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22話【ドルイディ視点】屋敷(館)に誘われし者たち

 人工の血の巡り……人工の心臓の鼓動……


 人間に近しい……私の体にある生を感じさせるものの動きが、私に入る勇気を失わせようとする。


 だが……


 入らないということは出来なかった。


 ディエルド、プララ、ラッシュ……この三人が……気づいた時には私の手を引いていたから。



「……っ……あっ」



 気づいた時には、屋敷の中……


 ……良かったのかな、これで。



「どうしたのぉ〜、ドルちゃん」


「そうなのだよ。突然にボーッとしちゃって……」


「大丈夫……なのですー……?」



 ……違うんだ。間違ってようと、後戻り出来ない以上は……『良かった』と……


 ……そう思うしか、ないんだ。きっと。


 私は首を振ると……



「……あ、うん! 大丈夫だとも……!」


「……」



 ディエルドはらしくない心配そうな表情と……無言で、私のことを少し見て……


 そこに心配は不要なのだという考えが滲み出てきたことを察することが出来たのか……


 一分後には、背を向けて元気そうな顔で屋敷の廊下をズカズカと歩んでいった。


 まだ待ってほしいんだけどね。屋敷の中にはちゃんと糸を張り巡らせることが出来てないから。


 私は慌てて糸を出して、それを開いている部屋に少しずつ入れていった。


 開いているといっても、ほんの少しで中はほとんど見えていないのだけれど……


 ……早く罠確認を終わらせたいから、糸は強く速く硬く……長さも十分なものにしている。


 だが、あまりに広すぎるためなのかどれくらい一生懸命に糸を伸ばそうと、終わってくれない。



「えっ……ええ……」



 それから、三分は糸を出し続けたが、一つの部屋も罠の確認をすることが出来ていない。


 ちなみに先にズカズカと屋敷に入っていったディエルドはその一つ目の部屋の近くの壁にもたれている。視界外に出る前に、途中で引き返したからだ。


 もっと先に行かないでくれたのは良かった。まあ、彼も危険だと思ってくれてるのだろう。



「どしたのよ、ドルちゃん。ダメそ?」


「あ、ああ……奥行きがあるようだ」



 実際は奥行きがあるどころじゃない。これは奥なんてないのではないか……そう思えてくるほどに、糸が部屋の全貌を掴むことが出来ていない。


 他の部屋もそうだ……


 これは一旦部屋の中を見てみた方がいいかもしれないね。少なくとも扉を開けてすぐのところに罠はなさそうだからさ。危険な目にあうこともない。


 プララとラッシュは……



「……後ろか」


「取り敢えず、待機していた方がいいと思ったのです」


「……思ったのだよ。なんか、危険そうな雰囲気だから、そうすべきだと思って」



 と言ってじっと待機してくれていた。


 ありがたいと思いながら、私はゆっくりと警戒心を抱きつつも扉を開かせていく。


 そこには……


 ……何も、なかった。正確には何もない空間が広がっていた……と言うべきかもしれない。



「こ、これは……全貌が掴めないわけだね」



 こんな奥の見えない無の空間。糸を伸ばしても、全貌が掴めるはずなどないよね。


 はぁ……無駄な体力と時間を使ってしまったようだ。


 入る前からこの屋敷からは異質な何かを感じ取れた。だから、普通の屋敷ではないと思っていた。


 でも、その予想を軽々と超えてきた。この屋敷は明らかにおかしい。不思議な屋敷だ。


 扉を閉じた後にプララとラッシュ……そして、壁にもたれるディエルドに話しかける。



「……この部屋はどうやら、何もない空間が広がっている。きっと、他の部屋もそうだ」


「他の部屋も同じよーに糸を伸ばしても奥に届かないからだよねー……? ドルちゃん」


「そうだ。そういうことだ」


「それでも、ここに第一王女様がいることが確定しているとなると、全ての部屋がその何もない空間であるとは限らないのだよ。疲れもあるから途中で回復などをする時間を適度に挟みつつ……糸を伸ばして色々な部屋を巡ってみることをぼくとねーたんは提案するのだよ」


「『レーダー』を見ると場所はそんなに離れていないのです。ちゃんと休憩を挟み、警戒すれば今日中には助け出した上でここから出られるはずなのです」



 プララとラッシュは言った。


 ……なるほどね。ちょこちょこ顔を見合わせながら話をしていたと思ったが、きっとその時に今のことについて詳しく話し合ってくれていたのだろう。



「ありがとう。良い提案だ。採用したい」


「オレもさんせ〜いだよーん」


「ディエルド、少し声が大きいかな」


「あ、悪い」



 ディエルドは少しだけ調子に乗ったようだね。声が大きくなっていた。


 ……言ってもまあ、響くほどではないがね。


 いつも話している時と同じくらいの大きさじゃなくて内緒話をする時の大きさで話してほしい。


 誰が潜んでいるのかもわからないのに、大声を出されたら見つかるかもしれない。


 だから、反省させて再発しないと思わせるよう、手刀を頭頂部にカツンと……


 ……優しく食らわせておいた。


 そして、その後に彼に『絶対に大声を出さない』とちゃんと言葉で誓わせたよ。うん。



「……うん」



 扉はどこも一応閉めないでおいた。


 閉めることで発動する罠がある可能性は取り敢えずまだ疑っていたからさ。


 私は取り敢えずどこの扉も微妙に閉めつつ、三人と共に屋敷の探索を開始していく。


 入口近くに階段があったが、そこの階段には罠が仕掛けられていることを確認済みだ。


 しかし、そこから知らない人形の……明らかに意図的に残された強烈な香りも感じた。


 きっと、この屋敷の所有主のもの。その所有主ならここはきっと通れるんだろうね。


 罠のなさそうな一階の部屋の探索を行い、別の階段を見つけることに成功したら、そこから上の階に行く。


 ……そうしていくことにするよ。


 警戒と休憩を挟みながらであったため、一階の探索は多分それなりに時間がかかった。



「そろそろ、四十分なのだよ」


「教えてくれてありがとう」



 時間経過をいちいち教えてくれるラッシュには感謝している。もちろん、警戒を怠らないでいてくれるプララや……一応、ディエルドに対しても。


 それなりに進んだが、どうやら扉の先にある何もない空間の部屋を除くと、一階は何人でも座れそうな食堂らしき場所と広間ぐらいしかなかった。


 罠が発動したのか広間の奥行きが途中から掴めなくなったので、広間の探索は奥まで出来てない。


 ただ、広間の入口に階段が設置されていることに気づけたので別に奥までやらなくていいと思う。


 良かったよ。


 私はそう思って少し喜んだ後、その設置されていた広間前の階段に糸を伸ばしていった。


 当然、罠の確認のため。



「……」


「……うん」


「あ、いい感じー……?」



 ディエルドが小声で聞いてきた。


 私はそれに頷いておく。



「そうだね。階段の上までは確認できたが、何も罠はなかったんじゃないかと思う。上がろう」



 この糸は硬くしてあるから、切れてしまって途中までしか探れてないということはないはず。


 私は糸を持っているのが自分だということで取り敢えず今まで通り先頭を行くことにする。


 プララたちから『ミツケラレーダー』を受け取って。


 嫌な予感がするということでディエルドが先頭に行こうとしてくれたが、拒否する。


 単純に善意でそう言ってくれているのかもしれない。それはわかっている。わかった上で……


 ここは技を使える私が先導するのが一番合理的であると思うから、断らせてもらう。


 これは、入口の時から変わらない考えだ。



「さあ、とっととルドフィアお姉様を助け出すんだ」



 リモデルのことも……ね。

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