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55話【ドルイディ視点】家に帰ろう

 引かれた取っ手……開く扉……


 その向こうには見慣れた顔……は別になかった。



「あれ? 誰もいないじゃないか……?」


「え、いやおかしいだろう……そんなわけ……」



 リモデルによると、魔力だけ感じるとのこと。


 ……なになに、ここにそんなに隠れるところあるかな。


 壁に隠れているわけないよね……? ファルってそんな力を持っていたっけか。



「土属性の魔力で上手く壁や床に擬態してるとか?」


「あー、それなら、ありそうだね。リモデル」


「放置して怒ってるんだろうな……面倒だが、見つ……」



 ため息をつきながら、壁に手をつこうとしたところで……私とリモデルの背中に何かが触れる。


 それは何かの触手のようで、背中がこそばゆい。



「ひっ……」



 もちろん、そんなものに触れられたわけだからね。ゾッとしてしまって、私とリモデルは同時に硬直する。


 やはり、また誰かがいたとか……?


 ありえないこともないよね。今まで隠れて出てくるのをうかがっていたのかも。


 リモデルがファルの魔力と勘違いしていたから、魔力を似せる能力か何かなんだろう……か……?



「って……ファ、ファル……!?」


「やーっと、気づいたねー……」



 天井から蔦でぶら下がって、そこから更に右の手のひらを使って蔦を射出してきたようだ。


 中々に面白いことをやるものだ。


 話を聞いたが、どうやら土属性の魔力を天井の材質に似せて自身の姿を隠していたらしいね。上を向いていたとしてもバレなかったと思われる。


 一瞬腹も立ったし、気持ち悪さも感じていたが、そのまさかの発想に笑わされたので、私は許す。


 まあ、許す……というか、私たちは許される側なんだけどね。今まで放置していたわけだし、謝らないといけないんだ。それはリモデルも思ってるっぽい。


 ……私と一緒に頭を下げたからね。



「ごめん、ファル」


「俺もごめん、ファル。この通りだ」


「……いや、まあ……そこは許す」



 『そこは』……? なにそれ、『そこ』とは?


 他に許さないことなんてあるのだろうか。それを考えるために脳を回そうとしていたところ、私の後頭部にファルが軽めの手刀を食らわせてきた。


 何をするのかと言おうとしたところで、リモデルにも同じようにやろうとする。


 リモデルは速いから失敗してたけど。



「僕がまだ怒ってんのはな……僕が放置されて城の中をメイドやら執事やらから逃げ回っている間に……お前らがいつの間にかなんかいい雰囲気になってるからだよ!!」


「あ、そっ、そうなのか……すまない、ね」


「悪かったな、ファル。あの時ちゃんと連れていっとけばよかったんだよな」


「くっ……こいつらぁ……っ!!」



 私たちが謝ると、何故かファルの怒りは解消されることなく、それどころか更に増しているように見える。


 大丈夫かな。茹で蛸のように顔が赤いんだが……熱を出したようにも見えてるよ。


 疲れてるし、本当に熱を出してる可能性もあるね。



「ファル……熱があるなら、ゆっくり休んでもいいんだぞ? 本当に悪かった」


「これは熱があるとかそんなんじゃ……ってうわぁ!? 執事……しかも、あの……中庭の……!?」



 どんなタイミングだよ……


 なんかわからないが、私とリモデルのことばかり見ていたのかペルチェが見えてなかったらしい。


 ペルチェが見えた途端にそれまでの表情が一気に崩れ、暗殺者でも目にしたかのように逃げる。かわいい。



「……えっ……ちょ、ドルイディ、リモデル……お前たちなんでそんなに平常心なの?」


「……あ、うん」


「何があったんだよ……僕と別れてからさ」



 困惑と驚愕と恐怖……それらがいい具合に混ざり合った感じの面白い表情……


 見ていて笑いそうになりながらも、それを堪えるために口元を隠して私は話した。


 地下で様々な事件が起きたということ……そして、それらは全て解決できたと思うから、もう帰るところだったということ……マオルヴルフたちのことも話そうかと思ったけど、長くなるかと思ってやめた。


 ここはまだ城内だからね。城内を知る私とペルチェが人気の少ない道を先導してるから、多分大丈夫だとは思うけど、もしも聞かれてしまったらまずいし。



「……はっ……まあ、そっちも苦労してるってのはわかったよ。でも……なんかもう……それは何?」



 ファルが示すのはどうやら、私の複製人形のことのようだ。複製人形を知らないってことかな。


 私は複製人形のことを知らないのかと思って、その説明をしてみようとするが、何故か嫌がられる。


 なんでだよ。知りたそうにしているように見えたから、説明しようと思ったのに……



「違う。僕はそいつと一回会っているからな」



 一回、会っている……?


