44話【ドルイディ視点】引きずり込むな!! やめて!!
「がっ……やめろー……やめろー!!」
地面へと引きずり込まれていくマリネッタを見て、最初に私に話しかけてきた時のあのキザったらしい姿は見る影もないな……と感じさせられた。
無様という言葉が似合いすぎるよ。
……今の情けない姿がきっと本当の彼なのかな。大声で叫ぶ彼を見ていると、そうじゃないかと思う。
……にしても、マオルヴルフだよね?
マオルヴルフってこいつのペットなんじゃないのかな。なんでこんなことを……?
本当は仲間と思われるトムファンとかいう奴がマオルヴルフの飼い主でトムファンが『始末しろ』と命じたから、こんなことをしているとか……?
「……ま、別にわからなくてもいいかな」
私はじっとマリネッタを見る。
「絶望してるな……」
「やめろぉー!!」
きっと、彼なりにマオルヴルフには愛情を持って接していた。それだけに絶望してるのだろう。
聞きたいことはもっと他にあるし、今のうちに聞いておこうと思う。完全に地面へと引きずり込まれてしまったら、聞けなくなってしまうからね。
「ねえ、マリネッタ。完全に地面に引きずり込まれてしまう前に質問があるんだ」
「……あっ……はっ、はぁっ!?」
そんなこと答えられる状況じゃないと思ってそうだな。
だが、聞かせてもらうよ。
「どこかに扉がある……よね? あるのなら、具体的にどこなのか教えてもらえないかな?」
暗闇だから見つけられなかっただけで実はわかりにくいところに普通に扉がある可能性はありそう。
「あっ、隠れてるのなら、その隠れてる扉を表出させるボタンとかを教えてくれるのでもいいよ?」
「そ、そんなこと……っ……教えるわけな……」
あ、埋まった……これで下半身は全て埋まったな。
そして、何故か顔がどんどんと青ざめていった。なんだ。何か下半身に当てられた?
攻撃された、ということか?
男性は下半身に急所があると聞いたことがあるが、そこを狙われたとか?
まあ、何でもいいが、上半身も埋まってしまう前に質問の答えを聞いておかなければ……
「……頼むよ」
本当は嫌なんだけど、ね。
「……ぐっ」
「最初で最後だよ。ね?」
「オマエなんかにオレは……っ」
「……うーん」
「がっ……わ、わかったよー!!」
私が頭を地面を軽く押しつけようとすると、簡単に態度を変えてくる。必死だなー……
「わ、わかった。わかったよー……それなら、頭を地面に擦り付けてお願いするか、オレの恋人になっ……」
「あっ……」
口のところまで地面に……
まあ、聞くに耐えないようなことを言っていたから、最後までそれを聞かずに済んだのはよかったかな。
もう見えているのは目の部分と髪だけ。苦しくて、今にも辛いとは思うが……悪いね。
最悪なことをしてきた貴方のことを私は助けようとどうしても思うことができないんだ。
ふっ、それにしても、頭を地面に擦り付けてって……そうまでして、優越感を得たいか。こいつ。
「……ふぅー……こうなったら、自力で探していくしかないかなぁ。時間かかりそうだけど……」
うーんと……やっぱり、ないように見えるな。もう少し明るくしたい。
……あ、光属性の魔力を使えばいいか。
そうして魔力を生成しようとしているところで少しだけ視線を横に向けると、そこには殺意が増し増しの視線をこちらにぶつけている目から下が全部埋まってい奇人がいる。
嫌だなぁ。忘れようとしてるのにさぁ。
「あのさぁ。引っ張りあげてほしいんだろうけどさ……無理だからね。私はやらないよ」
「……」
「色々なところを探してみて、絶対に自分じゃ見つけられないって時にまた頼る」
こいつに頼ると、調子に乗るような気もしてきたしね。
いけるさ、私なら。扉ぐらい……きっと見つけてみせる。
最後にこいつに一言だけ言っておこうかな。
「……あのさぁ。マリネッタ」
「……」
「寝ぼけてても女の足をあんなふうに力に任せて引っ張るのはやめた方がいい。恋人ができることなんてこと貴方にはないだろうが、それでも……」
私がその言葉を言い終わる前に……
目の前の髪と目の部分だけ見える男はすーっ……と吸い込まれるように沈んでいった。
もう、本当に静かにね。音を全く立てずに地面の中に消えていくマリネッタを見て、私は少し同情した。
直前で白目剥いてたし、あの時点で死にかけだと思う。
その上、この後はマオルヴルフたちの大暴力時間がやってくるはず。マオルヴルフに汚い地下空間で殺されて、誰にも見つけられないまま朽ちていく。
……そうなるんじゃないかと思ったら、さすがに同情心が湧いてきてしまったんだ。
「手ぐらい、合わせておく?」
いや、いいか。面倒くさい。
そ、れ、で……遅くなったが、光属性の魔力で多少明るくしていくとしよう。
リモデルもそうだと思うんだけど、私は光属性が常用の魔力じゃない。
だから、本当は嫌なんだが……仕方なし。
魔力を練りながら、私は先程マリネッタが埋められていた穴を覗いてみた。
どこまで続いてるのか、どんな風になっていたのか少し気になってしまってさ。
「へえ……すごい」
綺麗な穴だ。でこぼこになっている部分もないし、これなら意外と快適じゃないかな。
……あ、そういえばさっき私も埋められてた。同じ場所だし、まあ快適度は変わんないかな?
快適は快適でも所詮は土だから、さっき埋められた時はそんな快適でもなかったよ。思ってたよりはまあよかったけど、それでも自室の方が千倍快適。
「じゃあ、扉探しといきま……すぉお!?」
穴に何かいる……と思ってギョッとした目で見たら、まさかのモグラ……マオルヴルフという。
なになに、なんで顔をそこから出しているのだろう。
私が後退しようとすると、どうやら後ろに穴が掘ってあったようでそこに転落してしまった。
「……なんということだ」
これが俗に言う落とし穴。意味は知っているし、見たこともあるが、自分がこうして落ちることは滅多にない。
そうして穴に落ちた私は群がるマオルヴルフ共に足を掴まれていった。
もう、未来が想像できる。嫌な未来が。
「やめてくれー……」
さっきまで穴に落ちて同じように悲鳴を上げていた一人の男の……声と間抜けな顔が浮かぶ。
えぇ……なんで私もなんだよ……
今まで味わった絶望と比べれば矮小な絶望だが、それによって口角が落ちに落ちまくったのが、わかった。落とし穴に関連付けた洒落じゃないよ。
最初にやられた時とは別で大分優しく引っ張られている気がするが、それでも気分は最悪。
ファルが城の庭でやったようなアレを吐きたいという衝動を何とか抑えつつ、私は早くどこかに出られることを……切に……切に、願うのだった。
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