2話【ドルイディ視点】自己紹介&お宅訪問
「それは俺が前に住んでいた東方の国で流行っていたモッチという食べ物。不思議な食べ物だよな」
私は逃げている道中で弾力のあって歯にくっつくような白い食べ物をいただいた。
歯にくっつくだけでなく、飲み込みにくいのも欠点だが、それが少ししか気にならないほど美味しい。
「もっと食べるか?」
「美味しい……すごい美味しい。覚えておきます」
「喜んでくれてよかった。それでもう一……」
「美味しいですけど、今はもういいです。それより、告白の返事をいただけると」
本当に美味しいと思っているよ。
だが、告白のことを有耶無耶にされてはたまらないからね。後回しにさせてもらう。
「……食べないか。まあ、いい。それで、告白の返事だっけ?」
「はい」
「断る。それより、君って人形だよね?」
!? バレていたのか……
人形であることはきちんと隠していたつもりだし、見た目においても他の人形と比べて人間に近いはず。
発汗量もまばたきの回数も……人間と同じはずだ。肌の質感も人間に程近いと思っていたのだが……
「何故、人形だとわかったのですか?」
「……香りさ。人形は独特な香りがするものなんだよ。それを隠せていなかった」
「独特な香り?」
「その感じだと香りがすることを知らなかった? ってことは盲点だったってわけじゃないんだね」
「はい。普通に知りませんでした」
嗅覚は優れていると思っていたのだが、そんなことはなかったのだな。
きちんと改良していかないと、
もちろん、香りもきちんと消す……いや、人間と同じような香りにしていこうと思っている。
「貴方、何者ですか?」
「……人形師だよ、この街に来るって色々な人が言ってたじゃん。なんか間違われてたけどさ。君、そのことを知らないのに告白をし……」
「ちょっと待ってください。家がここにあるんですよね?」
モッチを渡してきた時にここに家があると明言していた。私はきちんと記憶しているのだ。
「そうだよ? 俺の家は転移式でね。三ヶ月の間に魔力を溜め続ければ、好きな場所に転移して行けるのさ」
「ほう……なるほど」
「ここに家を転移させたのは昨夜あたりだったりする。知り合いが持っていた敷地なんだよ。ここ。無断で誰かの土地に家を転移させたわけじゃないからね」
「国は越えられないんですか?」
「まあ、ね。不法入国になるし、別にそれで良くない? 大体近くの森とかに転移させているよ」
「なるほど……わかりました」
……聞くことがもうないな。この男の顔でも見よう。
本当に良い顔なのだ。先程の男なんかより、よっぽど美しいじゃないか。
爽やかさを感じさせる透き通った水色の髪、長い水色の眉に引き締まった体……どれを取っても良い。
私基準では『イケメン』と呼ばれる部類の男だ。先程の男より、この男の方が格段に良い。
「……話が逸れたけど、俺は本当に人形師だよ。断言してもいいさ。カコイ神に誓おう」
カコイ神か……
……伝説の神であるとされるカコイ神の名に誓うということなら、まあ信じてみよう。取り敢えずは。
もう少し、確証に至る何かは欲しいが、それは多分この男の家に行けば手に入るんじゃないかと私は考えている。わざわざここで質問せずともいいだろう。
「ショックだよ、あんなのが俺だと思われるなんてさ。ショックで夜しか眠れなさそうだ」
「……」
「……そこ、ツッコむところなんだけどなぁ」
よくわからないが、この男があの男に対して苛立ちを覚えるのは理解できないこともない。あんな人形など一度も作ったことがなさそうな男が人形師を名乗っているのだからな。
実際、作ったことはないだろうな。さっき手を見たが、人形師の手とは思えないほど、綺麗だった。
人形師を名乗りたいのなら、もう少しはマメがあってもいいんじゃないかと私は思っているよ。
「あ、そういえば名前を教えてなかったね。教え……」
自己紹介をしようとしたのはすぐにわかった。
……なので、私はその口に蓋をした。自身の人差し指で。
「……そう不用意に自己紹介するものじゃない」
「……元々、バレていい名前なんだよ。あの偽モンが現れなきゃ大々的にバラしてたんだから」
男は私の人差し指に触れると、それを自身の唇から離して……
……私の鼻に触れさせる。この行為に何の意味があるのかはわからないが、振り払う理由もない。
そのまま静止し、意図を話し出すのを待った。
話し出す根拠はないが……それならば、こちらから聞くまでだ。聞いたら答えるような人間だ。この男はきっと。
「……鼻、精巧な」
「……それで終わりでしょうか?」
何か意図を話し出す……もしくは具体的な感想を言うと思っていた。
随分と端的かつ個性的な言葉だな。
「ああ、そこらの自律人形とは違う。本当に精巧だ。ますます君のことを見てみたくなった」
褒めているつもりなのはわかる。どう見ても。
発汗量、まばたきの回数……そういった生理的な部分を注視していたことによる理解ではあるが。
結婚をして、もっとお互いのことを知ったら、そういう部分を見るまでもなく相手が褒めているのかどうか判断がつくようになるのだろうか……?
