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54話【ドルイディ視点】後悔が残らないように……

 マオの横を通りすぎる途中にリモデルから聞いた。


 どうやら、この地下空間の他の一室にも同じような布団があったとのこと……



「……だから、多分あの布団もあいつが持ってきたんだ」


「な、なるほど……謎が解けてよかったね」



 ずっと頭の中で燻っていた疑問の答えが……マオルヴルフの一匹が寝るために用意したものだとわかり、リモデルは何とも言えない表情をしていた。


 いや、そうなるよね……


 私だって……同じ物を前に見てたら、きっと同じ表情をして同じことを思っていたと思うよ。


 ぐっすりと眠るマオのことを見て、私は彼に抱いた騎士のようだ……という感想の撤回を決める。



「悪いが……こんな状態を見て、そう思えないし」



 騎士らしさの欠片もない。


 リモデルがいる以上、彼に騎士らしさがなければならないということはないけれど……


 それでも、もう少し凛とした格好いい姿だけを見せてくれていてほしいものだ。


 せめて、地面の中で寝ないか……?


 もうこのモグラ、人間なのではないか……



「早くも次の部屋ですね……」



 そーっと行っていたつもりなのに、次の部屋に着いていた。トムファンがいた部屋からの移動の方が何倍も時間がかかったように思える。


 それほどに、早い。多分、実際はそんなに時間差ないんだろうけど。感覚としてはね。


 その次の部屋は……広さ的には過去一大したことない。


 しかし、私たちの体は希望を感じたのだった。



「出、口……出口だ……」



 夢じゃ……ないよね……?


 視界が掴むは階段とその上から洩れ出ていると思われる微かな光……


 その光はきっと……外の光ではなく、階段の上の方にある魔道具による灯りかもしれないけど。


 それでも、興奮している。


 見るからに、出口だからさ。これは。


 ペルチェに確認を取ったが、自分が連れてこられたのもこの道からとのことなので、偽物ではない。



「ようやく……着いたんだね」



 感動だ。ペルチェに確認を取ったから、ほぼほぼ出口で合っているというのに、頬をつねってみる。


 ……うん、痛いね。現実だ。


 私の頬は当たり前だが、人間に寄せているためにきちんと痛覚があるからね。間違いなし。


 肉体的にも、精神的にも疲労の溜まることをしてきたんだ。出たいと思うのは不思議じゃないはず。


 背伸びをしながら、私はペルチェのことを見る。


 辛そうだ。私の複製人形とラプゥペ、二体も人形を持っているわけだからね。


 さっき預かろうと思ったんだけど、ペルチェが「姫様もリモデルもまだやり残したことがあるのでしょう」と言ってきたために、その言葉に甘えることにした。


 まあ、別にやり残したことは謝罪ってだけだから、人形を抱きかかえながらでも出来るけど……ね。



「あ……リモデル」


「……なんだ、ドルイディ」



 私の声の出し方と下を向く視線で……彼も、きっとやりたいことの察しはついている。


 リモデルは咳払いをして、少し暗い表情をしながらも、俯かず私の言葉を待ってくれる。


 ……私も同様に咳払いをすると、ずっと言いたかったと思っていたことを口にする。



「リモデル……本当に、悪……」



 私の口は……言葉の途中でリモデルの指で封をされる。えっと……なんでだろう。


 まあ、指だから苦しくないし、不快感もない。それどころか、好きな人の指を当ててもらえたんだから、多少嬉しさもあるくらいだけど……


 リモデルはそうすることに申し訳なさを感じたようで、謝りながら言ってくる。



「……ごめん、ドルイディ。遮ってしまって……やっぱり、それ……俺の方から言っていいかな……?」



 ……うん、想像はついてた。だよね、そうだよね。


 リモデルのやり残したことも、私と同じだよね。


 ……でも、リモデル。貴方は本当に悪くない。


 なのに、謝りたいのだろうか……?


