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35話【ドルイディ視点】パーティの始まり

 リモデル……戻ってきてくれた。


 そのことがとてつもなく嬉しかったが、もう祭は始まっている時間。


 喜びに浸る余裕はない。


 早歩きで会場に向かいつつ、その道中でこっそり心の中で喜んでおく。それが良い。


 かなりの多人数だったため、早足でも少し時間がかかったが、何とか五分ほどで到着。


 扉の前で息を整え、手布で汗を拭うと、私はみんなの人数を確認した後、扉を開けた。


 かなりの人数と気配。防音の扉からでも、少し洩れる声からたくさんいることはわかっていたが……


 それにしても、めちゃくちゃたくさんいるね。


 準備というか、会場の修復の時にも少なからずいたが、今はその何倍もいるよ。


 数えるか……一……十……百……凄いな……!


 今、目視で数えてみたところ、二百はいる。


 そして、そんな人数を収容していても、狭さを感じさせない広大な会場も凄いと思う。



「……凄いな。これだけいて、圧迫感がない。ドル、数えたんだろう? 一体何人いたんだ?」


「二百人はいたよ。とんでもないね」


「二百人かぁ。そりゃ、とんでもないよ」



 私たちは小声でそう言って笑った後、進む。


 この時に少し周りの声が聞こえたんだけど、どうやらお父様が来るのが遅れているようで、まだパーティは始まっていなかったらしい。


 あと、五分後で来るらしいけど……


 ……大丈夫かな? お父様の容態は。



「……お」



 その心配は……すぐに消える。


 五分後に元気な様子のお父様が扉を開けて、登場してきたからだ。


 表情に陰りが見えるとか……頬が痩せこけているとか……そういうことも一切ない。


 良かったよ。体調が悪かったとかじゃなくて、執務が忙しくて遅れたとか?


 それとも、魔力充填してたとかそっち?


 私が原因について考えていたら、お父様が話し出す。



「皆、よくぞ集まってくれた。実は言いたいことがたくさんあったのだが、開始が遅れてしまったのでな。無くすとしよう。それでは、楽しんでくれたまえ」



 確かに時間が予定より大分遅くなってしまったからね。


 十六時開始だったはずなのに……


 なんと……もう十七時だからね。一時間もずれこんだんだから、こうなるのも当然かな。


 それから、食事が用意されるはずなんだけど、なんか異常が起きているのか……持って来れないようだ。


 お父様が慌てた様子で手元の棒を押している。


 なるほど。あの棒で食事を召喚でもするつもりだったのかな。


 これは……普通に手で持ってくるしかないかもしれないね。どこに食事があるのか知らないけど。 


 その後、お父様は別の仕掛けを発動させようとしたみたいだけど、それも上手くいかないみたい。


 あの棒に……十中八九、何か異常が起きているんだと思うけど……これはどうしようかな。


 私が……直しに行くかな。


 だって、こんな状況で何もしなかったら空気が悪……



「……?」



 歩き出そうとしたところで、突然に机の上が光り出した。五十ぐらいはある全ての机がだ。


 机の上には光っているから見えにくいが、魔法陣のようなものが浮かび上がっている。


 もしかして、ようやく食事が……?



「……ぉ」



 そんな期待を打ち破り、机からは突如……モグラが召喚される。それも一匹ではない。


 全て……ではないが、九割の机の上にいる。


 それは……先程、私たちがエフィジィの部屋に行くのを阻止してきたモグラとは別個体に見えるが……


 どれも、凶暴化しており、こちらに溢れんばかりの敵意を向けている。


 それ故、その場で立ち止まることなどせず、召喚された瞬間にその場の人たちに襲いかかっていた。


 呆気に取られて、一秒だけ立ち止まってしまった私だが、そんな時にリモデルは動いていた。


 いや、リモデルだけじゃないな。ヒグリやレグフィ、ギュフィアお兄様だって迅速に動いた。


 しかし、数があまりに多すぎる故に全てに対処はできず、私やエフィジィ、ディエルドが少し遅れつつも、全力でモグラの気絶に尽力して数分……


 悲鳴は未だ止まず、モグラは暴れていた。



「……っ……くっ」



 そんな時に、更に悲鳴を生むようなことが起きる。


 ……人形狩り二人の……登場だ。


 なんっでこんな時に……!


