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36話【リモデル視点】沈痛

 ラプゥペがいた部屋は他の部屋と違って、布団のようなものがあった。ラプゥペを寝かせていたものだろう。


 ……何故か、ラプゥペはその上で寝ていなかったが。


 何らかの刺激により、布団から移動した?


 それとも、先程までここにいた者が何らかの行動をするために移動させたとか? 罠を発動させるために、布団が邪魔だから敢えて移動させたとか……?


 ここにいた者が単に休息するためだけに用意したとかも……いや、それはないな。うん。


 まあ、今はそれより……ラプゥペの状態確認。



「……よくはないか」



 見た目からして、悪くないと先程抱き寄せた時は思っていた。実際、傷なんかは一つもないし、何か紋様などを刻まれていることなどもなかった。


 が、しかし……部品を一つ一つばらしてみたことで、問題があることに俺は気づくことができた。


 まず、俺の全く知らない部品がいくつか組み込まれている。そして、記憶などが保管されている脳の部分の部品に変な細工がされているように感じた。


 俺の人形に勝手にこんなことをして、何のつもりだ。知らない部品に関してはどういうものでどういう意図で搭載したのかすぐにはわからないが……


 脳の部品への細工はラプゥペの記憶を都合の良いように改変するためだと感じた。


 ラプゥペの前髪を俺は自身の左手で持ち上げる。とあることを知りたかったため……


 

「……ラプゥペ、失礼するぞ」



 青く細い……空を思わせる綺麗な髪……これも凝ったものだ。そこらの人間よりも髪質はいい。


 サラサラとしていて、持ち上げた時の触感は滑らかで心地のよいものだ。


 触感もよく、色艶も宝石の如く。美術品として扱われても、違和感を覚えないほどに綺麗な髪。


 誘拐するなら、まずこういった髪の毛も盗んでいくものと思われたが、そんなことはなくてよかった。


 ちなみに俺が触ったのは抜け毛がないか、チェックしたかったから。これ、自分の人形とはいえ、傍目から見たら少し気持ち悪い光景かもしれないな。


 ドルイディの髪も滑らかだったがな。洗ってみたい……彼女にもう一度会えれば……許してくれれば。



「彼の髪の毛は確かに良いですね。驚きましたよ。その髪質の良さ。王族のものと見紛うほど」


「だろう?」


「はい、オトノマースは人間人形問わず、髪質が良い王族が多いのですがね……彼は髪質の良さにおいて、ランキングなどを作るのなら上位に入るでしょう」



 国王陛下とかも、なのかな。あのドルイディに似ているのなら、まあ綺麗なのだろうな。


 髪を持ち上げて何もないことがわかった俺はその点にのみほっとして、取り敢えず直しておいた脳の部品を再び脳に組み込んでおく。


 左手で髪を触っている時……実は右手で脳の部品を直していたのだ。細工がされているといっても素人が魔力や俺が持つような糸を使って施したもの。


 髪を触りながらでも直せないことはない。少しだけ絡まった糸を解くようなものだから。


 後、問題なのは……俺の知らない謎の部品。取り出したからいいが、これが何なのか知りたいな。



「ペルチェ、この部品について何か知らないか?」


「……知りません」


「……どうした? ペルチェ。横を見ながら」


「いえ、少し……危険な香りがしまして」



 危険……?


