21話【ドルイディ視点】城内を歩く
侵入から十分。リモデルへの城の紹介も兼ねて色々な所に行ったが城内は静寂に包まれていると感じた。
夜だから、当たり前と思われがちだし、リモデルもそう言っていたのだが、姫である私がいなくなっているのだからもう少し人がいてもいいのではないかと感じた。
それとも、ペルチェは私がいなくなっていることを誰にも知らせていないのだろうか。
……知らせていないな。あの執事のことだ。城内を大騒ぎさせてしまうようなことを言うわけがない、か。
「……まあ、いたらいたで気苦労が増えるから、別にいいのだけれども」
私はマオルヴルフやその使い手、もしくは探している人形に関する手がかりがないか探していて……
リモデルは後方を見て、ペルチェに警戒している。
口に出してはいないが、後ろを見ているのは彼のことだからファルが来た時に気づくためでもあるだろうな。
「リモデル……百二十歩先の曲がり角を右に曲がった後、二十五歩ほど進めば、私の部屋がある」
「……ん? ああ。それで?」
「そこに行きたいのだが、いいかな?」
何となく行きたいというわけじゃない。一応ちゃんと理由はあるともさ。
「なんでだ?」
「私の部屋には外出した時にいなくなったことがバレないよう、代わりの複製人形が置いてあるんだけど……」
「へぇ……」
リモデルは頷いてニヤリと笑った。やはり、人形のことだから食いつくよね。予想通り。
まあ、食いついてほしいから言ったわけじゃないけど。今は別に人形自慢とかできる状況じゃないし。
「その人形が外出中にスイッチが切られている可能性があるんだよ」
「あの執事が君の不在に気づいているんだから、切られているのは確定と考えていいんじゃないか?」
「……いや、城内を混乱させないために敢えて切っていない可能性はあるだろう?」
「……まあ、そうか。そうだな」
「……切られているだけなら、別にいいんだけど、ここにマオルヴルフやその使い手などが侵入しているとするなら、壊されている可能性もある。それが怖いんだ」
私はもう一度彼女を作れるだけの技術はある。私の製作者と同じだけの知能を私は持っているのだからな。
製作者の彼女が天才なら、私だってそうだ。自分で言うと、ダサいかもしれないけどね。
……だとしても、やはり壊されるのはいい気分がしない。
それにもう一度作れるとしても同じ彼女にはならない。部品不足の問題があるから。
彼女は自身の代わりにさせるということで希少な金属を使った部品などを多数使用しているんだ。
もちろん、製作過程においてそれらは使用しなくても問題はないんだけど、なんか使ってみたくてね。自身の複製ということで作っている途中で愛着が湧いてきて、いい素材を使ってやりたいという思いが生まれてきたのだよ。
私の製作者も私を作る時に同じ気持ちだったのかな。私も希少な素材をいくつか使われているんだ。
「簡単に作り直せるものじゃないだけに壊されたら落ち込む」
「だろうな。それは俺も同じ人形師だから、わかるよ」
「ありがとう。わかってくれて」
本当にわかったのかは彼の脳内を読めてないのでわからないが、彼と少なからず触れ合ってきたからか、わかってくれているような気がしているんだ。
人形らしからぬって感じだよね。
「俺も攫われたラプゥペに対して、同じことを思っている。でも、近いわけだし優先しようか」
「あ、そうだよね。ラプゥペのことも……」
いなくなったリモデルの人形……ラプゥペを探すことが本目的なはずだからね。
我ながら、身勝手なお願いではあるよね。
「失念していたわけじゃないんだ。優先度を間違えてしまっていた。申し訳ない。後でいいよ」
「いや、本当に構わないさ」
「……いいのかい? 別行動とかの方が……」
「君はそこに行きたいんだろう? 俺は君を絶対に守るために傍を離れたくないんだ。別行動なんて論外だね」
守ってくれるという気持ちはありがたいのだけれど、途端に生じた罪悪感が判断を遅らせる。
どうすべきか。本当に悪いお願いをしてしまったようだ。失態にも程がある。
『ERROR』の表示が首飾りに出ているわけでもないのに、これなのだから人間に近づきすぎたが故……
弊害……だな。はぁ。
「……ありがとう。じゃあ、一緒に行ってくれるか?」
「何度も聞かなくても答えは同じだ」
「……」
私は俯きつつ、部屋への道を歩んでいく。
……一応、十歩ごとにマオルヴルフや何かしらの危険が及んでくる可能性を考えて顔を上げていた。
……危機感はあるんだ。
部屋の前に着くと、私は扉の左側の隙間……リモデルは右側の隙間から室内を覗いてみた。
扉は右側に開くような作りになっているので、リモデルがそちらにいるのは彼が何かあった際などにすぐ入れるようにするためである。彼自身の提案だ。
それで、静寂によって何もいないことがリモデルの手振りによってわかると、私は落胆しながら彼と共に扉を開けた。
もちろん、何らかの罠の発生と誰かが待ち構えていることを予想し、扉はまずは開けるだけ。
その上、私もリモデルも魔法の結界を張っている。光魔法の上級結界なので簡単には破れないよ?
