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49話(番外編)【ドルイディ視点】花のブローチ

今回で4章終わりです。

 リモデルと出会ったあの日、私は花のブローチを貰った。


 とてもお洒落で良い香りのするブローチで気に入っていたんだが、実は地下空間を出たあたりからなくなっていてね。未だに見つかってないんだよ。


 たまーに思い出しては買おうかと思うんだけど、どこの店で見かけるブローチもあれとは似つかなくて。


 どうしようかと……思うんだよね。


 お洒落なデザインや香りには惹かれている。だが、それだけなら他のブローチでも良い。


 私がこうしてたまに思い出すほど、あのブローチを気に入っているのはそれがリモデルのプレゼントだから。


 初めてくれたプレゼントを失くす恋人……ねぇ。普通なら……きっと、愛想を尽かされるものだろう。


 尽かさないでいてくれるのは、それこそリモデルが優しい人だからだ。本当に感謝してる。



「……決めた。最近、忙しくて余裕なかったが、今は余裕があるし……久しぶりに地下空間に行こう」



 リモデルは……まだ眠っているね。


 黙って行ってしまうとしよう。絶対に心配するからね。


 彼のことだから私を尊重して行くことを許可してくれるだろうが、絶対に自分も行くと言い出す。


 確実だ。危険な可能性がある場所に行く時は、彼は絶対に自分も着いていくと言って聞かない。


 それは彼の反省……誓いが原因。


 ……その誓いをすることになった地下空間に行こうとしてるわけだから、着いていくだけじゃなく、いつも以上に私のことを心配してベッタリとくっついてくるだろう、絶対にね。これも断言できること。


 嬉しいよ、そんなことしてくれたら。


 でも、彼は昨日、修行やらで凄い疲れているんだ。今日はゆっくり寝かせてあげて……


 起きた時にビックリさせてあげるんだ。


 もちろん、ブローチを発見したことも言わなきゃいけなくなると思うが、その際には間違っても地下空間で見つけてきた、なんてことは言わず……城の庭園に落ちていたなどと嘘をつくつもりでいるよ。


