46話【ドルイディ視点〜リモデル視点】騎士然としているマオルヴルフ
到、着。名前は不明だが、先程の部屋!
「マオルヴルフたち、ありがとね」
彼らの心は読めないけど、伝えたいことが今度はわかった。『どういたしまして』だよ。
もちろん、字を書いてくれたから、それがわかったわけじゃないさ。身振りで、ね。
……頭を曲げようとする動作のこと。
結局、この子たちはなんでマリネッタを殺したんだろう。なんで連れていったのだろう。
トムファン、とやらの命令なのかな。だとしたら、トムファンって奴は何を考えてるのだろあ。
私を連れていった目的だって謎だし、地面から浮上して先程の部屋に戻ってきたのとほぼ同時にたくさんの疑問も浮上してきているよ。はぁ。
「まあ、それはいいか。じゃあね……」
疲れるし、早く行かなくちゃ……
「あ!! ちょっと待って!! 貴方たちなら、リモデル……いや、トムファンとやらの体臭、もしくは持ち物の香りがわかるんじゃないかな?」
マオルヴルフたちは疑問符を頭に浮かべているようだ。
こちらの問いが通じなかったのか、それとも香りについてわかっていないということなのか。
どちらかと思っていると、マオルヴルフの一匹が着いてこいと言わんばかりに手招きする。
「ありがと。貴方はわかるんだ?」
わかっていると思って着いて行こう。このまま、ここに留まりたくない。
……早く会いたいよ、リモデル。
私が飛び込むと、後から他のマオルヴルフも飛び込んでいった。もちろん、全員じゃない。三十匹ほどいるのに全員飛び込んだら、ヤバいことになる。
多分、彼らの中でも特に頭がいい奴が着いてきているんじゃないかな……と推測してみる。
彼らが着いてきたのは私の護衛のためかな。前に回って目の前のマオルヴルフと同じように掘るわけじゃなく、私のお尻のあたりに密集しているかるさ。
……私のお尻を狙ってる変態マオルヴルフな可能性も微妙にあるとは思うが。
「お姫様、として扱ってくれてるんだよね……?」
後ろにそんな言葉を投げかけてみた。
もし、お尻を狙っているわけじゃなくて、護衛のために着いてきてくれているのなら……
ちょっとお姫様扱いをしてもらえたようで嬉しい。まあ、ほんの少しだけなんだけど……
場所が場所だしね……こんな地下で……
「私が実は本当に人形国っていうところのお姫様だってことも貴方たちはわかっていたりする?」
すると、聞こえたのか前のマオルヴルフの方が振り向いてくれた。手を止めて。
反応してくれるんだ。ごめんね。
「別に反応しなくていいよ。聞き逃してくれていい。ちょっと思ったことが言葉として出ただけ」
この子はさっき運んでくれたマオルヴルフとは違う気がする。意外にボスだったりするのかな。
……いや、ボスはまたなんかあの部屋にいた時に真っ先に行動してくれていた子だよね。この子は副ボスとかかな。もしくは裏のボス、とかね。
「はは……」
言葉に対する反応も早いし、今も乱雑に引きずることはなく、わざわざ魔力で土を変質させて柔らかくしてくれている。本当にお姫様に対する扱いって感じ。
こんなことをしてくれる存在として……一つ、頭に浮かんでくるものがあるよ。
私の製作者もメイドたちもみんな言っている。乙女はみんなそういった存在に恋したいって。
「……騎士様みたいでいいと思うよ、貴方」
お姫様だと、この子だけが認識してくれているとか本当にありそうだよ。
飼い主に事前に教えてもらっていてさ。
彼が騎士だとしても、私にはリモデルという心に決めた人がいるから揺らぐことはないけどさ。本当にこの目の前の彼、結構かっこいいからさ。
「……あ、オスだったらごめんね?」
オスだと決めつけていたけど、違うかもしれないからね。
心做しかスマートな体型に見えるし、人間か人形だったらこんなことをしなくて済むような……
