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22話【ドルイディ視点】触らせて……

「マルア、何があったんだい?」



 私はマルアに一応何があったのか聞いてみた。


 表情筋のせいとは言いきれないからね。


 ……表情筋を弄りながらではあるけれど。だって、表情筋が悪い可能性だってまだあるし。



「……えっと、それが」



 彼女は口を開いた。ちょっと迷う様子を見せたから話したくないようなことだったのかと思ったが……


 どうやら、違うようで安心である。


 その後、彼女から詳しく話を……聞ければよかったんだが、どうやら部屋に入ったことは覚えていても、そこで何でボーッとしていたのかは覚えてないらしい。


 覚えてないのはその一部だけというわけではないけれど、だからといってそこまでたくさんの記憶を失ってしまったわけではないと彼女は話してくれた。


 話を聞く限りでは、失った記憶というのはこの一日丸ごとのことではないようなので、ほんの数時間か数分ほどの記憶が抜け落ちたと考えていいと思われる。


 ちなみに先程怖がっていたのは私とリモデルの表情筋とかではなく、夜な上に部屋が少し暗い状態だったから、リモデルのシルエットが少し怖く感じられたらしい。


 私の方を見たのは気のせいだったようだね。私の気持ちが戻るのと引き換えにリモデルが少し落ち込んでいたよ。



「……」



 ……マルアの記憶がこうしてなくなったのは、誰かに攻撃させられたからなのか。罠にかかっただけなのか。知りたい。私たちも同じことをされたら嫌だし。


 私は何か情報を得られそうな物を見つけるために、部屋の中の物色を開始したよ。リモデルと一緒に。


 何も証拠になる物は残してないかもしれない。でも、探さなかったらもしあった時に残念だからね。



「……はぁっ」



 私もリモデルも必死だった。部屋の隅々まで探し回ってみたさ。


 決して手を抜いていたわけではないのだが、それでも何か見つかることはなかった。


 だけど、マルアに近づこうとした辺りで微かだけど何かの香りに気づくことが出来た。多分、リモデルも……



「ドル」


「やっぱり。さすが、リモデル」



 本当にそうだった。気づいていた。私はリモデルと通じあっていた気がして頬を赤らめた……


 五秒だけね。そんな状況ではないので首を振ることですぐに意識を戻すと、鼻をひくつかせて更に嗅ぐ。


 微かだったけど、やはり勘違いではない。この香りは外部から持ち込まれたものだ。マルアのものではない。



「……」



 そうしてリモデルと二人、嗅ぎ続けてみたのだが……どこにも香りの発生源は見当たらなかった。


 見つけられたのは複製人形だけだ。


 だが、安堵はできないな。



「まさか、こんなところにいるとは……」



 リモデルは二度驚いたみたいだ。言っていた。


 姫なんだから、想像してはいたけど、天蓋ベッドがあるということ。そして、こんなところにいたということ。



「うん、ベッドに寝かされているとは」


「驚きだな」


「自分の意思でこんなことをしないと思うんだけど……」



 そう言って、私は……



「……え!? いえ、私が寝かせたんじゃ……いや、あれ寝かせて……でも、えと……その……」



 マルアに聞こうとしたら、動揺した。


 別に寝かせたのがマルアだったとしても非難するつもりはないんだが……


 私はため息をつく。



「誰が寝かせたのでもいいよ。私が聞きたいのは、貴女がこの複製人形を最後に見たのはいつかということ」


「いつなのか、ですか……?」


「あ、覚えてないならいいよ。記憶が一部ないんだったよね。できるなら、で構わないとも」



 マルアは「わ、わかりました」と言うと、胸を抑えて何度か息を吐いている。


 呼吸を整えるためにやっているのだろう。ペルチェの教えだろうか? もしくはメイドの先輩の教えか?



「……ふぅー」



 整ってきた。十秒後ぐらいにね。


 マルアはそして、私のことを見ると真剣な表情で言う。



「私とペルチェ様は城にいたドルイディ様が複製人形だったということに気づいて、本物のドルイディ様を見つけるために一度街に行ってるんです」



 事前に息を整えたことが影響しているのか、一切どもることも滑舌が悪くなることもない。


 非常に聞きやすかった。



「それで?」


「それが最後です。本物のドルイディ様を探すために部屋を出る時に確認したのが、最後なんですよ」



 そうか……うん。



「本当ですよ?」


「いや、疑ってないよ」



 マルアによると、どうやら一度彼女は複製人形を天蓋ベッドに寝かせていたらしいのだが……


 最初に寝かせた時と姿勢も少し異なる上に着ている衣服も違うとのことだ。


 後者ならまだわかるにしても、前者は記憶力がないとわからない。


 彼女は割と、記憶力があるんだな。



「……貴女とペルチェでない第三者がここに入った可能性は高い。その第三者によって仕掛けられた香水か何かの罠で貴女は記憶を喪失させられ、その上で貴女は気絶することになった……と考えているが、どうかな?」