 ……そんな思いが届いたのか、リモデルは悩んで、疑問の答えとなる言葉を捻り出してきてくれた。



「……ドル、君のことだから、あれは自分が悪かったと思ってくれているのだろう」


「……」


「あれ、というのは……その……結界が目の前に張られて、分断された……あの時の、ことだ……」



 わかっているさ、リモデル。


 あの時、リモデルは確かに安易な考えで飛び出したと思う。それ単体で見たら、確かに反省は必要なこと……なのかもしれないと……思うよ。


 それでも、そんな貴方を更に絶望させてしまうような……もっと酷いことをしたのは私なんだ。


 謝るべきは……本当に、私なのに……



「……君は君で自分がした行動について、自分を責めているんだよな。でもさ……」


「……うん」


「あれは……君の意思じゃ……ないんだろう?」


「……ああ」


「なら、悪いのはやっぱり、俺一人なんだよ。俺の甘い考えが……甘い行動が誘発した……結果なんだ」



 出口の方の扉が少し開いていたのか、今まで少しだけ風が吹いていたんだけど……


 それが、ピタリと止み……無風状態になる。この静寂の中で……いつもよりハッキリと、ゆっくりと出たリモデルの言葉は……私の耳にきちんと届く。



「……長くなっちゃったけどさ……ドルイディ、本当に申し訳なかった。反省……している」


「私こそ……本当に悪いと思っている。だから、リモデルが悪いと思っているんだとしたら、それは許すよ。許すから、私からも謝らせてほしいんだ……」


「……わかった」


「こちらこそ……ごめんね。リモデル」



 お互いの気持ちが……ちゃんとスッキリとするように……後悔残さず脱出できるように……


 私たちは同時に首を下げて、互いに謝意を表す。


 そして、再び顔を上げた時にリモデルは晴れた顔になっていたので、私は表情を(ほころ)ばせる。


 ……これで、いいよね。


 私たちは再び恋人として、仲良くやって行こうという決意の瞳で見つめあった後、手を握る。


 寒かったせいか、すっかり冷たくなっている。きっと、私の手も冷たいんだろうな。


 温度の調節機能は付けておくべきだったかな……と思わないこともなかったけど……



「……ドル」


「……うん、ありがとう。暖かい」



 ……そんな手を私より少しだけ大きな手のリモデルが、温めるように優しくギュッと握ってくれたから……付けなくても別にいいかな……と思い直した。


 あったら、便利ではあるけど……人間らしさからもかけ離れてしまうわけだしね。



「出口が近いな。短い階段でよかったよ。ドルと一緒に通ったあの隠し扉の先の道は結構な遠回りだったんだな。数十分ぐらいかかってた気がするし」


「ちゃんと出口でよかったね。風が届いたのは、やはり出口の扉で良さそうだ。誰かが一瞬開けたのかな?」


「……う」


「……なんか、トムファンの一派だったりしたら嫌だな」


「……大丈夫だろう。ファルだと……思うよ」



 視界に扉が入ってきたことで、ここが出口で合っていたのだと確信ができたが、扉を開けたのがファル以外の可能性もあるんじゃないかと思い、少しだけ心配になる。


 ああ、ファルであってくれ。



「……あいつだよ。気休めとかじゃなく、一瞬だけあいつの魔力を感じたから」



 私が心配そうな表情をしたら、階段を少し先に登ったリモデルがそんな言葉をかけてくれた。



「本当か?」


「ああ、もしかしてこちらの不安を感じ取ったのかもな」


「そうなら、中々やるね。ファル。凄いよ」



 私たちは顔には出さないが、疲労が溜まっていそうなペルチェから、私の複製人形とラプゥペを預かった。


 私が複製人形でリモデルがラプゥペね。


 「もう、やり残したことはないわけだから」と言ったら、ちゃんと預からせてくれたよ。



「……ペルチェ、どれくらい経ってるかわかる?」


「……正確な時間がわからない場所にいたので、推測ですが……少なくとも閉じ込められてから、十時間かそれ以上は経っているのではないかと思います」


「十時間……ぐらいかなぁ、本当に」



 十時間は十時間で長いとは思う。


 でも、リモデルと会えなかった時間は私にとってとても長く感じられてしまった。


 でも、まあ、それぐらいだろうね。



「外の光を浴びたいよねー……」


「わかる、わかるぞ。ドル。人工の光じゃなくて、自然の光を浴びたいよな。太陽光……」


「でも、朝となると、城のみんなが活動しているだろうから、城から出るのが困難になってくる」


「うんうん」


「陽光を早く浴びたいという気持ちはあるが、それは嫌。私の脳内で相反する考えが争っているよ」


「……はは、俺もだよ」



 そうして、会話する中、とうとう出口は目の前……


 私とリモデルは顔を見合わせて、「すーっ……はーっ」と深呼吸を繰り返すと、緊張感を覚えながらも……同時に扉の取っ手を……横に捻るのだった。

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