56話【リモデル視点】結婚に向けて……
二十時に投稿するつもりだったのに忘れてました……
次回、一章最終回です。今日の二十二時十七分に投稿します(忘れなければ)。読んでいただけると嬉しいです。
「……楽しかったな」
城から出た後に私たちは二人で城下の街の色々なところを二人きりで散歩した。
そして、歩き疲れて二人で一緒に眠っていたのだ。
そのため、今は次の日の早朝なんだよね。午後の六時に帰ってきたから九時間は寝ているかな。
まだどこの家も明かりなどついていないが、太陽は出ている様子なので、俺はカーテンを開けて陽射しを浴びる。こうすることでスッキリとするからな。
家の中にあった使ってない空き部屋を寝室として、使っているんだ。ここにはカーテンがあるし、スペースがあるから大きいベッドも置けると思ってね。
結果は成功。ドルと一緒に寝たいという願いも成就したので、今は大変に気分がいいよ。
「……はっはっ」
俺は横で気持ちよさそうに寝息を立てる彼女の顔を覗こうとした。
その時に彼女の手に握られた物が俺の視界に入ってきて、思わず笑ってしまったんだ。
……もちろん当たり前だが、これは嘲笑とかでは決してないよ。喜びの笑みだよ。
「持っててくれたんだ。ありがとうな」
俺が出会ったばかりの頃に調香室であげた花のブローチと香水を何故か握りながら、眠っていたんだ。
一緒に寝ていたのに気づかなかったよ。
ブローチはともかく、香水まで持っているとはね。あんまり握りすぎると入れ物が割れてしまうぞ?
「よいしょ、と……それじゃあ、行かないと」
俺は彼女の掛け布団のシワを軽く伸ばした後に、貯金していた金を袋に流し込んでいく。
買い物に行くんだ。買っておきたいものが出来たから。
家具とかなら、ファルに任せてもいいんだが、これは俺が自分で買うべき物だと思うんだ。
貯金用に作った箱を壊すことにも躊躇いはないね。
俺は部屋の扉を閉めると、階段を降りながら買いたい物について考えを巡らせる。
「……どんな指輪がいいだろう」
照れくさいから、こっそり買おうと思っているんだ。
もちろん、指輪というから……わかるだろう? 婚約指輪だよ。結婚するなら、必要だろう?
貯金をみんな持ってきたから袋は物凄く重い。
耐久力を魔力を纏わせることで増やさないと、多分途中で破けて床にぶちまけられるほど。
でも、妥協はしたくない。彼女のためなら、惜しまずに使ってみせるさ。いい物を買うぞ。
俺が向かう予定でいるのは、この国の中で最近になって有名になってきたとある宝石商の店だ。
宝石商であるため、売り物は宝石が中心なのだが、その宝石をあしらった装飾品なども売り出し始めたとか。
ファルが実は教えてくれた情報なんだよな。あいつは事前の情報収集が俺より得意だからな。
「ファルには感謝しないとな」
あいつは今頃、どうしているんだろうか。家の全ての部屋を確認してないからわからないが、帰ってるか……?
ま、いいがな。
俺は家の扉を閉めると、紐を地面に向かって下ろした。それを伝って下まで降りるんだ。
無事に降りられた俺は宝石商の店まで……軽快に駆けていく。朝だから、人が少ないし駆けやすい。
「この宝石店のいいところは早朝からでも開いているところだな。最高と言っていい」
まだ入ってないけど、早朝というタイミングで営業しているというだけで印象は悪くない。
あ、もちろん早くから働き始めるということがいい店の条件だとは思ってないからな?
