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28話【リモデル視点】忘れられていた禁術

「貴方が恋人……?」



 前方でドルイディを抱えながら走っているご老体、ペルチェ・ダブルはわざわざ走っているのにこちらを振り返って俺の発言を鼻で笑ってきた。


 ……初対面時には予想してなかった。この意地の悪さ。


 ちなみに俺はドルイディとは恋人であるということ。そして、彼女と愛を育みたいということを口にしたんだ。


 台詞が台詞なだけに言って数秒経ってから唐突に恥ずかしくなってきた。くーっ……


 ……まあ、後悔はしてないけどさ。本当のことだし。



「その通りだ。ペルチェさん。俺、リモデル・スキィアクロウとドルイディ・ペンデンス・オトノマースは恋人。そして、これから愛を育んでいく関係だ」



 俺はまた何を言っているんだろうな。自分からまた恥ずかしいこと言っちゃったよ。


 自身の頬を叩いて喝は入れながらも、表情は変えない。恥ずかしいという感情を表に出してたまるかよ。


 俺のこの考えは変わらないもの。事実だ。言って後悔してるなんて勘違いされちゃ困るからな。



「……なるほど。冗談の類ではないと」



 ペルチェの顔つきが変わる。眉間の距離がググッと中心に縮まり、口角が微妙に右の方だけ上がる。


 威圧感もこちらに向けてきている。だが、こちらも威圧感程度出せないことはない。舐めるなよ。


 俺が視線をぶつけようとしたら、ペルチェは言う。



「……貴方は、彼女を守れるというのですか?」


「守れるよ」



 即答する。


 俺は自身の身体能力も戦闘技術もペルチェに劣っている。だから単純に力のみの戦闘では勝てないだろう。


 でも、俺は人形師。それも中々見ないほどの天才。


 ……ああ、自分で自分を天才と称するのは久々だな。ファルがいると「自分で自分を天才と言うのはダサい」と言ってくるから、口に出すことも心の中で言うこともなかったんだよ。


 それで話を戻すが、天才な人形師である俺は人形関連の技や技術は完璧に使える。そこらの人間などに劣ったりはしない。


 人形師が使える特殊な技(禁術)なら、余裕で勝てるということを今から俺がペルチェに教えてやるとしよう。



「何をすると言っ……ぐふっ」


「ありがとう、振り返ってくれて。やっぱまだまだ全然いけるな。俺の『物操糸(ぶっそうし)』も『人操糸(じんそうし)』も」



 一昔前に人形師がよく使っていた技、『人形操技(パペット・ダンス)』は『物操糸』と『人操糸』という普通とは違う特殊な糸を使用する。


 名前の通り、物体を操れる糸が『物操糸』。人を操れる糸が『人操糸』だ。


 魔法のように手のひらから出して使ったりする。


 口からも出せるが、それは絵面が死ぬほど気持ち悪いのでやりたくないんだよね。さっきの中庭で汚いアレをしていたファルのことを気持ち悪いと言うこともできなくなるし、ね。



「やった」



 俺はまず『人操糸』によってペルチェからドルイディのことを奪い取り、彼女のことを抱きかかえた。


 付けっぱなしだと、糸の特徴上ドルイディの心身を掌握してしまうことになるので、抱きかかえた瞬間に『人操糸』を俺は即座に消滅させたよ。


 ドルイディの生気を感じさせない表情を一瞥した後、もう一つの手から放出した『物操糸』の先を見る。


 そちらの糸にはとある石を括りつけておき、ペルチェの口の中に放り込んだ。


 避けられたかと思ったけど、避けられなくてよかった。さすがにこれはまあ予想できないだろうしね。



「な、なんですか……けほっ……これは……」



 ペルチェは十五秒だけもがき苦しんだ後、自身の口に入れられた物が『魔力吸収石』だということに気づいて吐き出す。


 すごいね。体の中に入ろうとしていくのと、尖っていて痛いから、素手で出すのは結構困難なんだけどね。アレ。


 でも、十五秒あれば大体魔力は吸収されてるはず。欠乏症で動けない上、動けても魔法は使えない。勝った。



「なんですかって聞いたか? 石だ」


「ぜぇ……いえ、私の口の中に入れた物のことではなく……というか、ただの石みたいな口振りで言いますが、これは魔力を吸収する石でしょう。それぐらいわかってます。私が聞きた……」



 喋っている途中で咳き込む。石の感覚が喉に残っているのか、魔力が増幅している感覚を少し味わったからか、どちらだろう。



「わかってるよ。糸のことだろう? それは『人形操技』の一種だ。禁術なんだが、貴方は知ってるんじゃないか?」


「ああ、なるほど……名前だけは聞いたことがあります。貴方はそれが使えると?」


「ああ」


「それなら、なんで今まで使わなかったのか聞いてもよろしいですか? 禁術だからでしょうか?」



 ……それもある。過去に悪質な人形師による事件でこの技が使われていたということで、この技は禁術指定を受けているから。


 だが、禁術指定を受けてもいざと言う時には使うつもりでいたんだ。数年前まではね。


 禁術指定されている以上、日常的に使うのは難しいということで段々使わなくなっていたからそんな技があること自体、実は忘れていたんだ。最後に使った日すら覚えてないよ、もう……



