11話【ドルイディ視点】プララとラッシュ
私の馬鹿な兄は私が立たせる気がないということがわかると、スックと自分で立ったようだ。
……不服そうにしながら、私の後に部屋に入る。
「もう一度言おうかな、ようこそなんだよ。二人とも」
「ようこそなのです。わたしたちの人形工房へ」
想像していた工房とは違うのだが、確かにこれは普通の部屋とは言えない。工房だ。
私は人形を作るための道具などを置くための棚と人形製作に使う机と椅子ぐらいしかない部屋だと思っていたんだよ。私の製作者の部屋はそうだったし。
昔はそれ以外にも色々と必要だったりしたけど、人形製作技術が発達した現在ではそれくらいしかなくても割と人形を作れたりするのだ。
まあ、彼女の部屋は技術が発達してきた時代より前から同じなようだけどね……
お父様から彼女が亡くなった時に聞いた。
「……うんうん」
この部屋はそれだけでなく、魔力庫とか道具庫もあり、多すぎた人形を仕舞うための特殊な棚もあるようだ。更に壁や床のデザインも凝っている。
様々な木材を使用して、それらで格子模様の壁と床が作られている。木のいい香りが鼻腔をくすぐる瞬間に目を閉じると、まるで木に囲まれてるよう。
「……本当にいい部屋……工房だね」
「ありがとう」
これでそよ風が吹いていて、仄かに草の香りも感じられれば、もう森って感じだよね。
そうする気があったら、出来ないこともないだろうね。この二人は。
本当に先程見た人形たちを作っているのであれば。
あれらは本当によく出来ていたからね。いつか作り方を教えてもらいたいな。
まあ、今は用事があるから聞かないけどね。
「……それで、用事は何なんだよ? ぼくもねーたんも早く話してほしいと思ってるんだよ」
『ねーたん』って言うのはお姉さんのことだろうか。呼び方が非常にかわいいね。
先程の驚かせようと死角に隠れていた時も思ったが、この子たちは子供らしいあどけなさの残るかわいい姉弟だ。私も『ねーたん』って言ってもらいた……
ダメだな。言おうとしてたことがあるんだった。
「私たちは第一王女のルドフィアお姉様を捜そうとしているんだ。見つけるために必要な道具と技術を貴方達は持っているのだとそこの愚兄から聞いた。それが本当で何かあれば、教えてもらいたいのだが……」
「待て待て、愚兄って……」
「なるほどなのです」
「なるほどなのだよ」
私が急いでいることがわかったのか、プララもラッシュもディエルドの言葉を無視する。
うん、まあそれでいいよ。
「確かにぼくたちは人形以外も色々と作ってるから捜すための道具も持ってるけど……」
「条件を飲んでもらえないと渡さないですよ」
「条件……?」
「そーです。じょーじょー条件」
条件か……その条件がどんなものかによるな……
私がそのことを伝えると……「じゃあ、話していくのだよ」とラッシュが言ってきた。
「あ、ちょっと待って。それがどんな道具か一緒に教えてもらえると嬉しい。もちろん、その時に実物も出して」
これでルドフィアお姉様が見つけられない道具を渡されたら、困るからね。
どんな物なのか一度見て、そしてどのような使い方をする道具なのか知っておきたいんだ。
なんか、それまで無言で聞いていたディエルドが『うんうんうん』と頷いていた。首振りすぎ。
「これなのだよ」
「これなのです、『ミツケラレーダー』」
取り出されたるは丸い形の何か……この部屋が格子模様なのと同じで格子模様……(?)だ。
格子が好きってことなの?
