32話【リモデル視点】地下での予想外な再会
「……ドル? ……ドルイディ……? おい、どうしたんだ! ドルイディ!」
ドルイディが悔しそうに唇を噛みながら項垂れていたと思ったら、突然にその場で停止した。結界さえなければ、何があったか少しはわかるんだが……
ぐっ……本当になんでこんなことになるんだよ。
いや、わかってる。わかってるんだ。俺の甘い考えがこんな結果を生んだことは。
「わかりきっていることなのに、わからないフリをして自身の選択から目を背けちゃ……いけないよな」
行くことを選択したのは俺だ。ドルイディは悪くない。ドルイディの選択による結果じゃない。
罠を設置した奴も俺とドルイディを結界によって分断したことは許せないと思ってるけど……
……今の俺は自分で自分が許せない。それ故に結界を張った奴への怒りより、自分への怒りの方が強い。
「……ドル……本当にどうしたんだ……?」
ドルの声はこちらにさっき少し聞こえた。
しかし、あちらに俺の声が届いているとは限らない。一方的な可能性は十分にありえる。
俺も彼女も分断された瞬間は悔しさや絶望を露わにするだけで、これといった会話をしていない。
しようと思いはしたが、その時にはもう彼女はこのように虚ろな目をした状態になっていたんだ。
これじゃ、なんの反応もしてくれないし届いているのかいないのか判断がつかない。
「……まさか……また機能が停止……はっ」
首のところを見ると、『ERROR』の表示が。何故か目に入っていなかったが、先程よりくっきりと見える。
幻視でなければ、彼女は現在先程のように誰かによって精神干渉攻撃のようなものを受けている可能性が高い。
さっきまでは大丈夫だったっぽいから、更に攻撃の強さを上げてきたということか。
「……ドルに何をしたいんだ? 何なんだよ。目的は」
ラプゥペを攫ったことの理由もまだよくわかってない。俺はわかってないことが多すぎる。
……ドル。どうしたんだよ。
虚ろな目をしたドルに俺が心の中で問いを投げかける。すると……
「……ドル?」
彼女の顔が持ち上がる。俺の声が聞こえたのか!?
……いや、心の中の声だったはず。聞こえてるわけないか。でも、心が通じあった気がして嬉し……
希望を感じながらそう思った俺は、すぐに次の彼女の行動によって絶望に落とされる。
「……あれ? ドル……? ドルイディ?」
ドルは顔を持ち上げると、俺のことなんか見向きもせず……まるで何かに惹かれるようにトボトボともう一つの道がある方向へと進んでいった。
彼女らしくない虚ろな目と酔っ払いのような千鳥足。別人のようだという印象も覚えたが、それというより……今の彼女はどこか糸繰り人形のようであった。
「糸を使う……何か……そういう能力……とか?」
わからない……わかるためにも、この結界を俺は今から破壊していかないといけないよな。
ドル、待っていてほしい。
取り敢えず、結界を破壊してみよう……そう思った時にソレは突如伸びてきた。
「なっ!?」
モグラ……マオルヴルフの手だ。しまった。
俺は為す術なく、地面に引きずり込まれると……そのマオルヴルフによりどこかに連れ去られる。
不覚だった。
……糸も出せないし、魔法も出せない。これで靴を脱いでいたのなら、足から出すこともできたんだけどな。
まただ。今だってもう少し気をつけていれば……
……いや、たらればは……この現状じゃ危ないな。これからのことを……
……そうだ。これからのことを考えなくちゃ……いけないよな、俺は。
足を動かすことはできなくても、思考することに関しては、問題なくできるのだから。
「うぉっ」
唐突にマオルヴルフが方向を転換したので、驚いて声が出てしまった。
その驚きの余韻が残っているうちに地中から、俺は出ることができた。どうやら、到着したようだ。
「ここは……なんだ……?」
鉄格子がある。遠目からだし、疲労も溜まっているから幻視の可能性もあるが、結界も鉄格子の向こうに張っているように見える。可視化されているわけだし、さっきの結界とはまた別種だろうな。幻視でなければ。
これは俺の力を危惧してのものだろうか。いや、その考えは傲慢だろうか。どうだろう。
でも、他に誰かがいるようには見えない。やっぱり、俺一人を警戒しているということか?
