51話【ドルイディ視点〜リモデル視点】無事を祈ってる
私は戦闘面においての技術全般……それがどれも彼女と比べて劣っていると思う。
だが、根気が私にはある。体力ももう少しある。まだいける……まだまだ……
彼女の体力が尽きることを心の中で願いながら、私は絶対に倒すという思いで立ち向かう。
「……はぁ……はぁ」
……こいつが騎士マオルヴルフの糸繰り人形と化してから、十分は経った。
五分ぐらい経ったあたりから、トムファンが疲れのせいかウトウトしてきていたが……
今はもう……いびきが聞こえるから、完全に彼女に意識はない。彼女は現在……騎士マオルヴルフに動かしてもらってるから、動くだけ……
騎士マオルヴルフの方が疲れて、トムファンの動きに隙が出来始めた時に残存魔力を込めた腕力を使って押し倒し、息の根を止めてやる……!!
「……っー……ふぅー……やるものだねぇ」
……起きた……!?
騎士マオルヴルフが糸に魔力を伝えたらしい。それによって、ピクリと動いたかと思ったら、今のように起きて声を出してきたのだ……マジか。
欠伸をしている。余裕だな。敵である私の前で。舐められすぎて腹が立ってくる。
私はその腹を思い切り殴った。何も対策していなかったようで簡単に殴れたよ。
本当に舐めているんだってことが伝わってきた。
私は苛立ちを募らせつつ、吐き気を催すトムファンを睨みつけながら次の手を考える。
……ちなみに吐き気を催しているとはいっても、糸繰り人形状態なので、地面に手をついているということはない。吐き気があるけど、今までのように立てているのは中々に不思議な光景だったりする。
「青筋……自律人形でも浮かび上がるんだね……」
「ああ、当たり前だ……!」
殴った拳に力を込めて、再び殴ろうと思った……が、それから一秒後に私がやったのは違うこと……
トムファンの間合いに走りつつも、糸に向かって風属性の魔力を飛ばすこと……だった。
唐突に思いついたのだ。この糸を切りさえすれば、トムファンの動きは鈍くなるとね。
幸い、トムファンは私のその考えに気づいていない様子。魔力が飛んだ方に全く視線が映らないし、手を伸ばす様子も別にないからそう思った。
魔法にはせず、ただの魔力の状態にしたことがよかったんだとそれによって実感したよ。
魔力そのままというのは魔法より威力は低いが、派手じゃないからバレにくいんだ。
「……っおお」
無事に成功。驚く様子のトムファンに私は膝蹴りをかまして、再びの気絶を狙った。
……結果、飛び蹴りは出来たが、気絶まではさせることが出来なかった。悔しい。
騎士マオルヴルフは糸が切れた瞬間に我に返り、私とトムファンを交互に見る。
表情がわからずとも、困惑しているのはわかるよ。ま、そりゃあ困惑するよね。
「……あー……そういうことするんだー」
騎士マオルヴルフは自身の行動を反省したのか、私に向けて体を曲げて謝罪と思われる行動をした後、トムファンの方へと向かっていった。
どうやら、突進をするつもりのようだ。
物凄い速さだったのだが……それは容易く受け止められてしまった。
意外だった。明らかにトムファンは寝起きで先程より動きが鈍かったからだ。
それも演技だったというのか……?
