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38話【ドッキー視点】『怪刀・乱魔』《1》

「……あれ、そういえば……ドッキー消えてない?」



 第二王女様のドルイディ様が、そんなことを言いますが……ワタシは……ここにいますよ。


 ワタシは今、怪盗によって連れ去られています。


 体が簡単に解体できるようになっているため、折りたたまれて怪盗の体に貼り付けられているんです。


 このマントには物を隠蔽する効果があるようで激しく動いても、ワタシのことはバレませんでした。


 別に……バレたいとは思いませんが。


 ワタシは暴走をして、皆さんに迷惑をかけてしまったので……全く合わせる顔がないのです。



「道化師型自律人形くん。君の名前を教えてくれる? もちろん……私に対して、ね」



 怪盗は会場から脱出した後、廊下を駆け抜けながら、ワタシにそんなことを尋ねてきました。



「えっと……」


「なんで、そんなこと知りたいかって? 単純なことさ。君に……興味があるからだ。人形」


「……そう、ですか」



 あの『怪盗』さんが自分なんかに興味を持ってくださることは光栄ですけど……


 かなーり、怖いですね。何をするつもりなのでしょう。背筋がゾクリとしてしまいます。


 悩みそうになりましたが、怪盗がワタシに向けてきた視線……その視線にちょっぴり威圧感があって、このままだと怒られるかもしれない。


 そう思ったので、話すことを決めます。


 名前ぐらい、話しても大丈夫ですよね。



「ワタシの名前はドッキーと言います。皆さんにあんなに迷惑をかけた自分のことを助けてくださったことにはホントーに心の底から感謝しております」


「いやいや、気にしなくていい。ドッキー。仲良くしよう。ずっと、となると無理だが」



 この人は……人形も盗む対象なんですよね……?



「もしかして、ワタシのことも盗むつもりで?」


「え? いや? 違うよ。だって、予告状に君のことを盗むなんて書いてなかったでしょ」


「……」


「君のことを盗むつもりは微塵もないよ。全くない。私が君を助けたのは君が人形だからさ」


「に、人形だから……?」


「私は個人的に人形のことをとても大切に思っている。それ故にあのまま暴れて、投獄、もしくは壊されたら、悲しいから、助けたいと思っただけ」


「……思ったより……優しい方なのですね」


「そんなことは全く。でも、嬉しいね。私のことを今までそのように褒めてくれる人形はあまり、いなかったのでね。とても嬉しく思う。ありがとう」



 礼を言われるようなことではありません。


 ……むしろ、私こそが礼を言うべきなんです。


 私は彼にお礼と謝罪を告げると、道化らしく……感謝を芸によって伝えることに決めました。


 といっても、最初に暴れた時にほとんどの道具を奪……預られてしまったので、体内に収納していた道具のみを使用した芸になってしまうのですけどね。



「芸をお見せします。まだまだ未熟ではありますが、精一杯アナタを楽しませられるよう頑張ります」


「おおー! 良き……! 楽しみだよ。私はこう見えても君のような道化の見せてくれる芸が好きでね。人形の道化の芸は見たことないし、どのような芸を見せてくれるか非常に楽しみだ。見せてくれたまえ」