……それなりの地位の存在になれるんじゃないかな。
まあ、彼がそれに不満を持っていないのだとしたら、この考えは彼の気に触るかもしれないが。
「……? 痛っ」
目の前のマオルヴルフが唐突に停止したので、私は頭を抑えながら彼の尻を叩く。
文句の代わりだよ。頭が痛いじゃないか。
何か見つけたのかと思っていると、頭上から少しだけ揺れのようなものを感じた。
「もしかして……上にいる?」
トムファン、もしくはリモデルたちが上を通ったのかもしれないと知り、私は前のマオルヴルフが止まった理由に気づくことが出来たのだった。
……ごめんね、騎士然としたマオルヴルフ。
*****
俺は目の前の人物が蓑虫状態のドルイディの複製人形を連れていく姿を呆然と見ていた。
だが、追いかけるべきだという考えにペルチェの肩叩きにより、すぐにシフトができた。
ラプゥペのことを急いで背負った後、追いかける。
「おい、待てって!!」
「……もういいでしょぉ? おれの方から、きみたちに危害を加える気っていうのはもう微塵もないんだからさぁ。無力な美女に無理やり暴力振るうカンジぃ?」
こいつ、今……明確に自分のことを『美女』と言ったな。
自分を美女だという傲慢さには驚きはない。問題はこいつが女……かもしれないということだ。
ペルチェに耳元でボソボソと教えてもらったが、この目の前の奴は喋り方から察するにトムファンという者と同一かもしれないとのことなんだが……
……そいつは最後にペルチェが見た時には明らかに男だったらしいんだ。ガタイも声も。
それ故に喋り方が同じでもわからなかったと……
性別を変える能力まで有している……? それとも、こいつはそのトムファンという奴の姉か妹?
「待て!!」
追いかけながら、考える。
こいつが能力を持っていると仮定するなら、そもそも性別を変えたのは何でだ。こちらを混乱させるためなのか?
……それとも、ただの気まぐれ……? 全くわからない。見当もつかんが、軽い感じの話し方を聞いて、気まぐれなんじゃないかと、思った。
「……うむぅ……ちょいと面倒くさいよぉ、きみら」
「何言ってんだ、君らがラプゥペの誘拐やそこにいる複製人形の改造などを行ったんだろう」
「それは……なんでそう思ったのかなぁ……?」
とぼけ……まあ、してくるとは思っていたよ。
これは会話をしないのが正解か? 変に相手して、怒りを自分で増やすのは愚かだ。
「……黙ったか。これは追いかけるのをやめてもらうのは無理そうだしぃ。地面に逃げよっかなぁ……」
は?
トムファンは開けた場所に出た途端に右に移動。俺たちが追いかけようと方向を転換した瞬間に複製人形を抱えたまま風のようにその後ろへと回る。
目に追えないほどの速さで移動するその姿はまるで本当の風のようだった。
……瞬間移動をしたようにも感じられたよ。
その後、宣言通り地面に逃げようとしたらしい。地面に視線を向けながら指を鳴らす。
……だが。
「……あれぇ?」
何かマオルヴルフにあったのかもしれないな。
まるで応じる気配がない。地面も揺れることは……いや、多少揺れたかな。
でも、出てこないから彼を助ける気はないんだと思う。それでいいよ、マオルヴルフ。
俺は混乱する彼のもとにペルチェと共に駆ける。
まずは左手からただの硬糸を放出。身体の各所に当てて、体勢を崩させた後に……
同時に右手から、『人操糸』を放出して複製人形のことを奪い取っていく。
そこでトムファンの後ろに回りこんだペルチェがトムファンの腕を拘束して床に組み伏せた。
「終わりだ」
「あはぁ……本当だ。終わった」
やけに潔くそう言いながら……
ニッコリと笑顔を浮かべるトムファンというおと……女に俺は不気味さを感じていた。
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