15話【ドルイディ視点】寄り道のつもりだったのに……
モッチをその後、私は四個……ディエルドは六個食べた。
四個もまあまあな量なので、食べすぎだという注意をディエルドにするのはやめておいたよ。
他者のことを私は言えないからね……
「モッチを食べまくって満足したろう?」
「二回言わなくてもわかるって。寄り道はしないよ。てか、そんなに大食いに見えるかな〜?」
「見えるね……数年で大食いになったんじゃないのか? まあ、元からそれなりに食べてたと思うが」
「えぇ……」
逆にあれでそう思わない方がおかしいのではないかと私は強く思っているよ。
プララたちにも同意を求めようとするが、私は振り返ってギョッと驚いてしまった。
だって、何故か二人が目前にいたから。
「な、なに……?」
「ちょうど言いたいことがあるのですよ」
「あるのだよ。なんか寄り道はしないとか二人で言ってたけど、寄り道する羽目になるのだよ」
「寄り道を……」
「そうだよ。するのだよ」
「そっか。えっと、何故だろう?」
やはり、理由は聞いておきたい。
理由も聞かずに寄り道なんて出来ないよ。これが遊んでいるのならいいが、今はお姉様を捜して助けるという非常に大事な使命があるわけだからね。
「ちょっと……気になるところがあるんだよ」
「気になる……?」
言葉と共に二人の指は草むらに向けられる。
そこに視線を向けるが、別に何もなかった。私は何のことかとプララとラッシュに言おうとする。
ディエルドもだ。意味わからないものね。
だが、それを言う前に何か見知った香りと知らない香りを二つ……私は感じた。
「どういうこ……」
「ごめん、ディエルド。言う通りにしよう」
私が感じたのはリモデルの香りだ。残り香。それは草むらの先へと伸びている。
あの草むらは元々公園があった場所だね。城に近すぎるということで取り壊されたけど、草は未だにボウボウと生えてるんだ。実は魔物だと言われてる。
前に刈ったのにまた生えてるから……
ちなみに香りだけではなく、私は同時に悪い予感も覚えていたよ。
これは絶対に行かないといけない。彼が危険な目に遭っているかもしれないから。
ディエルドはリモデルのことを知らないだろうから、意味不明なようで困惑していたが……
私を含めた同行者三人が『草むらに行こう』と言い出したために、不服でありながらも頷いた。
三対一だったわけだからね。
「もしものために『ミツケラレーダー』の確認は怠らないようにね」
「わかってるよ」
それをプララたちじゃなくて、ディエルドが言ってくるとは思わなかった。
意外とちゃんとお姉様のことを考えてくれているのかもしれない。
私はディエルドに『ミツケラレーダー』を託し、彼にお姉様のもとに一人で行くように頼む。
「ごめん」
「いや、断るぞ。それは」
ディエルドはそれに納得しない。
『ミツケラレーダー』を受け取ることも同様にしなかった。私に向かって突き返す。
何度渡そうとしても頑なに受け取ろうとせず、首を振って別れることを拒んだ。
「オレは今、嫌な予感がしてんの」
「……」
「これはお前が何か悪い目に遭うかもしれない……そういう嫌な予感だよ。別れさせるな」
「……うん」
「オレも同行させろ」
今、何気に『うん』って言ったんだけど、浸ってて聞こえてなかったみたいだね。
私はもう一度「うん」と答えるが……
「お前が拒もうとしても、俺は……」とか何とか……いや、もういいって。
私は後頭部を引っぱたいて、その後に大声で……
「いいって言ってる!!」
「えっ……あっ、いいんかよ。いいの〜?」
「何回も言わせないでほしいよ……はぁ」
ため息をつく。
そして、いつの間にかトコトコと歩いて今にも視界から消えてしまいそうなプララたちを追った。
ディエルドの手を引きながら。
「おーい」
それから、二人に追いついたのは二分後。意外にあの姉弟速くてちょっと急ぎ目で行ったよ。
途中でディエルドが追い越したために、私は後ろの方だ。なんで追い越すかな……
私を守りたいという思いがあることを動作で印象づけようとした割に……ね。
守りたいんなら、最後尾にいてくれよ……
「はいっ。お二人共疲れが顔から滲み出てるんだよ。水あげるから感謝しながら飲むのだよ」
「あぁ、ありがとう。ラッシュ」
「本っ当にありがと〜。感謝するよ。ラッシュくん。この感謝は数十年……いや、未来永劫わす……」
「……ラッシュくん。ちょっとキャップを開けてくれないかな。少し固くてね」
「いや、遮るな。しかも、その大声わざとだろ!」
わざとだが?
私が顔で軽蔑の意図を露わにすると、ワナワナと震えるディエルド。ちょっと面白くなってきたな。
割とさっきから、私の視線とか発言に思い通りの反応をしてくれるから、助かるよ。
さすがに全ての視線や行動への反応が思い通りってわけじゃないけどね。まあ。
「……キャップが開かないのは本当だよ、意外と固いんだよね。何か理由があったりするのかな?」
「知らないねぇ。ラッシュくん、オレにも教えて」
「仕方ないのだよ。ただ、ねーたんが強く締めすぎた……それだけなのだよ」
それ、仕方ないって言うほど面倒くさい説明ではないだろ。四秒で終わったし。
それにしても、意外にプララは力があるんだな。そう思ったあたりでラッシュが「ねーたんが前に僕への悪戯で強く締めたのだよ」と付け足してきた。
なるほど。この姉弟間でもそのようなことが。
まあまあディエルドや私の他の迷惑な兄弟と比べて彼らの悪戯は城に迷惑がかからないからさ。
微笑ましいという感想が浮かぶね。
「あ、その飲み物貸して」
「渡さない」
「えー……」
私が考えごとしてるから取れると思ったか? 残念だね。ディエルド。
何を考えているかは知らんが、渡さないから。
そういえば、イディドルのことを思い出したが、あいつも何か変なことをやらかしていないだろうか。
懸念が増えて顔色が悪くなるのを感じつつも、私はとにかく貰える飲料をいくつか飲んだ。
そうして……草むらを抜けたのは三十分後。
私は見えてきた謎の大屋敷に感嘆の声を……
あげる私以外の三人……ディエルド、プララ、ラッシュのことを無表情で見つめながら考える。
ちょうど、ディエルドの持つ『ミツケラレーダー』が視界に入ったが、どうやらお姉様がいるのもここ。
「ふふっ……寄り道のつもりが、まさか目的の場所についてしまうとはね。驚きだ」
ここって前に聞いたけど、別の人形国から逃げてきた王女がいる屋敷だよね。
……リモデルがお姉様と一緒に監禁されているんじゃないかという考えがよぎったのでそれを振り払うと……
私は香りをもう一度嗅いでそれがリモデルのものだということを再確認すると、言った。
「入る?」
「うん、もちろん。入らない理由がないよね〜」
「よかった。怖気づかないよね。さすがに」
「あったりまえだよー……そりゃあさ……」
その後の問いにプララたちも似たように答えたので、よかったよ。
私は三人の答えに満足した後、屋敷の主に話を聞かれないように結界を展開する。
そして、簡易的な作戦会議を行うために、建物と距離を取っていった。
こんな明確に危険だとわかる場に入るのなら、作戦会議は必須だ。後で分断されたら出来ないし、もちろん後回しにするのはありえないよ。
私は『ミツケラレーダー』の点の色が青から赤に変わったことで更なる危機感を覚えながら……
即席で考えた自身の作戦を口にするのだった。
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