 え、ということは……私の複製人形はずっと地下空間にいたわけじゃないんだね。


 知らなかったよ。なんでファルと会っていたんだろう。何か失礼なことをしていないといいが。



「……僕はそいつに酷い目に遭わされたんだ。恥ずかしいから、詳細は言わないでおくがな」



 ……ダメだったか。失礼なことをしていたようだ。


 私の複製人形だし、私が謝ろうかと思ったけど……彼女に謝らせるべきかな。


 その方が彼の気も晴れるだろうしね。


 私は複製人形のことを地面に降ろそうとしたのだが、何と彼女は自分から私の背中を降りた。



「……えぇ……いつの間に起きたんだい?」


「今だよ。本物のドルイディ?」



 生意気な口調だ。なんで私がいない間にそんな口調をするようになってしまったのか。悲しいね。


 彼女が私が何もしなくても、こうして自発的に動いてくれることは喜ばしいことだが、他人に迷惑をかけるようなら、それは看過できないよね。


 私は問い質すために彼女が着ている外套のフードを掴もうとするが、するりと逃げられた。



「なっ……」



 トムファンになんかされたわけだから、彼の影響を受けてしまっているんだろうな……


 逃げ方がまるで彼のようだ。すばしっこい。


 こちらに見せてくる表情も心做しか面影を感じる。最悪だよ。私と同じ顔があいつを思わせる顔をしているんだから。私の複製人形なのにおかしいよ。



「はぁ……」



 私がため息をついたところで、複製人形の動きが止まる。


 ……いや、止めさせられる。


 怒りのファルが彼女を壁に追い詰めたからだ。これも『カヴェ・ドーン』か。


 まさか、また短時間で見れるとはね……



「……『イディドル』と呼んでよ、みんな」


「おい、無視すんな」


「貴方のことはどうでもいいよ、ファル。今は話さないでもらえるかな? うるさいんだ」


「……っ!」


「それより、いい名前だと思わない? 『イディドル』。略して『イディ』と呼んでもいいよ」



 複製人形と呼ばれるのが嫌だったらしくて……名前を自分で考えていたようだ。


 中々にかわいいところもある。少し部品を弄って元に戻すことも考えたが、やめよう。


 なんか、可哀想な気がするからね。


 それに、彼女はもうこちらに対して危害を加えることはないと自分で明言したんだよ。


 ……カコイ神の名も持ち出していたから、まあ嘘はついていないと思っていいだろう。


 私が彼女のことを『イディドル』と呼ぶことを決めると、ファルが唐突にこんなことを言い出した。



「イディドルは僕と一緒に帰ろう。ラプゥペも」


「え、なんで……?」


「先に持って帰ってやるってだけさ」



 そんな理由じゃ納得出来ず、本当の理由は何なのかと聞こうとしたのだが、「……少しだけやりたいことがあるだけ。ドルイディやリモデルは気にしないでいい」の一点張りで聞こうとしてくれなかった……


 そのまま二人のことを脇に抱えて、城の中をそそくさと走っていった。盗っ人のようだ。


 やりたいことが何なのかも気になるが、ちゃんとファルは出口がどこなのか把握しているだろうか……


 地味にそこも気になっているというね。



「……やりたいことがあるというのも嘘で俺たちを二人きりにさせるためにやってくれたのかもな」


「……なるほ……ってまだペルチェがいるけど」



 横にこうして……ってあれ?


 ……いつの間にか、いなくなっている。そう思って見回していると、遠くに見慣れた執事の背中と……その執事と手を繋ぐメイド……マルアの背中が見える。


 仲良しだな、あの二人。たまーに、顔を見合わせて笑っている様を見るだに。


 ペルチェが挨拶もせずに去るとは思えないし、きっとルアが無理に連れていったのだろう。


 オドオドしている子という印象だったから、意外だった。あ、悪いってことじゃないよ?


 マルアの晴れやかな笑顔とそれを見て苦笑するペルチェを遠距離で捉えた後、私はリモデルを見て……



「さっ、私たちも帰ろうか」



 ……と言った。



「……そうだな」



 返事をしてくれたリモデルと廊下を歩く。


 出口までは別に道さえわかってれば、そんなに時間がかからないからね。


 ささっと歩いてささっと城を出てしまおう。


 緊張感のある城内より、自由を感じられる外の方が、リモデルと歩いていて楽しいと思うからね。


 私はペルチェたちがやっていたように……ただし、それよりも強く優しく……リモデルの手を握った。

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