「……本当に大丈夫そうだな?」
「うん。何もいなかったのはよかった」
「でも、本来なら出迎えるはずの複製人形が出てこないから、完全に安心はできないんだよな?」
内心予想ありがとう。大正解だ。
読心術でも会得したのかと思えるほどだ。私の内心と貴方の言動の一致には驚かざるを得ない。
彼が複製人形についても詳しいというのもあるんだけど、それ以上に私のことをわかってくれてると言うことでもあるんだろう。嬉しさで罪悪感が弱くなったよ。
私が顔を上げると……リモデルが少しだけ扉を開かせていた。ほんの少しだけである。
彼が部屋の中を見た瞬間に私も彼の横からひょっこりと顔を出して中を覗いてみる。
「……」
いた、女性の人間が。
扉の前だったためにもう少し近ければ、開けた瞬間に頭を強打していたであろう。
倒れたこと自体も何故それが扉の前だったのかも気になるが、それ以上になんでこの子が私の部屋に?
こちらに背を向けていたため、気づいていないようだ。
リモデルと私はこっそり扉を閉めておく。彼女が出ていくのを待っておこうかと思ったのだ。
「……彼女の名前は?」
とリモデルが聞いてきた。
彼女に好意があるということなのだとしたら、ちょっと嫌だな。恋人として……
いや、ないと思うけどね。単純に興味が湧いた……もしくは彼女に関する情報が何らかの役に立つとの考えから生じた質問だという可能性の方が高いとは思う。
「……」
「……大丈夫。惚れたとかじゃない。何となく知りたいと思ったから聞いただけだよ」
「そ、そうか。彼女はマルアだ」
マルア。メイドの名前だ。最近入ってきたばかりの新人メイドではあったが、名前は記憶している。
何故なら、あのペルチェが一目置いて可愛がっていたからね。連れてきたのも彼だというけど……
どんな少女なのだろうね。挨拶ぐらいしかしたことがないためにどんな少女なのかわからないよ。
「……見た感じ、メイドだということはわかるが、君は彼女のことをどれだけ知っているのかな?」
「いや、そんなに。挨拶ぐらいしかしたことがないんだ」
「……そうか。でも、それならなんで部屋に入っていたんだろうな」
「それは私も気になるよ。あ、でも……彼女はペルチェが可愛がっていたからペルチェに着いていったのかも」
私がそう言うと、ペルチェは私をじっと睨む。
「知っているんじゃないか。最初に言ってくれ。ペルチェってさっきの執事だろ? あいつに可愛がられているのなら、彼女も実力者だったりするんだろ?」
「うん、ごめんね」
「いいけどな」
「それで、実力があることを心配しているようだけど、それは安心していいと思うよ。大したことない」
「そうなのか?」
そう思うのはわかるけど、彼女は本当に大して強くないよ。給仕に関してもまだまだドジばかりだし……
今のところは見込みがある部分はない。だけど、個人的に私は彼女に好感を持ってはいるし、今後もメイドとして頑張ってもらいたいと思っているよ。
彼女とお話したり、給仕してもらったり……別にすぐとは言わないから、いつかやってもらいたいね。
「マルアは実力とかはないけど、かわいい子ではあ……」
彼女のことを褒めようと口を開いた時にマルアがまさかの扉を開いてきた。
ゆっくりと扉が開いていき、瞼をゴシゴシとこすっているマルアの姿が完全に見える。
マルアは十秒ほど眠そうな顔でこちらを見つめていたが、近くに私たちがいることに気づくと、自身の両頬に両手を当てて目を見開き、大声で……
「キャー!!」
と叫ぶのだった。
驚きもあるが、彼女の表情からは恐怖の色をより濃く感じ取ることが出来た。
私もリモデルも、そんなに怖い顔ではないと思うのだが……表情筋に何らかの異常があったのかな。
人間に寄せるために表情筋などが感情の変化などによって無意識に上がることや下がることがあるのだ。
私は表情筋のせいかもと落ち込んで、マルアのことを見ながら、顔を弄ってみるのだった。
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