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13話【リモデル視点】ルィスティヒ人形国の第四王女

「……」



 ……あれ?


 まだ、何か……意識がある。手も動かせる。


 俺は……死んだんじゃなかったのか? 心臓を確かにあの謎の男に刺されたはずで……


 いや、でも、あの時に俺は心臓を刺されたにしては耐えられていた。それほど激痛じゃなかったんだ。


 ということは……先程のは幻で心臓を刺されたと俺が思い込んでいただけなのかもしれない。


 いや、急所を外れただけか……? その可能性も普通にあったよな。排除しちゃダメな可能性だ。



「……うん」



 グッパッグッパッと手を繰り返し開いてみるが、麻痺してない。足だってちゃんと動くな。


 内臓にも……痛みがない辺りきっと大丈夫なのだろう。


 それにしても、急所を外れたとしても、刺されたなら傷はあるはずだよな。出血も。


 どちらもないが、誰かが来てくれて治癒したとか?


 服をまくって自分の皮膚に触れるが、縫合した跡なども別になかったよ。一つも。



「……んー……なんか治癒してくれた感じではない気がしてるんだよな。断言は出来ないが」



 やはり、幻だった……?


 ……考えても仕方がないか。今、生きて動ける。それだけわかれば、今のところは大丈夫。


 目をこっそりと開けてみたが、辺りにさっきの男はいない。魔力だって感じない。


 その代わりに遥か遠くに香りを感じた。



「よし、どこかに行ったってことだな。これは」



 あいつは俺のことを殺したと思って、どこかに移動したんだろうな。まだ森の中にいるということは香りも魔力も動かないことからわかっている。


 離れてもいいが、また狙われたら面倒だし……ここで仕留めてやるとしよう。


 さっきあいつは奇襲してきたわけだからな。俺も同じように奇襲してやるよ。待ってろ。


 ……あいつも同様に幻を見せられたのだとしたら、違う敵がどこかに潜んでいるかもしれない。


 そこも気にしながら、俺は歩いた。


 結界はもちろん忘れずに展開しつつ……



「……いたか」



 香りと魔力は本物だったようだ。


 ……と思ったが、これも幻の可能性もあったりしそうだな。もう何が何だかわからない。


 俺が近づこうとすると、男は振り返った。


 ……勘のいい奴だな。


 すんでのところで木の後ろに隠れられてよかった。多分、バレていない。バレてないことを願う。



「……」



 あの感じだと、また城の周りを監視して誰か怪しい奴がいないのか確認してたんだろうな。


 ……熱心な奴だ。


 ……いや、意外にあいつも俺のように誰かのことを待っていたりしてな。それはないか。


 俺はそう思いながらも、生成した右手の糸を気づかれぬように奴の首に巻きつけた後……


 風をよりも速くという意識で奴の背後へ移動。



「……奇襲される側になったな」


「……生きてたのかァ……驚きだぜェ……」


「全然驚いてる感じじゃないんだが……」


「まあ、それどころじゃないんでなァ……」



 それどころじゃない……? 何が……?



「悪い。どういうことだ……?」


「見てみりゃわかる」



 男は俺の巻きつけた糸を左手で引きちぎりながら、俺の方を向いてそう言った。


 なんて奴だよ……!


 そして、俺の腕を掴んで引き寄せてくる。


 外がよく見えるようになったので、「なんだよ……」と愚痴を吐きつつも男が指差す先を見る。



「……えっ……あの女がどうした?」



 奇怪な格好をしているが、変なのはそこぐらい。他に変な点は見つけられないが……


 ちなみにその格好というのは紫と黒を基調としたフリルの多い生地の厚そうなドレスである。


 日差しが眩しいこの時間帯には不釣り合いだ。物凄く暑そうに見える。よく着られるな。



「……わかってなさそうだなァ……」


「ああ、全然わかってないよ」


「はっ……見込み違いだったかァ……まあ、いい。説明してやるから耳かっぽじって聞きやがれ」



 その特徴的なドレスと陽光にも負けない煌めきを放つ金髪、そして笑うと裂けがちな口。


 そんな特徴の人間……いや、人形は一体しかいない……らしい。この横の男が言ってる。


 ……知らないな、そんなこと。


 まあ、人形であったことはもう一度よく見てみた時にあまりの笑顔で口が裂けていたからわかったよ。笑いで口が裂けてる人間なんていないだろうし。


 いや、まあ異常な人間もいることをトムファンたちのおかげで知ったから……


 世界中のどこかを捜せばいるのかもしれないが、まあ、人形感が出てるし、やっぱり人形だろ。



「……そんな凄い奴がこんなところにいる。それだけで異常事態だと思わねェのかよォ……」


「いや、まあその王女様自体知らなかったしね。存在を。知っていたら、異常事態だとわかったよ」



 彼女の名前はリュゼルスハイム・アミュ・ルィスティヒというっぽいね。


 オトノマースと一緒で人形国と呼ばれるオトノマースの次に大きい人形の国……ルィスティヒ人形国の第四王女で、同時に問題児だったという。


 問題児なことも、言わずとも雰囲気とあの自由奔放な感じから、わかるな……はは。


 王女様なんだとしたら、かなり失礼だからこの発言は本人に対してするつもりはないよ。



「……もしかしてだが、あの王女とやらが俺や君に対して幻を見せていたのかもな」


「幻だとォ……? こんな時にまだ馬鹿なことを言ってやがんのか、てめぇはよォ……つまんねェんだよ」



 無視すると「とち狂ったのかよォ……」とか追い打ちをかけるように言ってきた。


 ふぅ……そうかよ。



「俺が死なずにいれたのは君があの一瞬に幻を見て、短剣を心臓に突き刺したと思い込んだためだと思ってる」


「……はァ……確かに死んでねェようだが……」


「ま、信じてくれなくても構わないがな。絶対に幻だったと証明ができるわけじゃないし。それより、怪しいなら追った方がいいんじゃないか?」


「そう言ってる間に城にでも忍び込むつもりなんじゃねェのかよォ……? 騙されねェぞ」



 ……そう来るか。うん。


 俺は城の方を見ていた不審な人物だと思われてるんだもんな。そりゃ、そうだよな。


 俺は少し思案した後、浮かんだ言葉をそのまま言う。



「……あの女のもとには行ってみるが、城には入らん。また殺そうとするなら、すればいい。幻など見せられていなくとも、もう君の攻撃は当たらんさ」


「……じゃあ、攻撃しないでやるからよォ……着いていかせてもらうぜェ……こっそり向かおうと思うなよ?」



 そんなこと、思うわけがないっての。


 ……って言いきれないけどな。さっきみたいな幻を見せられて、いつの間にか城に入ってしまっていたということもありえなくはないだろうから。


 まあ、そのために結界は二重にしておくよ。


 俺は男にもわかるように結界を重ねて展開すると、リュゼルスに向かって忍び寄っていく。

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