トムファンによって、放り投げられる騎士マオルヴルフ……私が不憫に思っていると……
「えっ……行っちゃうの……?」
土の中に潜っていってしまった。もしかして……いや、もしかしなくても……これは逃げたな。
……まあ、逃げるよね。明らかに敵わないし。このままだと命も危ないだろうし。
ごめんね。今まで私のせいで色々と。
私が心の中で謝罪すると、トムファンは笑いながら「逃げちゃったねーぇ……面白い」と宣う。
それを無視しながら、私は再び地面を蹴った。
「……」
勝ち目は薄い。
でも、出せる力は全て……ちゃんと出す。
「リモデル、貴女の彼女として恥ずかしくないようにね」
胸の熱さ……高揚……かつての……生まれたばかりの頃の私にはなかった人間らしさ……
人間らしくなっていることへの実感で私は更にやる気を出すと……目の前の存在をただただ排除するという気概で全力の突進を……していった。
*****
「……なんか、地面から音がしないか?」
「気のせい……と思いたいところですが、私も今感じました。人ではないでしょうね」
あ、人ではないんだ。それはわからなかった。まあ、人は地面の中に潜らないからね……
俺、リモデルとペルチェは人形国城の地下空間で会った変な女を拘束した後にドルイディとの再会のため、それっぽい部屋を探していたんだ。
モグラの魔物、マオルヴルフがいれば嗅覚とかで早く見つけられたかもしれないんだがな……
さっき、別れてしまったんだよ。残念。
残り香のような物が先程少し漂ってきたりもしたが……あまりに少量すぎて辿れない。
「この音を出しているのが……マオルヴルフなら本当にいいねぇ。助かるなぁ」
「まあ、マオルヴルフだと思いますよ」
マオルヴルフだとしたら、何かあったのだろうか。
ドルイディを見つけたからただの親切心で俺にそれを伝えに来てくれたとか?
……それなら、嬉しいけど……まあ、そんなに都合のいいことなんてないか。
「……聞こえる。ちゃんと聞こえる」
土の方に耳を近づけたら、さっきより大きい音が聞こえた。
揺れも少し感じないこともないし……やっぱり、こちらに向かってきているんじゃないか?
マオルヴルフ……マオルヴルフだったら嬉しい。そして、やってきた理由がドルイディを見つけたからそこに連れていくため、であるとなお嬉しいかな。
「確実に大きくなってますし、こちらに近づいてもいますね」
「そうだろ?」
「近づいているのは確定ですが、マオルヴルフかどうかはわかりません。マオルヴルフだったとして、親切心でやってきたとも限りません。警戒心は……」
「わかってる……大丈夫だよ」
警戒心、一瞬緩みかけていた。
そうだよな、危ない危ない。
針一本すら、肌に届かせない。また何か食らったら大変だからな……維持しないと。
「……ってうおぉ」
警戒心を強めた瞬間に穴からマオルヴルフが出てきたので、俺は少し驚いてしまった。
しかも、真下だからね。驚くのはおかしなことじゃない。股間に当たるかと思った。
俺はそこから少し移動するのだが……
「……どうした? 出ないのか?」
何故か、出たがらない。
うーむ、お気に召さないことでも……? それとも、ここの空気が嫌とか? いや、この地下空間はどこも一緒だろ。そんなわけないわな。
敵として攻撃しに来たなら、攻撃の隙が出来るのを待っているって感じだろうか……?
敵意なんて感じないから、多分何かを伝えに来たか、ドルイディのもとに連れていくために来たか……
……多分、そのどちらかだと俺は思っているんだけどね。その考えは甘いだろうか……
「ってマオじゃないか。久しぶり」
ちゃんと顔を出さなかったからわからなかったが、穴の中を覗き込んで顔を見てわかった。
何となくだけど、わかったんだよね。凄くないかな。
俺がマオに対して「覚えてるか?」と投げかけようとしたら、マオは『そんなことどうでもいいから』と言いたげな慌てた様子でこちらに手招きする。
手招きする姿からやけに知性を感じる。君って前世が人間だったりしたのか?
そう思いながらも、俺は取り返した複製人形とラプゥペを背負って、ペルチェと穴に入る。
「……ドルイディ、いてくれるといいんだがな」
心中の言葉が洩れていたことに気づいた時に、マオは俺の方向を向いてきた。
また、手招きをするのかと思ったら、自分の体を指さす。何となくだが、また『人形操技』を使ってもいいと言っているのだろうな。
技を解いてから時間が経ちすぎているから、俺は今マオの言葉がわからないからね。
わかるようにするためにも、技を使ってほしいということなんだろうな。いいよ。
俺は狭く汚い穴の中で糸をマオの体に巻きつかせると、マオから得た情報を聞いていった。
「……ドル、どうか無事でな」
いることはマオによってわかった。
しかし、無事なのかはまだわからないからな。取り敢えず、俺はそうやって……
……心の中で手を合わせて祈りながら、狭い穴の中を素早く這っていくのだった。
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