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26話【ファルナーメ視点】潤い

 ドルイディが……僕の目の前にいる。


 ……いや、違うか。この目の前にいるのは僕の知る彼女ではない。違うんだ。纏う雰囲気も……心做しか顔も、ね。


 僕は取り敢えず、体力もなく何も出来ないので黙って彼女の顔をした人形(?)が口を開くのを座して待った。


 立っててもよかったが、辛かったし。



「……何をしている?」


「……いや、疲れたから座ってる」



 もしかして、怒りに繋がったのかな。まあ、こんなことを目の前でしたら、舐めてると受け取るのが普通か。


 別にこのまま舐めていることを伝えるために座っていてもいいんだけど、言いたいことがあるから立つ。



「……お前、何者だ?」


「……ドルイディ・ペンデンス・オトノマースという。この国の姫なのだが、知らないのかな?」


「……いいや、知ってい……」



 ……ちょっと待て。僕が知っている彼女と目の前の人形は別物だということは断言できる。


 でも、どちらが本物なのかはわからない。僕が好きになったあちらが複製という可能性もあるだろう。



「……どうした?」


「いや……」


「なに……言いたいことはわかってるよ。私がドルイディの複製だと言いたいのだろう? 貴方は」


「!?」


「別にそれで怒ったりはしない。その通りだし、それがバレたところで問題もないから。ねえ、ファル」



 なるほど。複製人形ってリモデルに聞いたことがあるけど、確か記憶を共有もできるらしいしね。


 さっきここにドルイディたちがやってきて、その時の記憶を得ている。だから、僕のことをわかったってところかな。



「多分、想像はついたと思うけど、私はさっきやってきた本物のドルイディによって、記憶などを一方的に移してもらい、貴方のことを名前以外も知っている。ここに来た目的とか」



 記憶を一方的に……? そこ、予想外だね。


 僕は複製人形に詳しいわけじゃないが、そんなことして本物に利があるとは思えない。


 何かが失敗したとかで、記憶を上手く移せなかったんじゃないかと僕は取り敢えず思っておくこととするよ。



「貴方たちの目的……それはラプゥペの捜索と救出。そして、マオルヴルフとその使い手(飼い主)である犯人を探してとっちめること……だろう? 合っているんじゃないか?」



 ……本当にその通りだよ。間違ってない。とっちめるという表現は気になったが、その通りだ。


 これで確実に僕と別れた後の本物のドルイディの記憶がこの偽物に移ったということが確定した。


 それが一方的だったのかまではわからないが。


 だが、頷くことも答えることもしないでおく。


 ……ここでそうすることは本物のドルイディやリモデルのためを考えたら良くないからな。



「……ねえ?」


「!?」



 唐突にドルイディから威圧感のような物を感じ取った僕は、五歩ほど後退した。冷や汗かいてるよ。


 そんな僕のことをドルイディ(?)は人形らしさを感じさせる無機質で……冷徹な表情で見つめてくる。


 そして、五歩ほど距離を詰め……一言。



「ああ、そうだ……喉、渇いているんじゃないか……?」


「……? よくわかったな」



 なんだ……殺したいんじゃないのか? 唐突に無表情になって、意味不明なこと言い出したら驚くんだが……


 戸惑いが多分、今の僕の表情には表れてるだろう。



「なら、あげよう。近くに来てくれ」



 笑顔になったよ。明らかに罠……わかりやすすぎる。


 応じるわけないだろ……


 そう思い、後退しようと足を持ち上げたら、『ドン』という音が彼女の右足が置かれた部分から聞こえる。


 驚きながらもそこに視線を移すと……彼女の右足が置かれていた床の一部に深い足跡があった。



「あんなにくっきりとしてる足跡、なかったよな……」



 威圧のためだったようで、それを僕に見せたら、すぐに魔法を使って床を修復していた。


 魔法などに関しては、本物より強い気もする。速度に関しては未知数だけど、あの感じだと速い気がしてきた。


 逃げた方が……まずい……かな?


 その考えている時間がまずかった。一気に距離を詰められてしまったから。速すぎないか? お前。


 

「口を開けてもらうよ」



 ドルイディ(?)は僕の口を無理やりに開くと、そこに手を突っ込んできた。


 口の中に入れられているため、見えないんだけど魔力を感じる。口の中に放つつもりなのはわかったが……


 抵抗などはできなかった。溜めてから、放つまでの時間がとてつもなく速かったから。


 それは激流となり、僕の体内を駆け巡っていく。



「ただ、魔力をぶち込むだけでもよかったが、私の予想通り喉が渇いていたみたいだからね。大サービスだ。喉が潤ったんじゃないだろうか? よかったね」



 苦しいなんてものじゃない。まるで、水の魔物によって全身を犯されているかのようだ。


 魔力過多どころか、水分過多でありとあらゆる穴から水が吹き出そうだと思いながら、僕は苦しみに喘ぐ。


 僕は確かにさっき喉を潤したいと思っていたけどさ。喉はともかく、喉以外も潤されることになるとは……



「ぉ……ぇぉっ……ぃっ」


「貴方はドルイディの記憶で見たが、中々見込みのある人間だ。でも、何度も言うが死んでもらう。邪魔だからね」



 少し会話をしたいためなのか、ドルイディ(?)は僕の内臓などの臓器の周りに結界を張った。



「ぅ……ぉ……」


「あ、もう死ぬかな……?」



 結界の一つが割られた気がする。苦しみが増したから、何となくそうだと思った。


 ……敢えてそうしたんだろうな。徐々に割って苦しませようという彼女の魂胆だろう。



「……ぁ……ぅぁ……ぇ」



 「悪魔め」と罵りたいが、きちんと発声はできず、彼女にはその内容は届かない。


 それでも、怒りを視線には乗せられる。彼女のことを精一杯に睨みつけた後、僕は目を閉じた。


 これぐらいじゃ、死ぬつもりはない。目が覚めてまた会えたなら、激流のお返しにとっておきの茶を馳走してやるから、待っているといいよ。偽物。



「……けほっ」



 ……水吐いた。

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