広い場所だし、少し見て回りたいと思っていたんだが、マオルヴルフによって地面に埋められたためにできない。
さながら気分は茸だ。最初は不快だったが、慣れるとぬくぬくしててそんな悪いものでもない。
「まあ、ドルを助けに行きたいから出たいという思いは変わらんけどな」
力を入れるが、地中から他のマオルヴルフも俺の足を掴んでいるようで脱出は無理そうだ。
足首を掴んでいる個体と合わせると、十匹……いや、それ以上いる気がする。それだけ強いと思われてるってことなら、少しだけ嬉しいかな。はっ。
「なぁ、モグラ共。目的はなんだ?」
「……」
「答えろよ」
無理か。
ある程度、知性があるように見えたが、わざと喋っていないのか、普通に理解できていないのか。
「……まあ、どちらでもいい」
それよりは、地中からの脱出方法、鉄格子と結界を壊す方法のことを考えていかないと……
本当に考えなければ、ならないことは山積みだよ。
……これで、この場所に他にも誰かが捕まっていてくれれば、少しは助かるんだがな。
「はぁ……誰かいてくれよ……」
「一人よりも二人の方が案は出るものと言いますからね」
「……っ……え? なに?」
声……声が俺の耳に届いてこなかったか。
男の声……それも聞いたことのある声だった。でも、なんでこんなところで……
次の瞬間に視界にその人物が映ってこなければ、俺は幻聴だと切り捨てて出る方法を再び考えていた。
「リモデルさん、さっきぶりですね」
「やっ……ぱり」
こんな地下深くの牢獄。そこにあの執事……ペルチェは目隠しを着けた状態で立っていた。
服も上着だけなくなっている。何があったんだ。
「……ペル……チェさ……」
「終わりましたよ、リモデルさん」
何かが振られた。それは剣だったのか。魔法だったのか。果たしてわからないが、俺の近くにいたマオルヴルフはそれによって見るも無惨な肉塊と化していた。
ペルチェはその後、俺の近くに寄ると、その腕を掴んできた。おいおい、引っ張りあげるつもりか?
「待ってくれ、ペルチェさん。下にはマオルヴルフが」
俺の言葉を聞かず、ペルチェさんは引っ張りあげようとしてきた。痛い痛い、足が痛い……くっ。
だが、ちぎれることはなく、足がどんどんと地上に近づいていくことが自分でもわかった。
地上に足が出た瞬間に、マオルヴルフたちも俺が埋まっていた穴から次々と飛び出してきた。
そして、剥き出しの敵意で俺とペルチェに対して、向かってくるのだが……
「無策で怒りのままに突貫とは……所詮はモグラ。知性のない獣如きに私がどうにかできるわけないでしょう」
手刀で地面にマオルヴルフを叩き落とす様は爽快感を覚えた。マオルヴ……いや、モグラ叩きと呼ぼう。
タフで何度もこちらに向かってくるモグラが数匹いたが、それをペルチェは殺していた。
手のひらに返り血が付着しているが、既に服が汚れているせいか、あまり気にしてないようだった。
ペルチェは最低限の返り血だけ、下に向かって払うと……目隠しを取ってこちらを見る。
うわ……見るんじゃなかったな。目隠しの下。
「……無事でよかったです、リモデルさん」
「はは、俺より自分の心配した方がいいと思うけど」
俺は、彼の目隠しの下の……
右の眼窩……そこに何もなかったのを見て……頬をピクピクと引きつらせながらそう言った。
眼窩の奥に見えるは闇。それはそこにあったはずのものが完全に喪失していることを意味していた。
奥に引っ込んでいるわけではないだろうな。
何があったら、そうなるんだよ。
「……折角だから、話しましょうか」
「何があったかってこと?」
「はい……」
ペルチェはそう言うと、今度はなくなった片目だけにその目隠しをつけて……地面に座った。
さすがだ。眼帯っぽくなっている……
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