……この男に着いていかなければ、始まらないな。
「……それより、早く名前を言わせてほしい」
「わかりました。構いません。これから恋人になるのに本当の名前を知らないというのは悲しいですし」
「……恋人になると決めてないだろう」
「名前を言うのは構わないのですが、それなら先に私に名前を言わせてください。先に言うだけなので、終わったらどうぞ」
「まあいいよ。どうぞ」
男はもう投げやり。私の話し方が気に入らないのかもしれない。
気分が昂るとどうも失礼な話し方になるようだ。そこら辺もこれから直していきたいと考える。
「私はドルイディ・ペンデンス・オトノマースと申します。気軽にドルと呼んでいただければ、光栄です」
「ドル、ね。わかった。俺はリモデル。リモデル・スキィアクロウだ。なんか気になるし、告白に関しては受けることにしよう。人形と付き合いたいという願望は昔からあったしな。これからはタメ口でいいぞ?」
「そうか。それは助かるね、リモデル」
失礼な話し方を直そうとしていたのだが、その必要はどうやらなくなってしまったようだ。このように言っているのだからね。
ということは、さっきのは話し方が気に入らなかったわけじゃないのかもしれない。
表情から相手の内心を読み取るというのはきっとこれから付き合っていく上でも重要なはず。
私はリモデルと握手をすると、彼と共にその家へと向かった。もちろん、向かう最中で内装などは教えてもらっている。
「ここだが、入れるか?」
「……本当に、奇妙な家だね。いや、家と言っていいのか?」
物凄く大きい屋敷……その上にポツンと寄生生物のように丸いドームがくっついている。
下の屋敷はどうやら物置きで、上のドームのような部分がリモデルの家らしいよ。
中は特殊構造らしく、外見から抱く印象の数十倍の広さはあるようだ。
数十倍って……もう少し具体的な数字で言ってもらった方が助かるが、まあ想像はつくから良しとする。
何故にそうしているのかと聞いたら、森などに転移させた時に目立たないようにするため、あと広い場所が好きだが、自分の家は小さい方が好きという矛盾しているように聞こえる理由でそうしているらしい。
「……俺が先に入るな?」
「……どうぞ?」
そう返すと、リモデルは家の戸をノックする。
すると、中で何か音が聞こえてきた。微小な音ではあったが、私の耳は何とか聞き取ることができた。
普通の人間や人形なら聞き取れない可能性は高いね。
リモデルに聞くと、あれは誰かが出した音ではなく、家の中にあったドアを開けるためのボタンが作動した音らしい。随分と変な音だったが、そうなのか………
しばらくすると、上のドーム(リモデルの家)のドアと思しき部分がパカリと開き、中から紐が落ちてきた。
リモデルはそれを掴んである程度登ると、私向かってウインク&手招きをしてきた。
ウインクの方は意図がわからないが、手招きは普通にこちらに来いという意図で使われているように思う。
私は辺りに誰もいないことを確認してから、その後を追うように紐に手をかけるのだった。
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