もし、品揃えが悪かったり、気に入った物がなかったら、もう一つ紹介してもらったところに行くつもりなんだが、面倒くさいからそれは嫌だな。
いい物があることを望んでいるよ。
ちなみに昨日の帰り道でドルイディには好きな色については確認しているよ。青らしい。
何でも喜ぶとは思うけど、出来るなら好きな色の物をあげたいと俺は思っているんだ。
……あの花のブローチを気に入ってくれているのなら、橙色とかでもいいんだろうけどな。
「……ファルの説明通りなら、ここだな」
かなり速く走ったから、着くのも早い。
外観から洒落た雰囲気が出ている。宝石店といったから、店の壁には宝石などが飾られているのかと思ったが、そんなことはない。入りやすそうでいい。
扉には営業中と書かれた札がぶら下がっていたが、俺は取り敢えずノックしてみた。
すると、返事はあったのだが……
「えっ……なに……えっ!?」
俺は扉を開け、店の中を真っ直ぐに歩く。周りを見たりはしない。見ようかとも思ったけど……
少し……少し……気になったんだ。ものすごーくよく知っている声が……中から聞こえたから。
「……なぁ……聞いていいか?」
「なんだい? リモデル」
「イディドル……ファルはどうした?」
「逃げてきた。お茶を飲んだ後にね。あの後にファルは私にお茶を飲ませてくれたんだよ」
俺はため息をつきながら、頭を抱えた。
危害をもう加える気はないと言ったけど、この感じなら信用が出来ないよ。
「君は本当にドルイディの複製人形なのかよ」
「……見ての通りだ」
「見た上で本人と全然違うから言ってんだよ……」
……折角来たのに、ため息をつきながらこんな女と駄弁っていても仕方がないな。
俺は取り敢えず、一切彼女には反応しないで、良さそうな指輪を探していくことにした。
イディドルが「ここから先は独り言だから……」と言った後にオススメの指輪を言ってきたけど、もちろんそれに対しても反応はしない。参考にはするが。
彼女なりの好意だということは通じたし、こんなんでもドルイディの複製人形だから、好みについてはある程度わかっているだろうしな。
候補が色々と出てきたが、無事に決めることが出来た。イディドルにも一応礼を言っておくか。
反応しないようにしようと思ったけど、選べたのはイディドルのおかげでもあったしな。
俺はそう言って彼女に感謝を伝えようとするのだが……
「いつの間に……」
……姿を消していたので、それは出来なかった。
代わりに簡単な置き手紙。そこには『わかっていると思うが、ドルイディはどんな指輪でも喜ぶよ。それが貴方の渡したものならね』と書いてある。
筆跡……ドルイディの筆跡は見たことないけど、ここも同じだったりするのかな。
俺は「助かるよ」とボソリと言うと、その置き手紙をポケットにしまって会計することにした。
……まあ、会計と言っても店主が寝ているので、俺はお金を置いていくだけだが。
「ここでいいよな……」
わかりやすいところに置いてあるから、店主も気づくはずだ。本当はちゃんと買いたかったがな。
……置き手紙の端の方に書いてあったが、店主のことはイディドルが話すのに邪魔だから眠らせたらしい。なんてことをしているんだ、と思ったよね。
代金を机に置いた後、指輪を見ながら店の中をぐるりと見渡そうと思ったところで……
俺はその指輪を渡そうと思っていた人形……つまり、ドルイディにバッタリと出会った。
「リモデル……もしかして……」
「……ドル」
……何も言わなくてもわかる。
これはイディドルが連れてきたんだ。あの女はなんてことをしてくれるんだ。
渡す場所も一応、俺なりに考えていたんだがな……
……すー……まあ、いいんだけどな。場所も大事だが、渡し方の方が大事なはずだから。
「……少し、気が早いんだが……婚約指輪だ。どうか、受け取ってはもらえないだろうか?」
「婚約……指輪……?」
「そうだ……ダメか?」
「いや、好意は嬉しいんだけど……これは受け取れない」
え……何故だ……?
俺への好意が薄れた……ということはないと思うんだ。
自分がイケメンだからだとか、そんな驕りでそう思っているわけじゃない。
彼女はすぐに軽い気持ちで他の男を好きになってしまうような女ではないと、そう思っているから。
……しかし、落ち込むな。
落ち込んで指輪を持ちながら、下を見る俺に対して、ドルイディは慌てた様子で……
「か、勘違いしているかもしれないが……好きじゃなくなったわけでも……いらないわけでもないんだ……」
「……それなら、どうして?」
「もっと……手順を踏みたいというかね。申し訳ない。ワガママな女だと思うが、許してほしい」
……なるほど。そういうことだったか。
俺の『安心』は表情と肩の脱力で伝わったんだろうな。ドルイディは少しだけ笑顔になる。
彼女は気づいてない気がするけど。自分の表情に。
「わかった。じゃあ、これはもっと後に」
「……うん。その時が来たら、受け取りたい」
申し訳なさのためか、小さめの声……
だが、礼儀を重んじてくれたのかちゃんと俺の顔を見て、そう返事してくれるのだった。
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