24話【ドルイディ視点】地……震……?
2024/01/02 6:40追記:このお話は地震が起こる一日前に投稿されていますが、偶然そうなっただけであり、悪意は一切ありません。
作者は被災地の方々の安寧を祈っています。
「……?」
自室から出て、数分ほど経った頃……唐突な悪寒に私は思わず、振り向いてしまった。
自室はもちろん、遥か彼方。振り向いたところで無人の廊下が目に入るのみ。私は何をしているのか。
リモデルもそこに疑問を抱いたのか、尋ねてくる。
「なんだ? 何か見つけたのか?」
「……いや」
「……それとも思い出したとか?」
「本当に大丈夫だよ。でも、ちょっと自室に戻りたいとは思ったかな。悪寒を感じたし……」
「悪寒? 悪い、じゃあ戻る?」
「あ……」
言った後に言うべきじゃなかったとは思った。衝動的なものだった。もう少し考えてくれ、私。
……彼の気苦労を増やしたくないとさっきまで考えていたのは何だったのかと自分自身に問いたいよ。
戻りたいという気持ちはある。でも、なんか戻ってはいけない気もしている。矛盾……だ。
「……いや、本当に大丈夫だ。ごめん、変なことを言って」
「本当に行きたいなら戻ってもいいんだぞ?」
優しい声音……心よりの心配が伝わってくる。
そして、決心がついた私は「うんうん」と力強く首を振って、それを否定した。戻らなくていい。
戻るにしても、それは後で一人でやることだ。今は……ただ、ラプゥペや攫った犯人&マオルヴルフの捜索に、注力していかないといけないのだから。
「……ああ、わかった」
「よかった」
それで話は終わった。
彼は歩いている途中で自分が真顔であることに気づいたのか、少し口角を上げてくれていた。
真顔だと、一緒にいる私が気にしてしまうと思ってのことなのだろうな。
別にそれぐらい心配いらないのだけど、気遣いは物凄く嬉しいと思っているよ。ありがとう、リモデル。
リモデルの顔を見ながら、廊下を進もうとしたところで唐突な異音が床下から聞こえた。
非常に小さい音だが、先程の複製人形の異音で耳が敏感になっているのか感じ取れたよ。
何なのかと床の方に耳を向けてみたら……
「うわっ!?」
揺れだった。ガタガタと音を立てて、明確に揺れている。長くはなかったけどね。
……ご、五秒くらいだった。
キョトンとしているリモデルに私は尋ねる。
「い、今の地震とんでもなかったね?」
「ああ……」
「……もしかして、今の地震で誰も起きてこないことに違和感を抱いているって感じかな……?」
「その通りだよ」
結構大きい地震だったのにも関わらず、近くの部屋からは誰一人出てくる気配がなかった。
ビッシリと部屋があるというのに、その全てから反応がないというのはおかしい。出てこないにしても、飛び起きる音くらいは聞こえてきても良いものだが……
「……」
耳が良くなっていると感じていたが、むしろ逆なのだろうか? 今の地震は幻覚だったとか……
リモデルも疲れているだろうしね。集団幻覚というものがある。それなのかもしれない。
……いや、それなら首飾りに『ERROR』表示が浮かび上がらないのはおかしいか。
幻覚が出た場合にも首飾りは『ERROR』と表示する。過去にもそういうことはあったからね。
先程、自室を出る前に軽く首飾りのチェックもしていたが、特に異常はなかった。
集団幻覚はない、だろうな。その線は消えた。
「幻覚はない気がしている。明確に証拠があるわけじゃないんだけどな。ドルはどう思う?」
「リモデルと同じでないと思ってるよ。でも、私は明確に幻覚じゃないと断言できるだけの証拠がある」
「お! 教えてくれないか?」
「いいよ。最初は私も幻覚の線を疑っていたが、それならこの首飾りが『ERROR』」と表示しないのはおかしいと思っているんだ。今まで一度もそういった状況で『ERROR』の表示を浮かべなかったことはなかったんでね」
その後、予想通りにリモデルが壊れているかの確認をしたのかどうか聞いてきた。
もちろん、それは済ませているとの回答をしたよ。
ついでに今度触らせてくれないかとも聞いてきたから、それに対しても答えた。「いいよ」とね。
「あ、そういえば……記憶を漁ってみたんだけど、この城には地下空間があるらしい。私の製作者による情報だ」