「……っ……それもそうだが、単純にこの技のことを忘れていた」


「……ははっ」



 険しい顔が唐突に和らいだから俺は驚いた。


 笑われるとは思ったが、顔に出すなんて思わないだろう。この執事の中の執事って感じのペルチェが……



「……笑ってしまい、申し訳ございません。何を言い出すかと思ったら、忘れていたとは……よかった。先程、その技を使わなかったのは渋っているわけではなく、単純に忘れていたからなのですね」



 ああ、そう思っていたわけね。なるほど。


 合点がいって、俺の表情も彼と同様に笑顔になった。



「……大切な人間を守るためなら禁術だろうと使ってみせる。それぐらいの覚悟もないような人間は絶対に姫様と付き合う資格などない。私はそう断言することができます」


「同意だ」



 大得意中の大得意だったのにな。これを使っていれば、俺はもう少しドルイディに及ぶ危険を減らせたかもしれないと思うと、ほんの少しだけへこまないこともない。いや、へこむ。



「……それで、私はその糸を初めて見たのですが、その糸は蜘蛛の糸とは違うのですか? 同じように見えますが……」


「ああ、同じだよ」


「……同じ、なのですか……?」



 蜘蛛の糸ごときがなんで禁術扱いされていたのかって顔してるな。まあ、同じとは言ったけど、蜘蛛の糸は糸でも奴らが普段から巣作りや獲物の捕食のために使うようなちゃちい糸とは違う。


 発達した魔物蜘蛛が使うようになった硬糸という特殊な硬い糸……それを蜘蛛人間だった初代の糸繰人形師が自身の命と魔力、そしてありったけの力を注ぎこんで改良させたと言われる糸と……その技、


 あ、糸繰人形ってのは糸を操作することによって動く人形のことだ。意志を持つ個体もそうじゃない個体もいるが、自律人形と違って自分の意思で動けないんだよ。可哀想だよな。


 ちなみに糸繰人形師ってのは単にそれを動かす側の人形師。あいつらが蔓延っていた時代には自律人形はまだいなかったよ。


 硬糸が元となっていることは確定だが、命を注ぎこんでいるっていうのは正直嘘じゃないかと思ってる。知らんが。



「……うーむ」



 そのことを説明すると、ペルチェの顔が曇る。「本当か……?」と疑っているようにも何かの技術に転用できないか考えているようにも見える。これがドルイディなら何となく思考を読めた気がするが。彼のことはまだまだドルイディほどは知らないからな。


 俺が言葉を待っていても、ペルチェは答えない。思案の時間だ。暇だな。そうしてる間にドルイディのこと戻してほしいんだが。


 もしくは戻し方教えてほしいんだが。普通に部品弄るだけで直るならそうするが、どうやって機能停止させたかわからない以上、変に触ってドルイディに何かあったら困るからな。



「……!?」



 じっと待っていたら、ペルチェが突然立ち上がる。欠乏症なのに、もう立ち上がれるとかすごいな。


 さすがと言える。敵意がこれでまだあったとなったら、俺はここからドルを連れて一目散に逃げていたよ。


 ラプゥペのことが心配だから、もちろん逃げる方向は発信機に従い、(ラプゥペ)がいる方向へとね。



「リモデルさん」


「……本当に驚く。突然名前呼びとはどういうことだ、ペルチェさん。また何か聞きたいことがあるのか?」



 答えるかどうかはわからないけど。メイドや執事を呼ぶための時間稼ぎとかあまりに無駄な質問とかだったらやめてほしい。



「……質問ではありません。ドルイディ様の戻し方をお教えします」


「一番望んでいた言葉が来たな。ありがとう。それは一体なんなんだ?」


「……」


「……? 早く話し……いでっ」



 俺がよく聞こえるよう顔を近づけたら、この執事……唐突に頭突きをしてきたんだが。どういうつもりだよ。


 そんな野生児みたいな攻撃を執事がしてくるかよ。普通。


 それに、今のは普通に答えてくれる流れだろ。



「ちょっとした仕返しです」


「子供か。案外、かわいいところもあるんだな」


「ははっ。私が教育しているメイドにも言われた気がしますね。肉体は老いても精神はまだまだ若々しいということでしょうか」


「自分で言うのかよ……」



 それで、一体なんなんだよ。教えてくれると思ったら、頭突きなんてされたから今の俺は物凄くイライラしているんだが。


 ドルイディをこいつが抱えていた時にもイライラはあった。でも、徐々に収まってきていたというのに……



「……時間経過で直ります。姫様、貴女もう動けるでしょう?」



 時間経過だと……? そんなことが……


 信じられないと思いながらドルイディのことを見ると、彼女は自分の体を自分で起こして元気そうな顔で……


 「ああ」と返事をしていた。は?



「えっ……えっ……?」



 なに、ドル……君、俺のことを……?


 俺は数十秒、困惑した後に軽く腹が立ってきた。



「リモデル、ごめんね?」


「だそうです」


「あ?」



 よし、決めた。ドルイディ、後で話しようか。


 この執事、ペルチェのことも許さないけど、俺は今、ドルのことも許してないんだよ。騙しやがって……



「ふふっ……」


「……くっ」



 騙されていた俺のことを笑ったとある姫型の自律人形を見ながら、俺はそう思うのだった。

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