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23話【ドルイディ視点〜マルア視点】ドルイディ、その複製

 複製人形はリモデルをじっと見ながら、停止していた。目に光がないので、中々に怖い。


 もちろん、真顔なのも怖さに拍車をかけているな。


 リモデルはそこで「んっ……んっ」と軽く咳をして、調子を戻すと私の方を見て聞いてきた。



「……この子、意識ある?」



 最初の質問はまあ、それだよね。気になるよね。


 私はリモデルと被らないように「ごほん」と違うタイプの咳をして気持ちを切り替えると、説明を始める。



「意識は微妙にあると思うけど、それでもこちらの話はきちんと聞こえていないと思う。目の色的に多分、壊れた部分の自己修復をしていてね。集中力を有するから」


「へぇ。この目の色をしていたら、じゃあ自己修復をしているってことでいいんだな?」


「そうとは限らないけど、まあそう思っていいと思うよ」



 人間と同様に虚無感を覚えている時にも目からハイライトが失せるからね。断言はできない。


 でも、自己修復をしている時のような微細な異音が体内から聞こえてるからね。


 環境音にかき消されて聞こえにくくなってるけど、造り主だし、耳を澄ませていたから私はわかった。


 リモデルも途中から気づいたっぽいね。「お……」とそれらしきことを言ったし。



「こちらが動くと微妙に首が動くのはどういうことだ?」



 リモデルは複製人形の前で首を左右に動かしながら、そう言っていた。かわいいな。


 道化師型の人形でそんなことをやっている奴がいた気がする。昔、見たことがあるんだよ。


 (オトノマース)の生誕祭を街でやった時に見たんだ。


 ……それより、回答だな。



「……推測だが、リモデルは城外からやってきた未登録の人間だからね。警戒しているのかも」


「なるほど」


「こちらが脳内記憶を移しておけば、警戒されることもないんじゃないかな。どうする?」


「それなら、お願いするよ。君に似た人形に警戒されるのは嫌だしな」


「ありがとう。やらせてもらうね。ちなみに記憶を移すだけなら、自己修復中にも一応できる。あんまり、移す記憶が多すぎたら、更に壊れていくとは思うが」



 で、肝心の脳内記憶の移し方なのだが、物凄く簡単。額を合わせるだけでいいんだよ。


 意図せず、額がぶつかった時にも移ってしまうから割と気をつける必要はあるけどね。


 同じ情報が何度も頻繁に移ってきたら、混乱に繋がるんだ。人間も一度にたくさんのことを覚えられないものだろう? それと遜色はないと思ってる。


 私は隣のマルアに「棒立ちさせてすまない。そこの椅子に座って、待っててくれ」と言っておいた後に、ベッドの上にゆっくりと丁寧に上がっていった。


 マルアは素直なので、言う通りにしていたよ。ちょこんと座る姿は人形のようでかわいいね。



「そんなにゆっくりでなくとも、複製人形に影響はないんじゃないか? 俺の人形じゃないからわからんが」


「まあ、念の為だよ。リモデル」



 そこらの人形と比べて頑丈とはいえ、まだまだ。ちょっとした衝撃で更に壊れることは有り得る。


 例え一パーセントでも壊れる可能性があるのなら、気にしておきたいんだ。ラプゥペのこともあるから、ちょっと急ぎたいというのもわかるんだけどね。



「……」


「……ごめん、ダメだったか?」


「いや、大丈夫。今の沈黙は君の複製人形に見惚れていただけだ。多少違いはあれど、やはり君を元にしているわけだから美しいんだよ。見惚れるのはおかしくない」



 嬉しい言葉だが、何となくわかった。


 ……それは、嘘であると。


 きっと、複製人形に何かを感じたのだろう。悪寒、違和感、危機感……何なのかはわからないが。



「……見惚れるのはいいけど、警戒されたくないんでしょ? 記憶を移すから少し横に移動してくれ」


「あ、ああ、すまない」



 リモデルが移動すると、私は複製人形の前髪を左手で持ち上げ、その後に自分の前髪を右手で持ち上げる。


 ……準備はできた。


 複製人形にも一応許可は取りたいものだが、どうやら言語機能が故障してるのか、話しかけには応じてくれなかった。何かを話そうと軽く口を開けたりはしていたが。


 私が額をつけると、複製人形の体温と共に記憶が……



「……あれ?」



 どういうことだろうか。複製人形の記憶が移ってこない。


 額はきちんとつけている。今までもこのやり方でやってきたから間違いということはない。


 原因が不明なため、困惑しか生まれない。



「どうした?」


「……いや、なんでもない」



 私が不安な顔をしていると、リモデルの気苦労がまた増えてしまうかもしれない。


 今は私の問題である複製人形のことを優先させているわけでもあるし……これ以上、彼に借りを作るようなことはしたくない。罪悪感も戻ってきてしまうよ。