「……えっと、それならなんでドルイディ様と……えっと、リモデルさんは記憶を喪失してないんですか?」


「単純に香りが時間経過により、弱まっていたからだろう。現に入ってからしばらくは気づかなかったわけだし」


「そうですか。それなら、二つ目の質問です。えっと、なんでその香水とやらは見つからないのでしょうか……? 私が眠った後に犯人が取りに来た、とか……?」


「それも、まあそれもありえるけど……リモデル」


「ああ、ドル。少しだけど、土属性の魔力が滞留している場所があるように思う。マオルヴルフがこの部屋にやってきて、その香水を持っていったんだろうな。犯人は上手く隠したつもりかもしれないが、バレてるよ」



 その魔力滞留に関しては私も見抜いていた。多分、リモデルの方が早かったとは思うけれどもね。


 土属性は他と違って見抜きにくいものだが、土塊人形と今日一日で何度か会っていたこともあって、多少いつもより感じ取りやすくなっているんだろうね。



「魔力が滞留している部分を掘り返してみたいところだけど……ここは城だから抵抗がある。あと……」


「……?」


「ドル、ちょっと君の複製人形のことを一度近くで見ておきたいから、そこら辺は後回しにしたい。いいかな?」


「あ、ああ。いいよ」



 ちょっと反応が遅れたのは予想外だったから。


 まさか、彼がそのようなことを言い出すとは思わなかった。複製人形は何度も見たことあるんじゃないのかな?


 ……いや、私の複製人形だからだ。私の複製人形だから、一度見ておきたいんだ。そうだと思う。


 確証はないけれど、恋人としての勘という奴ではないかと思う。当たっていてほしいな。


 私がそうやって色々と思考を巡らせているうちにリモデルはベッドの上に上がっていた。



「……」



 靴は当然脱いでいるよ。


 あと、一応ということで天蓋付きベッドが汚れないように体に纏わせていた結界を少し厚くしている。


 マルアがそれを見て「きちんとされてる方なんですね……」と感嘆の声を洩らしていたよ。


 リモデルは複製人形の前まで行くと、私たちのことを一度確認してきた。


 心配してくれたんだろうな。ありがたい。



「ほう……外見が少し違うんだな」


「えっ……?」



 どこが? 製作者の私がわかっていないんだが。どこが違うというのだろうか。彼は。


 私は少しだけ『失敗したのかも……』、もしくは『どこか壊れていたのかも……』と心配になってきた。


 だが、その不安はすぐに打ち砕かれる。



「いや、眉の太さと長さが違うし……」



 眉の太さと長さで? この男は私の眉の太さと長さを記憶していたということか。ちょっとすごいな。


 彼の記憶力は人形である私の記憶力より高いのではないかと思えてきた……少し。



「触ってみたけど、触り心地も違うな。本物と違って質感が普通の自律人形寄りだ」



 リモデルは複製人形の私の頬を軽く触りながら言う。



「あ、ごめん。触ってよかったか?」


「大丈夫。むしろ、触ってほしかったよ」



 複製人形の肌の質感に関してはわかっていた。寄せてもよかったんだけど、面倒だったし費用もかかってしまうからね。敢えてやらなかったんだ。


 寄せなくても触られなければ、質感の違いなどわからないだろうし、別にね。


 彼は私の方に視線を移すと、『もう少し色々と触ってもいいかな? 服の中など女性にとって触られたくないような部分までは触らないから』と口パクで伝えてきた。


 そんな長いのなら、口パクではなくきちんと口で伝えてほしい。私のような読唇術もできる高性能な人形でなければ、わからなかったんじゃないだろうか。


 それに私が首肯で許可を出すと、彼は複製人形の方へと視線を戻したのだが……



「……なっ」



 リモデルが視線を戻した時に、複製人形はその目を見開いて彼のことを真顔で見つめていたのだった。


 真顔で真っ直ぐと見つめてくるものだから、恥ずかしいと思ったようで頬を赤らめるリモデル……


 私とマルアはそれに一瞬だけかわいいという思いを抱き、クスリとだけ笑ってしまった。

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