 ふざけていると平常時なら受け取ったかな。どうだろう。


 とにかく、俺はそれをふざけているのではなく、彼がこちらに危険が迫っていることを感じ取ったのだと理解し、眠りかけていた警戒心を呼び覚ます。


 そして、その『危険な香り』が冗談でないことが……次の瞬間に聞こえてきた足音によって証明される。



「……?」



 その足音の響きが耳に入った瞬間、俺の心がざわめきだしてきた。何故だかは、わからないが。


 胸を抑えると、逆にざわめきは強くなる。


 それが何なのかわからないまま、俺は警戒心の宿した目を足音がする方向へと向けていた。


 そして、その目は……現れた者の姿を見て……見開かれていった。


 ざわめきと共に浮かんだ考え……それを俺は躊躇わずに……胸を抑えながら、口にした。



「ドル……か……?」


「会えてよかったよ……リモデル」



 マオルヴルフから残り香があることは聞いていたし、近くにいるんだろうとは思っていた。


 だから、これは平然と一人でこちらにやってきたこと……あと、何故かざわめき続ける自身の胸への疑問。


 すぐに複製人形である可能性が頭に浮かんだが、先程に部屋で見た複製人形は眉の長さと太さが違った。


 目の前のドルイディ(?)は本物と同じなのだ。それでも、眉だけではその違いなどわからない。


 自分で言うが、疲労も溜まっているから本物と同じだと思っているだけかもしれない。そう思お……



「……リモデル、どうしたんだ?」


「い、いや……」



 これで本当に彼女がドルイディなのだとしたら、俺はまた酷いことをしていることになる。


 偽物だと断定できる証拠がない以上、邪険にすべきじゃない……そんな気がしてきた。


 優柔不断……だよな。今の俺は。


 彼女の恋人でいたい。愛情だってある。覚悟だって。


 でも、俺の今の精神が彼女の恋人として、あまりに情けないように感じて……恋人でいるべきでないのでは……とそんな考えが頭をよぎる。



「悪い、ドル。体調が悪くて」


「そうか……まあ、色々あったからね。疲れるのも当たり前だよね。私も疲れているし」



 普通の自律人形なら、違和感のある台詞だが、ドルイディは人間に程近く、疲労を感じる体質……


 ……やはり、本物……なんだ、ろうか?



「……顔色が段々と悪くなってきている。ここは休息に使えそうだし、休むべきじゃないか?」



 心配しているような言い方をしているが、表情からこちらへの心配の色を感じ取れない。


 目も口もほとんど動いておらず、とてもこちらのことを心配しているとは思えない……


 人形であるのに表情があまりにも豊かなドルイディとは……全然違うように……


 戸惑いながら、本物である証拠、偽物である証拠……それらを必死に探す俺なのだが……


 探せば探すほど偽物のように感じられてしまう目の前のドルイディ(?)に俺は尋ねた。



「ドル……俺がここにどんな目的で来たのか、わかるか?」


「……恥ずかしいが、誘拐されたラプゥペと私の救出、だろう? もしかして、疑っているのか……?」


「……いや、別に」


「疑っているようにしか見えない」



 それはそうだ。俺もこんな目を彼女に向けるべきではないと思っているが、無理だ。


 ラプゥペのこともあるし、そちらを優先しよう。彼女が本物かどうか確かめるのは後回しだ。


 俺はドルイディ(?)にラプゥペに取り付けられた変な部品を外すため、少しそこで待ってほしいと頼んだ。了承してもらえるものと思って聞いたので……


 彼女からすぐに放たれた「嫌だ」という拒否の言葉には思考が思わず、動きを止めた。



「……え? なんで……?」


「ごめん、冗談だ。言い方強かったよね。もちろん、貴方の人形だから触るのは自由なんだけど……先に私に触らせてほしいんだ。いい……だろうか?」



 思わず「いい」と返答しそうになったが、直前で踏みとどまることができた。危ない。


 ラプゥペは俺の大切な人形だからな。彼女が本物だと断定できる証拠がない以上、触らせたくない。


 もちろん、後で本物だという証拠が出てきて本物だとわかったら、別にいいんだけど。



「理由を……聞いてもいいか?」


「……貴方が作った人形というのを一度見てみたかったから。あと、その変な部品というのも」



 人形自体を見てみたかったというのはわかるが、部品も見たいのか……?


 いや、まあそれも別におかしくはないか……


 でも、なんかな……引っかかる。ラプゥペに対して、酷いことをするのではないかと、そんな気も。



「……悪い」


「……それは、『ダメだ』という意味でよろしいか?」


「そ、そうだ」


「ああ、そうか。まあ、貴方がそれを拒もうと私は触りに行くのだがね」


「……え? は?」



 どうしても、触りたいとしても本物のドルイディなら、俺の思いを尊重して我慢するはず。


 こうして、無理にでも触ろうとはしなかった。


 彼女は偽物だ。そして、今からラプゥペの部品を弄って、彼を作り変えようとしているのだろう。


 ……そうはさせるかよ……っ。



「……っ……ほう……そんなこと、するんだ」


「……っはぁ……っ」



 彼女の両腕を自身の両手で拘束する。本物と同じくしなやかな細い腕でありながらも強さを感じる腕。


 本物の姿がよぎりそうになるも、何とか振り切り……逃げられないよう、力強く掴む。



「……乱暴されるとは思っていなかった。確かに無理やり触ろうとしたのは悪かったさ」


「……」


「でも、こんなことするなんてどうなんだ? 最低だ」



 偽物だ。偽物であることはわかった。


 これは偽物の言葉。本物はそんなことをきっと、思っていない。それはわかっている。


 ……だとしても、自身の愛する恋人と同じ姿をしたモノが……俺の顔を冷酷に見つめ……


 ゴミに対して向けるような罵声を浴びせてきたのだ。胸が痛まないはずなどない。



「……っ……ぐ……」



 唇を噛んで下を向く俺に対して……



「……失望したよ」



 耳元で偽物は囁いた。


 それによって、俺の心に生まれていた亀裂は深まり……


 膝を折った時に見えた彼女の見下す視線により、床に落ちるティーカップのように……


 ……粉々に、割れた。

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