 彼の恋人として、それはいけない気がする。


 そのため、私は笑顔になって言う。



「本当になんでもないんだ! ちょっと記憶が移るのが遅いと思ってね。それだけなんだ」



 これなら、嘘ではない。私の記憶の方は一方的に彼女に移っていたが、それが完了するのは遅かったからね。


 移っている時は私の額の真ん中に熱が伝わってくるからね。それでわかるんだよ。


 完了すると、その熱が蝋燭の火が鎮火されるかのようにシュッと消えていく。それが遅かったために、額が熱くてちょっと離したくなってしまったよね。


 離したら、中途半端に記憶が移る上にリモデルや待機してるマルアにも変な目で見られるから耐えたけど。



「じゃ、じゃあ……部屋を出ようか」



 私は未だ表情を真顔から変えないリモデルにバレているんじゃないかとヒヤヒヤしながら、ベッドを降りた。






*****






 わたしはマルアです。


 最初、ドルイディ様とリモデルさんが現れた時には驚きと緊張が体の中で渦巻いていたんですけど、二人の楽しげなやり取りや驚いたりしてかわいい姿を見ていたら、そんなものどこかに吹き飛んだ気がします。


 それから……ドルイディ様の複製人形に不具合があったりはしたのですが、無事直り……


 その複製人形を睡眠(スリープ)状態にした後にお二人は外に出ていかれました。


 わたしも行きたいとドルイディ様たちに言ったのですが、危ないかもしれないと言われてしまいます。


 メイドという立場である以上、ここで折れてしまってはダメだ、と思ったのですが……


 二人から絶対にダメだと何度も言われた上、危険性を大まかに伝えてもらったことで……



「結局、折れちゃったんですよね……」



 ペルチェ様がここにいたら、叱られていたかも。やはり、まだまだわたしは……


 ……いや、ここでめげちゃダメですよね。せめて、複製人形のドルイディ様とこの部屋をお守りしないと。


 それだって、大事なはずですっ!!


 守れたなら、後でペルチェ様に再会できた時……



「ドルイディ様たちがここに来たことは伝えずに、この部屋には侵入者は来ませんでした。きちんと守り抜きましたよ……と言いましょう。言うんです……っ」



 べ、別に嘘じゃないですよね……っ? 守れたのなら。守れたのなら、ですけど……


 わたしは扉をきちんと閉めておくと、そこから視線を部屋の中へと戻していく。


 すると……



「え? 複製人形のドルイディ様……?」



 何故かわたしから数歩離れたベッドの横に複製人形のドルイディ様が胡乱気な瞳をして立っていたんです。


 どういうことなのかわかりません。殺気に近しいものも感じており、一介のメイドでしかないわたしはその場でボーッと硬直していることしかできませんでした。


 そんなボーッとするわたしに複製人形のドルイディ様は近づいてきました。


 本物のドルイディ様を目にした時にも緊張感はあります。


 ……ですが、今感じている緊張感はそれとは別種のもののように思います。


 生じた震えを抑えるためにわたしは自身の体を抱えながら、扉の方へと後退していきました。



「……っ!?」



 そんなわたしを逃がさないためなのか、複製人形のドルイディ様は高速でわたしに近づいていきます。


 そして、眼前まで迫ったところで扉を開けさせないためか扉に両手をついてきました。



「な、何を……っ」



 しゃ、しゃがんで逃げようとすると、今度は足でそれを阻止しようとしてきます。逃げ場はないようです……


 ……ふ、不覚にもときめいていたでしょうね。直前に恐怖を覚えていなければ、その仕草は美しいですから。


 どうしようもないために、顔を背けて目をつぶるわたしに複製人形のドルイディ様は言います。



「逃がさない」



 それが耳に届いて二秒ほどの硬直の後、複製人形のドルイディ様はわたしを室内に放り投げました。


 ら、乱暴すぎます……


 それだけなら、まだしもその後に彼女はわたしに馬乗りになってきました。


 何をするのかと思ったら、手布を取り出してそれをわたしの口に詰め込み始めました。


 ほ、本当に……この複製人形に何が……



「た、たす……」



 意識がもたない……


 手放しそうになる意識の中、彼女の顔を一瞬だけ視界に捉えることに成功しました。


 

「……ふっ」



 意地悪く笑う似合わないその笑顔に……わたしはショックを受けてしまいました。


 それが……憧れていたお姫様、ドルイディ様でないと、わかっていたのに。


 その後、顔に振り下ろされた無慈悲な踵により、わたしの意識は完全に絶たれることとなるのでした。

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