 いや、こんな時だからこそ、奴らは来たんだろうな。


 たった二人でも……この混乱した状況なら人形を壊しまくることができるだろうからね。


 なんて奴らだ。というか、どうやって脱しゅ……


 ……それについて考えを巡らそうとしてすぐ、私はあのいけ好かない怪盗のことを思い出す。


 奴だ。奴がきっと解放した……


 奴のせいで……こんな状況が生まれたとするなら、到底許せるものではないな。


 ……うん。許してなるものか。


 発見することができたなら、貴方のことも絶対に捕まえ、牢獄にぶち込ませてやるからな。



「……っ……っっ!」



 私は怒りのまま、右手の糸で掴んだモグラと左手の糸で掴んだモグラを衝突させていく。


 こういうやり方なら一気に二匹気絶させられる。


 思い切りぶつけているから、きっと長時間気絶してくれるはずだ。


 あの地下のモグラ……マオルヴルフなら、きっと耐久力は高い。これぐらいじゃ、死なないよね。


 これが奴らの本当の意思でやっているのなら、殺したいという気にもなってくる。


 だが、私は……モグラは混乱させられている。もしくは操られていると思っているんだ。


 ただ、誰かに利用されているだけなのに、殺してしまうというのは……あまりに可哀想。


 それ故に死なないことを祈ってる。ぶつけた直後に、どのモグラたちに対しても……ね。



「ドルイディ!」


「え?」



 気づいたら、私にモグラが大群で向かってきていた。


 なんで……そう思いかけたが、そうだ。私は……自律人形。人形狩りの……狩猟対象だ。


 モグラを解放したのは多分怪盗だけど、モグラに命令をしているのは多分、人形狩りの方。


 命令して、私たちを殺させたいんだ。


 向かってくるモグラたち……正面だけならいいが、私は囲まれてしまっていて……


 結界があるのにも関わらず、恐怖してしまう。


 後退りしつつも、糸を作ろうとするが、強度に自信がない。


 迷いつつも投げようとするが、その手は止められる。


 リモデルが、止めてきたんだよ。



「え?」


「こいつらは俺が相手する。そこらのモグラより、耐久力ありそうだし、今の君じゃ倒すの難しいだろ」


「い、いや……大丈夫」


「お願いだ。隙間があるから、すぐにそこから出て、他のモグラや奴らに襲われそうになっているパーティ参加者の救助をしてくれ。ドルイディ……!」


「ご、ごめん。そうだよね。わかった……」



 こういう時のために、お父様やギュフィアお兄様たちは大量に回復薬を用意してたみたい。


 それをお父様たちから受け取りに行かないとね。


 ……リモデルは私の横を通りすぎると、モグラを糸で一纏めにして作ったと思われる巨大な槌を右手に持って、周りのモグラ目掛けて、一振りする。


 モグラたちは避けようとするが、間に合うことはなく……全てのモグラが気絶した。


 ……周りに誰もいなくて良かった。


 かなり大きい槌だから、誰かが他にいたら、普通に巻き込みれてしまっていた可能性が高い。


 ホッとしたけど、すぐに止める。


 近くにいたお兄様が私を見つけると、すぐに何をしたいか察して回復薬を手渡してくれた。



「ありがとう! ギュフィアお兄様!」


「どういたしまして。みんなを早く助けよう」


「うん……!」



 まだまだモグラはたくさんいるし……人形狩りの二人も暴れまくっている。


 足を止めることは許されない。


 モグラの対処&襲われている人や襲われそうになっている人の救助&回復をなるべく早く……


 確実に……こなしていかないと。


 パーティを再開させるためにも、私たちが……絶対に人形狩りとモグラの暴挙を止めてみせる。


 そう胸に誓いながら、私は駆けた。

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