その格子模様の端の方に何やら赤い点が……
「この赤い点が第一王女様なのです」
プララが説明してくれた。
なるほど。この赤点を辿ればお姉様を見つけられるということなんだね。
ラッシュが後から説明してくれたけど、以前からこの二人はこういう時のために王族の部品などに細工をして、いつでも捜せるようにしていたとのこと。
許可をしたのはお父様のようで……なんと、夜中にやっていたらしい。なんてことをしてるんだ。
夜中なら寝てるからってことだろうね……
ちなみに健康状態に関しては『レーダー(?)』の側面にある五つのボタンの色でわかるとのこと。
「緑が『安全』、青は『取り敢えずは安全』、赤が『少し危険』、紫が『凄く危険』、朱色が『物凄く危険』なのです。最後に関しては命の危機とかなのです」
命の危機とか……もう壊れる寸前ってことかな。
それで……今は『青』……なのか。側面を見たけど、青で間違いないね。よかった。
『取り敢えずは安全』……どういう状態なんだ? それもわかったらいいが、難しいよね。
取り敢えずは無事だということがわかったことを喜ぶとしようかな。心の中でさ。
「このように『取り敢えず』は安全だし、場所も近いところだからすぐ見つかると思うのです」
「ありがとう、プララ、ラッシュ」
「それほどでもないのです!」
「それほどでもないのだよ……」
照れる姿がかわいいから、何度でも感謝をしたくなる。どこかの兄とは大違いだよ。
あの人形には感謝をしたいと思えることが基本的にはないからね。
私はなんか無視され続けて『つーん』とむくれている兄を見て、そう思っていたよ。
「あ、それで遅くなったのだけど、条件を話すのだよ」
「ラッシュが得意だから、今後はラッシュに任せるのです」
ラッシュは説明が得意なのか……まあ、さっきからよく喋っているのは彼の方だからね。
プララも別に口下手という感じはしないけど……そうか。いやまあ、なんでもいいが。
私とディエルドが待ってると、ラッシュは人差し指を立てて得意気な感じで……
「まず、一つ目! ぼくたちを一緒に連れて行って、後ろでレーダーを使っているところを見させてほしいのだよ。後ろっていっても、遠いところで」
「わ、わかった」
「なんか悪いところがあったら、後で教えてほしいんだよね。すぐねーたんと直すから」
すぐ直せるのか? 道端で。
道具と材料を持っていくということだと思うが、道端で直すのは至難の業だよ。
それが出来るのは凄い。
「二つ目!! ぼくたちに第二王女様と第二王子様の整備をさせてほしいんだ!!」
「えっ……いいけど、なんでかな……?」
人形を作るとか言い出すと思ってた。まさか整備したいなどと言い出すとは思ってなかった。
まあ、それでも自分の人形を整備するとかならまだわかるよ? 私たちを整備したいと……確かにこの子たちは言ったからね。聞き間違いじゃなければ。
「姫型自律人形と王子型自律人形はそれだけで特殊なんだけど、王女様と王子様はその中でも特にって感じだから。特殊の特殊!! っていう」
「ちょっと何言ってるかわからない」
お姉様が危険な状態……
つまり、『ミツケラレーダー』が危険を示す『赤』か『紫』か『朱色』だったら、待つ気はなかったけど……今は『青』で安全だからね。いいよ。
私はディエルドに対して視線を向けて構わないか確認した後、彼と一緒に頷いておいた。
「そうだねー……整備は十分くらいで済むと思うんだよね。それで大丈夫なんだよね?」
「大丈夫だよ」
「あー、それならよかったんだよね」
二人は同時にフリフリとこちらに対して感謝の礼と思しきものを繰り返してくる。
そうしたかわいい感謝の後、二人は元気よく笑いながら「聞いてくれてありがとなのだよ。もう聞いてほしいことは終わり」だと言ってくれた。
元気なことはいいことだね。
「じゃあ、早速整備を……」
「あ、ちょっと待ってほしい」
「質問なのかな?」
「そう。質問だ……ダメかな?」
作ることはもちろんいいのだが、そちらに見惚れてしまって聞きたいことを忘却したくないのでね。
別に物凄く聞きたいことというわけではなかったから聞かないでいいと思ったけど……お姉様はまだ安全な状態であるようだし、聞こうかなって。
「いいんだよ。何でも聞いてほしいんだよ」
あ、許可もらえた。ま、十中八九もらえると思っていたから、予想通りだったよね。
私は息を整えると、口を開く。
「この部屋って……本当に前からここにあったのだろうか?」
「……?」
首を傾げられちゃった。しかも、片方ではなくプララとラッシュのどちらからも。
傾げた後に顔を見合わているね……
「……」
私の質問はこの子らにとって予想外だったかな。
予想外だったから答えられないってことになったら、嫌だな。でも、答えられなくても責められないよね。
だってかなり奇妙な質問だものね。
理解できないと思われても仕方ないが……
「うんうん……ま、そう思うよね?」
「ごめんね。わかりにくい質問だっただろうか?」
「いや、そんなことないんだよ。これに関してはねーたんに説明をお願いしようかな?」
「わかったのですよ」
ねーたん……ではなく、プララは「こほん」とわざとらしさの漂うかわいらしい席をすると……
同じくかわいい声で言った。
「あの、第二王女様」
「……なにかな?」
「わたしたちがなんで『ミツケラレーダー』みたいな人形と関係のない物も作れるのか知りたくないですか? ちょっと言いたくなってきたのですよ」
ああー……それも知りたいね。
知っておいて損のないことは基本的には全部聞いておきたいよね。損なら聞きたくないけど。
私は二人が椅子を用意してくれたので、それを横のディエルドと共に座ると……
プララからの説明をゆっくり聞くのだった。
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