 肉体疲労もだが、心労もなるべくならかけさせたくない。彼が私を大事に扱ってくれる分、私も彼のことを大事に扱っていく。心に決めたことだ。



「……」



 そーっと、ベッドから抜け出し、掛け布団を音もなく元に戻し、足音も立てず……扉に向かう。


 扉も同様に音も立てず開けると、私は床に地面をつかず、糸を使って家の入口を目指す。


 この方が速いし、音も出ないから。


 辿り着くのに分もかからなかった。


 たまたま、居間にいたイディドルとファルと目が合うが、忙しいので会話はしない。


 まだ、四時なんだけどな……こんな時間に二人は何してるんだろうね。ちょっと気になる。


 ちゃんと見てなくて何をしていたのか全く分からなかった。少しは速度落とせば良かった。



「……まあ、でも、もう遅いね」



 そのまま、外に出ると私は走った。


 外に出ても近ければ、彼の冥土耳は私の走りに気づくかもしれない。


 それ故、家が見えなくなるぐらいまでの距離に到達するまでは無音走りを心掛けていた。


 この時点で肉体疲労も心労も少しある。


 危険な地下空間で力尽きてはいけない。


 私はたまたま目についた店で水分補給のための水を購入すると、それを喉に流し込んだ。



「ぷはぁっ……」



 生き返る。渇いた喉に潤いが。


 疲れた身体に元気とやる気が。


 助かった。何らかの効果でも付与されていたのかな。良いものを購入できて良かった。


 水を飲み切ると、私はその容器を近くのゴミ箱に捨て、早歩き。


 もう城は近いし、無駄に疲れを増やしたくないから、早歩きなんだ。


 歩きでもいいけど、出来るだけ早く行きたいという思いが私に早歩きという行動をさせている。


 ま、でも、これぐらいなら問題ないよ。


 私はこれでも、人形で……色々と改造をした結果、前より自分の疲労には敏感なんだから。



「……うん」



 城に入ることができ、そのまま特に問題も起きず、無事に地下空間の前へと到達成功。


 後は中に入るだけ……なんだけど……


 やっぱり、怖い。何か感じるのだ。


 気配ではない。これは多分、魔力……


 微量だが、それっぽいものが感じられる。マオルヴルフだったらいいが、どうだろうな。


 そうであってほしいと思いつつ、私は地下空間へと足を踏み入れていく。


 今までももちろん自分の周りに結界は張っていたが、入るにあたって分厚くしている。


 気も一切抜いていない。大丈夫だ。


 今ならきっと、奇襲にも対応できる。



「あぶっ……!?」



 奇襲じゃない。目の前に穴があった。


 結界は私の身体に沿わせているから、普通に気づかず進んでいたら、落ちていたと思う。


 良かった。左右ばかり見るのも良くない。


 上下もちゃんと見て、警戒すべきだね。


 私は念の為、その場で停止して上下左右を念入りに確認すると、更に歩みを進めていく。


 前に見た時と構造に変化はない。


 たまーに罠が作動するが、どれもすぐに避けられるか結界に傷すらつかない弱いものばかり。


 それ故に私は少しだけ安心した。


 ……少しだけなのは、奥の方に行くにつれて罠が強くなっていく可能性を危惧してのことだ。



「それにしても、罠だけじゃなく、ちゃんとブローチも探してるんだけど、全く見つからないな」



 眼輪筋に魔力を集中させて凝視する。


 こうして見たいものを見ようとするやり方。疲れるからやりたくないが、今がやり時……


 ……そう思って、さっきからずっとやってるんだけど、全く見つかる気配がないよ。


 そろそろ目が疲れて、開けるのが辛くなってきたし……見つかってほしいなぁ。見つかって……



「……ひっ!?」



 私の顔面に向かってとんでもない大きさの岩石が投擲される。その大きさ、私の顔の三倍。


 結界がある故に無傷だが、結界に少し傷がついてしまうほどの威力だった。や、ヤバい……!


 逃げよう……逃げないとヤバいよ。


 きっと、今の速度で何十個とか投げられたら、さすがにこの結界も一部分だけど割れてしまう。


 そうなったら、大変だ。


 迷ってる時間が命取り。ここは迷わず、ただ逃げに徹するべき。私は学んでるんだ。


 今までにたくさん危険を味わってね。



「……ない……っ……ないぃ……!」



 岩石が投擲された部分を集中的に見つつも、たまに上下左右に視線を向けて探しているが……


 ……全く……全く……っ……見つからない。


 もう、早く出たいのだから……お願いだから……見つかってくれ。大切な物なんだから。


 強い思いのまま、右に視線を向けた瞬間、私の顔面の真横を岩石が通過していき……


 私は思わず、その場で硬直してしまった。


 その瞬間に……後ろから岩石。


 耐えられた。まだ……大丈夫……大丈夫。


 立ち上がって、まだ探していない方向に走り出す。



「はぁっ……はぁっ……」



 疲れが限界に近い。目だけじゃない。足も。


 この感じ、もうないのかな。誰かが持ち去った……もしくは破壊でもされたのかな?