 思ったより、楽しみにしてくれている。


 道化として……芸を見るのを心待ちにしてくれるほど、嬉しいことなどありませんよ。


 ワタシに笑う資格などないのでしょうが、自然に頬が緩んでいました。


 でも、止めません……


 だって、道化は他者を笑わせる者。笑わせる側が笑ってないなんて……そんなのありえない。


 ……製作者によって作られた時に……その考えは頭の中にずっとあります。


 片時だって、忘れたことはないのです。



「……ここに取り出したるは……一本の棒……!」


「おお!」


「この棒をよくご覧ください」



 でも、この方……さっき、ワタシが暴走していた時の記憶が確かならかなり手品が得意ですよね。


 ワタシなんかの芸がホントに……


 やる直前だというのに、自信が減っていきます。


 う、うう……


 ワタシは頬を叩いて、自分のそんな気持ちを吹っ飛ばします。


 普通の人形より、変に人間に近いと……自分で言いますが、感情を制御するのがホントに難しい。


 道化師として上に行くために自身を改造して、得意になっていた気がしていたんですけどね、



「いい……いいですね……!」



 ……ワタシは棒を振り、そこから花を出す。



「……一本だけ?」


「いいえ。一本だと地味ですね。それなら……」


「おお、二本目! それでそれで?」


「三本、四本……そーら、一気にポポポポン!」



 ちょっと調子に乗ってたくさん花を出してしまいました。ワタシでも数は覚えていません。



「いくつでしょーう?」


「……二十五本……? どうだろう」


「ピンポーン!」



 楽しい。嬉しい。


 ワタシは多分、今……いつものように笑えている。


 人形がやっちゃいけないことをした。道化師としても、最低と言えるような行為をしました。


 だから、それに対する贖罪はするし、反省もする。その時には感情も表情もそれ相応に変える。


 だけど、今はそれを忘れて手品を……!



「あ、すまない。そろそろ着くから……」


「は、はい……」



 昂っていた気持ちが一瞬で元通りに。


 ちょ、ちょっとタイミングが……



「悪いね。じゃ、ここが目的の場所だ。なんていう場所なのかわかるかな? 当ててみてよ」


「えっと、城の一室だとは思うのですが、ここは一体……?」


「考えて。私は……答えは言わないよ。君が絶対わからないと降参するまで……答えは話しません」


「……う、うーん。えっと……わからないです。絶対」


「二つ目のパーティ会場だよ! もしもの時のために二つ用意してたんだとか。あれ、君……呼ばれてたのにそこら辺……もしかして、知らされてない?」


「あ、はい」


「……それなら、酷い質問しちゃったね。申し訳ございません。何か……やってほしいこととかありますか?」



 な、なんで突然に敬語に……?


 やってほしいこと……そのようなことは一切ない。


 ワタシは色々な方から笑顔を奪った酷い人形……だから、他者のためにやりたい……そう思うことはたくさんあるけど、やってほしいことなどというのは……



「一切ない……えっと……かも……ですね」


「……そうか。じゃあ、その君の体に起きている異変を突き止めて直すことと……今から君に降りかかるであろう火の粉を振り払ってあげることにするよ」


「降りかかる……火の粉……?」


「そう。ま、待ってればわかるさ」



 言われたので怖がりつつも、ワタシはただじっと待ってみることにしました。


 何もせずにじっと待つのは苦手ですね。


 手か足……どこかしらを動かしたくなります。


 それから五分後、怪盗がニヤリと笑った時に立てなくなるほどに地面が揺れていきます。


 まあ、ワタシは体幹が強いので倒れないのですが。


 怪盗も……そのようですね。



「……なんで突然そのような残念そうな顔を?」


「いやぁ、倒れそうになったら私が助けてあげようと思ったので少し残念だな……と」


「あ、そ、そうですか……」



 何なのだろう、この方は……


 ワタシに対して恋愛感じ……!?


 床の揺れが強くなった直後、地面から先程見たものより遥かに大きく、こちらに敵意を剥き出しにしたマオルヴルフ……およそ、五十体が地中から顔を出します。


 その大きさ……通常のモグラの二十倍……通常のモグラより大きい魔物(マオルヴルフ)の十倍。


 それが五十体もいる状況、とんでもないです。


 背筋がゾクリとしていると、今度はその空いた穴から人間がたくさん……?


 どなたも黒ずくめ……人形狩りがこの国に来て悪さを働いているという話は聞いてましたが……


 もしかして……彼らがその……


 ワタシは様々な方に迷惑をかけた分、その黒ずくめの方たちに挑もうとしたのですが……



「……待って。ここは私がやる」



 怪盗に……止められてしまいました。



「そんな……ワタシがここはやるべ……」


「いいや。君は気にしなくていいんだ。全然」



 怪盗はそう言うと、どこからか剣を……


 あんなものどこに……いや、あれはよく見ると……糸!?


 糸で剣を……作ったのですか。



「これは『糸刀(しとう)』。剣ではなく、刀。今からこれで私は五分以内に全てのマオルヴルフと人形狩りを屠ります……目ぇかっぽじって見てて」


「……目ぇ」


「……こういう状況はアガり……ますね」



 怪盗は『糸刀』を構えると、駆け出します。


 その場に起きる爆風。それのせいで見逃しましたが、剣……ではなく、刀の振る音。


 そして、斬られた音……


 それにより、次々とマオルヴルフが彼によって狩られているということがよくわかりました。

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