「へぇ。地下空間か。そこにマオルヴルフたちと国の人たちは隠れているかもな」
「国の人たち?」
「地震があったのに部屋から誰も出てこないのはそういうことかと思ってな」
「ああ、なるほど。でも、城にいる人間はあまりに多いし、強い。集めるのは普通に考えて無理だよ。だから、音や振動などが部屋の中に伝わらないようになっている……とかそんな感じじゃないかな?」
「……まあ、そうかもな」
そうだ。特別な一部の人形と認証済みの人間だけが通過可能という情報も同時に思い出したんだが……
犯人がマオルヴルフを使役しているのなら、正規の道を通らずとも穴を掘って行けばいい。
結界を張っているなどという情報は聞いていないしね。
犯人が王族だという可能性もあるけど、私が知っているあの方たちがそんなことをするとは思いたくない。
操られてそんなことをさせられているとも……思いたくないんだよね。
「じゃあ、早く地下に行こう」
「発信機がある場所と同じだろうか? 違うなら、まずくないか?」
「いや、地下という点は共通してると思うんだよ。発信機は下に行くべきだと伝えてくるから」
「そうか。それなら行こう。発信機を頼る?」
発信機があることは少し忘れかけてた。ほんの二分ほど前に思い出したから名前を出した。
あるなら、使わない理由などないからね。便利だし。
「いや、まずは地下に行こう。まだ、あいつは安全だと思うから」
「わかった」
「よし、じゃあ行きながら発信機とラプゥペの話でも……」
「……私もその話を横で聞かせていただいても、よろしいでしょうか。侵入者」
「!?」
その声はリモデルの後ろから聞こえてきた。ちょうどリモデルと重なっているのかすぐに視認できなかった。
リモデルが驚いて振り替える。そして、私は彼の右肩からひょいと顔を出して見る。
あ……やはり……
「……ペルチェか」
どうやら、追いつかれてしまっていたようだ。
自室でゆっくりしていたわけだし、その間に他の場所はあらかた探し終わってるかもな。ペルチェのことだから。
やはり、凄いよ。城内で一番の実力を持つ執事は。伊達じゃないと思うよ。
だからこそ、私は決して舐めることなく駆け出そうとしたのだが……
「ぐっ……」
あまりに豪快に走り出そうとしたため、転倒してしまった。
「大丈夫か!?」とリモデルが持ち上げようとしてくれたが、時は既に遅し。
私たちの道を塞ぐようにペルチェは前に回り込んでいた。あまりの速さに驚くよ。
「速すぎるんじゃないか、ペルチェ」
「こちらも貴女方を逃せないので」
私がジリジリと後退すると、リモデルが守るように私の前に立ち、私の体に自身の右手を添えてくれる。
ペルチェはそんな私たちを見て、眉をしかめながらにじり寄ってくる。
「それより、侵入者。私はお話を聞かせていただきたいのですよ。途中だったのでしょう?」
「悪いが、貴方には話せないな」
話したら、この男は追ってくるだろう。いや、私を捕まえて自室に戻して、リモデルのことを追い払う……または殺した後に一人でそこに向かうかもしれない。
何であれ、待っている未来はこちらにとって不利益しかない。教えることは絶対にないよ。
……あと、今思い出したが、ファルは一体どうなってしまったのだろう。
きっと追ってきてくれるとは思っていたが、遅い。迷っているならまだいいが……
そんな私の心を読んだわけではないんだろうけど、奇跡的にリモデルが質問をしてくれた。
「執事さん、ファルはどうなった?」
「ファル……?」
ペルチェは少し思い出すためか少しだけ髭の生えた顎に手を乗せて思案の姿勢になる。
そして、思い至ったのか少し笑顔になると……
「ああ、彼ですか。蔦を使ってきた彼ですよね」
と言ってきた。私がそれに首肯すると……最悪な一言がその口から飛び出してくる。
「……彼なら、始末しておきましたよ」
……それは彼が今まで吐いてきた言葉の中で一番傭兵らしく、そして冷徹な……そんな言葉であると感じた。
嘘の可能性は高い。
しかし、絶対に嘘であるとも言いきれないためか、私は内心で不安になってしまうのだった。
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