんなお仕事だから。心配いらないよん」
貴方が私の体力をなんで知った気になっているんだ?
まだまだ作れる。余裕とは言い難いが。
誰も犠牲にしたくないという思いが、何故伝わらないのか。貴方は何なんだ……?
私は全力で走る。そして、彼の袖の裾をギリギリだけど、掴むことに成功した。
糸を出してない左手の方でね。
引っ張ろうとしたところで声がかかった。それはプララとラッシュのものではない。
私はディエルドと共に上階からかかってきた声の方向を見て……二人で同時に目を見開く。
「喧嘩はおやめくださいな」
「はっ……?」
女性だ。それも知らない……女性だね。
黒と紫を基調としたドレスを着て、陰鬱さを感じさせる目元の隈のような化粧が目を引く。
が、その反面……聞こえてきた声は大変明るく、高い。
階段にある残り香の持ち主であることはわかった。
そして、その右手に握られた私の糸で……彼女が糸を掴んでいた犯人であることも……
「……っ!!」
私はディエルドの服の裾から手を離し、階段を思い切り踏んで……そんな彼女に飛びかかる。
だが、彼女はそれを少し驚いた素振りを見せながらも、軽い動作でかわしてきた。
かなり素早いな。
……音が聞こえた。多分、ディエルドが階段から落ちた……のだろう。ごめん。
プララたちが彼に近寄る声を小耳に挟みつつ、私は右手の糸を左手の『強闇刃』にて切断。
今回は阻止されなくて成功だ。
「聞いておりましたか? 喧嘩はしたくないのです」
「……貴女がどう思おうが、知ったことではない」
「そうですか……」
「貴女はこの屋敷の所有主だね? この国の第一王女、ルドフィアお姉さ……」
あ、間違えた。お姉様だと言いそうになってしまった。
「……いや、なんでもない。この国の第一王女様がここにいると思うのだが……知っているね?」
それに対し、女性はとぼけるように両手を広げるが、その隙に私は糸で彼女の体を縛る。
思い切り、隙が出来ていたからね。
女性は縛られてしまっても「あらら……」と慌てる様子を全く見せずにそう言ってきた。
簡単に逃げられると思っているのかもしれない。
念の為、もう一つ硬めの糸を私は巻きつける。お姉様とリモデルを見つけるまでは解かない。
「ドルちゃん、酷いよー……」
ディエルドが階段を上がってきたようだ……
「ディエルド、無事だったか? ごめんね」
「結界張ったと言ったでしょ? だから大丈夫だけど……してなければ、どこか折っていたかもねー?」
「いや、本当に悪かった」
私は何か反撃をされることのないように軽く女性のことを確認した後、ディエルドに深く頭を下げる。
私が間違いなく悪いことはわかっているからね。
ディエルドはそれに満足した様子で「……別にいいよー。ただ、今度オレのために何かしてもらうからね」などと面倒くさいことを言うのだった。
まあ、出来る限りならやりたいという思いはあるから、私はそれに頷いておくんだけどね。
向き直ると……女性は言った。
「……貴女のお姉様は確かにここにいらっしゃいます」
詰問しようとしたが、どうやらその必要はなかったようだ。手間が省ける。
……それより、この女……私がお姉様と言いかけていたことに気づいてしまっていた……?
はぁ……失言してしまったよ……はぁ。
「なら、解放し……」
「しかし、簡単には解放することはできませんわ」
「なんだと……?」
私が糸の勢いを強めようとすると、女性は少し慌てた様子で言葉を続ける。
初めての慌てた様子だ。演技かもしれないが……
「監禁と言いましたが、ここに来たのは本人の意思ですし、未だ出ようとしないのも本人の意思です」
「……」
この女は何を言っているのだろう? お姉様が望んでこのような場所にいると?
お姉様を知らないとは言っても、もう少しマトモかつバレにくい嘘をついてもらいたいね。
バレバレだ。その上、腹立たしい嘘だ。貴女のそのくだらない嘘はね。
「解放することは構いませんが……それはこの館のとある部屋にて行うとある『遊び』を行った後にしていただきたいのですわ。それが終われば、貴女たちもこの館から返す気に……なるかもしれませんね」
「……戯れは自分一人でやってもらいたいな」
私たちを巻きこむな。
そんな私の怒りの思いに呼応するかのように私の頬を冷たい何かが通過していく。
それは剣のよう……いや、剣だ。
光の魔力で生成された剣……それは誰が生成したものなのかと視線を少し横に逸らすと……
そこには鬼気迫る表情の、ディエルドがいた。
「ドルちゃんの言う通りだよね。オレらや姉さんを巻きこむのは、やめてもらいたい」
「……っ、怖いですわね」
「その割には冷や汗も滲み出てないけど……だいじょぶ? 演技が下手なんじゃないかな?」
歯噛みする女のことを見て、私はフッと笑う。
ディエルドとほぼ同時にね。
笑いが同時であったために奇跡を感じて顔を見たのだが、その時にディエルドが口パクで……
『いいところ見せられたかな?』と伝えてきた。なるほどね。そういうことか……
「……今回ばかりはよくやってくれた。ディエルド」
「純粋な褒め言葉だよね? ドルちゃん。元気でるよ〜」
そうやってニヤリといつものように笑いながら……
片目をウインクする姿を見て、私は思わず頬を染めてしまっていた。
リモデルの姿と重ねてしまったからだが、これで彼に惚れてしまっていると勘違いされたくない私は自分の頬を隠しながら、後退していった。
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