 ここにいるマオルヴルフたちは親切だし、彼らが取っておいてくれたりしないものかな。


 そう思っていたところ、たまたま足元からマオルヴルフが。


 ちょうどい……いや、ちょうどよくはないけど、良かった。


 そのマオルヴルフが、ブローチを咥えていたから。


 マオルヴルフはすぐにそれが私の物だとわかったのか、私に向かって渡しに来てくれた。


 いい子だ。


 撫でようと思って手を伸ばしたところ……


 私の横を岩石が通り、マオルヴルフへ当たりそうに。


 しつこく岩石を投げてくる者にさすがに我慢できなくなった私はその岩石を破壊後……



「いい加減、姿を現せっ! 誰だ!!」



 そう吠えながら、岩石が飛んできた……つまり、犯人がいると思われる方に駆ける。


 全速力……それにより、着いた。


 そこにいたのは……まさかの土塊人形。



「なんで、こんなところに……」



 でも、まあ土塊人形か。


 人間や亜人、自律人形などといった知性のある者ではなく、土塊人形ならば、問題はない。


 私は大人しくしてもらうために、手の部分だけ一瞬結界を解除して、そこから強い魔法を放つ。


 上級闇属性魔法……『強闇球』。それも特大。


 見事に命中したことで、土塊人形は崩壊。一撃で壊れるとはね。


 強度がないな。ファルのものと比べて。


 まあ、彼の凄い土塊人形と比べちゃダメか。



「はぁっ……まあ、とにかく、良かった良かっ……」



 ブローチを受け取っていないし、あのマオルヴルフに対して感謝の言葉を伝えるのもまだ。


 それ故にマオルヴルフがいた方に向かおうとしたが、そんな時に私に攻撃する者がいた。


 ……どうやら、まだ余力があったようだ。


 それは今倒れた土塊人形。


 結界があるから大丈夫だが、不味いな。かなりの威力だったから先程より結界にダメージが。


 冷や汗をかきはじめたところ……


 突如、生じた光と共に助けがやってくる。



「リ、リモデル……!」


「ドルイディ、よく頑張ったな!」



 やってきたリモデルはこちらを見てウインクをすると、目にも止まらぬ速さで駆け抜け……


 土塊人形に魔力のこもった拳を叩き込んだ。


 前のリモデルならありえない……壁をぶち壊して隣の空間にまで吹っ飛ぶほどの威力。


 そこから、彼の努力を知ることができた。


 それと……私のために来てくれたことの喜びのおかげもあって、私の目には水が……これは涙か。


 それを拭いながら、リモデルに抱きつくと……彼は私のことをお姫様抱っこしてくれた。


 その状態でマオルヴルフのところまで行くと、ブローチを受け取る。


 受け取った後に地面に降り立つと、リモデルと一緒にお礼の言葉を言いつつ頭を下げた。



「……それにしても、リモデル。なんでここに?」


「実は起きていたんだ。それで、こっそり着いてきた。迷惑かとも思ったが、こうして助けられたことを考えると正解だったかもな。本当に良かった」



 感極まって泣きながら、その後……私とリモデルは地下空間から脱出していった。


 脱出する時は入った時よりスムーズだった。


 二人だったからだね。


 ああ、なんかちょっとした冒険に感じる。



「……リモデル。折角くれたブローチ、失くしちゃってごめん。見つけられたから、今度からつけるね」


「謝ることないさ。あの時は俺も一緒にいたんだ。紛失に気づけなかった俺も悪い」


「ふっ、そうかな?」


「ドル、一つ言わせてくれ。俺のくれたプレゼントを死に物狂いで探そうとしてくれてありがとう」


「私こそ、助けに来てくれて、ありがとう」



 私たちは笑顔でそうやってお礼を言い合うと、城の中を手を繋ぎながら散歩していった。


 ちなみにそれから、三十分後に地下に土塊人形がいた原因がプララとラッシュのせいとわかる。


 どうやら、専門以外の人形も創ろうと試しに創った土塊人形が暴走しちゃったみたいだね。


 本来なら怒ることだけど、誰があんなことをしたのか……気になっていたモヤモヤが解決した。


 それが嬉しかったし、責めたりはしなかった。


 その後、私はお詫びということでプララとラッシュに身体の整備をしてもらうと、帰った。

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*****


ストックが遂に尽きたので、しばらく更新はお休みします。

他の作品の執筆が終わって余裕が出来たら、再開していこうと考えています。

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