20話【ドルイディ視点】アガプンスの花言葉
私は『ミツケラレーダー』を持って屋敷の周りをウロウロウロウロと回っていた。
その様子を見て……
「ぷぷ……」
「笑わないでくれ!!」
プララとラッシュ、どちらも笑ってるんだ。
いや、そんなにおかしなことじゃないだろ。
というか、貴女たち二人も同じことをしていたでしょ。なんで私が笑われる?
「ごめんなのだよ」
「ごめんなのですよ」
「はっはっ……って痛っ」
なんか、ディエルドも笑ってきた。
今度は頭をコツリと殴ってやった。いや、コツリだとかわいすぎる表現だな。ゴツンって感じ。
「なんでオレだけ?」
「乗っかる必要ないだろう」
「いやいや、でもあの二人も小突くぐらいするのが普通じゃない?」
「じゃあ、貴方はまだ小さくてかわいく……幼気なあの子供たちのことを殴れと?」
「殴れないね〜……」
「そういうことだ」
そして、私はもう一度殴った。
「ごめん」
「もう一度殴る必要があったか? なあ」
「謝ったよ」
「そういう問題じゃないがな〜……」
そんな茶番で時間をかけるのもよくないな。
一応、『ミツケラレーダー』に表示された点は少し危険を意味する赤点になってたわけだし。
そうして、屋敷の周りを何度も見て私は確かに中にルドフィアお姉様はいるということ。
そして、正確な場所まで見つけることが出来た。
「見つかったよ」
「よかったのだよ」
取り敢えず、この館は三階ぐらいまであるようなんでね。その三階を目指していくとするよ。
でも、その前にちょっと視界に入って気になったものがあったから、それを見てからにしようかな。
早く行きたいと思っていたが、この屋敷は一度入ったら出られないような気がするから、先に少しでいいから見ておきたいと……そう思ったんだ。
「……あれ、何故行かないのだよ? 出来たのだよね?」
「何故なのです?」
「何故なんだ?」
三人共聞いてきた。今回はディエルドは乗っかったと言うより本当に疑問に思ってそうだね。
ま、見てればいいって。私は指でそれを示して、三人の頷きによる納得を確認すると……
そこまで、歩いていった。
ここは庭であるから、花が咲いている。
その内の一つに……ちょうど朝に見た物と同じあの花……アガプンスがあったんだ。
ここに咲いているものは王城に咲いていたものと違って、通常の大きさ。
香りも含めて何もかも王城のアガプンスほどじゃない。
……けど、やはりアガプンスはいい花なんだと……そう思わせる可憐な見た目が頬の綻びに繋がる。
「……うん」
鼻腔に仄かに……香りが届けられる。
それがリモデルのことを思い出させてくれた。
私の恋人。愛しいと思う……ただ一人の人なんだ。
そんなリモデルのことを私は強く想っている。彼がここにいるのもさっきわかった。
この『レーダー』と貴方のその微かな香りを頼りに……絶対に見つけ出し、助けてみせるよ。
前に……地下空間で私を助けてくれたように。
「……今度は、私が助けるんだ」
拳をグッと握る。
「ねぇ〜……ごめん。そろそろ……」
「ディエルドも見なよ」
「……早く行こうって言ったのはどちらだよ〜……」
「何があったのかわからないが、『レーダー』に表示された点の色が赤から青に戻った」
少しぐらいなら、見ていても大丈夫だと思ったから、彼のことも呼んでみたんだ。
これはこれでとても良いアガプンスだから……
さっき、中庭の良さを教えてくれたこと……アガプンスを始めとしたたくさんの花々を私に見せてくれたこと……それに対するささやかな感謝だ。
「……心配ないってことだね。わかった。オレも見る」
ディエルドのその笑顔に不純はなかった。
彼が寄ってきた時にその香りが増したような気もしなくもないが、気のせいかな……?
私がやっていたのと同じように花に顔を近づけ、その香りを鼻腔へと向かわせる……
「……どうだい? いい香りだろう?」
「うん。心からそう思う」
「それは良かった。まあ、私が咲かせた花ではないが」
私が開花に導いた花ではないが、私が良いと思った花のことを……他者も同じように良い花だと……
……そう評価してくれたことが嬉しい。
だから……『良かった』と言ったんだ。
「……ねえ、ドルちゃん」
「……なんだい?」
「『花言葉』って知ってる……?」
聞いたことは……あるが……
「……よくは、知らないな」
「そっか。その花言葉ってのはどっかの誰かさんが花に付けた何かしらの意味がある言葉だよ」
何かしらって……そこ、ハッキリしてほしいな。
「名を知られてない恋愛夢想家が付けたもんだと思うから、多分探してもわかんないと思うよ。いくつか知ってるから紹介したげる」
「いくつか……」
この男は……恋愛経験があると、自分で言っていたけど……ここに来て本当に……
心の底からそれが嘘じゃないのではないかと……そう思えてきたよ。私は。
一つ目の花はアザリーア。これは『恋の喜び』という花言葉があるとディエルドは言う。
「いいね」
二つ目の花はズィギタリス。『熱愛』だという。
熱愛ということは情熱的な見た目をしているのだろうか。今度、城に植物図鑑があれば、それで探してみよう。ちょっと興味があるからね……
そして、その後も色々紹介され……最後にアガプンスの言葉について教えてもらった
このアガプンスという花なんだが、なんか実は色によって花言葉が違ってくるらしいね。
アガプンス自体は『恋の訪れ』という花言葉だが、青紫色となると『知的な装い』という花言葉も持ってるんだってね。なんで色によって増えるんだろうね。
疑問に思ったけど、そこまでは知らないとのこと。
他にもたくさん色によって花言葉が増える花を教えてもらった。これだけ考えられるの凄いね。
名も知られてない人物と言っていたけど、一体どんな人だったんだろう。会いたいな。
「それにしても、青紫色は『知的な装い』を意味しているのか。中々良い言葉だね」
「ドルちゃん……」
「ん……?」
「いや、ドルちゃんは『知的』って感じじゃないと思うよ……ってまた殴ろうとしてる?」
私が拳を振り上げると、ディエルドは戦きながら、青ざめた顔で後退していく。
よし、次からは余計なことを言ったら、これで怖がらせて黙らせよう。
暴力を振るわずとも、こうすればこの男のことを黙らせられるとわかったからね。
「……ディエルド、今度城で植物図鑑があったら場所を教えてほしい。ゆっくり読んでみる」
「えぇ〜……そこは『後で直接教えてほしい』でしょぉ……? なんでそうなるのさ」
不貞腐れてしまった。「ぶぅ」じゃないよ。
はぁ……じゃ、そろそろ行こうかな。
リモデルも……お姉様も随分と待たせてしまったんだ。急いでいかないと……いけない、ね。
「……いーけどねぇ。それじゃ、プララちゃんもラッシュくんもそろそろ行くから立って」
屋敷に寄りかかっていたプララとラッシュをちゃんと立たせるディエルドを見ながら……
私はアガプンスの花言葉を……リモデルが知らなかった場合に、教えてあげたいと思った。
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