33話【ヒグリ視点】再び作ればいい《1》
おれたちは一心不乱に部屋に向けて走った。
しかし、そんな時に限ってその道を塞ぐ者……いや、魔物がおれたちの前に現れてきたっすね。
……モグラ……いや、魔物だからマオルヴルフと呼ぶべきっすかね。そいつらの総数は二十。
三桁ならまだしも、二桁なら、脅威じゃないっす。五人いるけど、五人に戦力を分ける必要なんてない。おれが……こんな魔物共、全部狩るっす。
「……っっす!!」
モグラは大群で一気に攻めてくるかと思ったら、意外に二匹しか出てこなかったっすね。
挟撃を仕掛けてきますが、おれは二匹とも……力強くはたきおとす。
殺すつもりがあるといっても、肉塊にまでしたいわけじゃない。
気絶させるだけでもいい。だって、そういう光景を嫌う人間が少なからずここにはいるから。
「良かった……っす」
はたきおとしたモグラはすぐに動きを止めたっす。
たまーに目がある特殊なモグラもいるとは聞くっすけど、こいつは普通の魔物のモグラのようで目がない。故に気絶がパッと見わかりにくいっすね。
おれが念の為に触ってみると、手足が軽く動く。多分生きてるっすね。良し。
それにしても、ちょっとかわいいっすね。ドルイディさんが飼っている理由が少しわかる。
かわいいから……っすね。なるほどぉ。
勉強になるっすね。うんうん。
おれが頷いた瞬間に、次のモグラ……
はたきおとされないように地下から来ているようっすけど、床が動いてるんでバレバレっす。
おれは床の動きと音で出る場所を予測すると……モグラが一瞬顔を出した瞬間に全力で手のひらを叩きつける。
何もさせないっすよ。二匹ともね。
「必殺!! 『モグラ叩き』っすぅぅうっ!」
やってきた二匹はどちらもおれが思い切り叩いたことで気絶。
達成感によって喜ぶおれの背後から今度は四匹のモグラが地中からやってきたけど、敵じゃない。
四肢を全て使い、先の二匹と同じく地中から少しでも顔を出した瞬間に落としたっす。
「うおっ……! マジっすか……!?」
おれが落とした瞬間を狙ってか、いつの間にか近づいていたモグラの大群十体が襲いかかってくる。
一気に十体……本気だ。それに、モグラのくせに頭がいい。マオルヴルフだから、普通のモグラより頭いいのは当たり前っすけど、これはマオルヴルフの中でも異常なほどの頭の良さなんじゃないっすか……?
思わず、襲われて噛みつかれてしまったおれっすけど、すぐに払い落として退避。
リモデルさんが糸と土属性の魔力で小槌を作ってくれたので、それで応戦していくとするっす。
奴らが本気なら、おれも本気。
一匹逃しましたが、残りの九匹が地面に潜る前におれは小槌で叩いて、仕留めました。
「っっす! これで残り三匹っすね……!」
時間がたくさんあるわけじゃない。
おれは奴らが来るのを待つことなどせず、全力で走ると……奴ら三匹を一気に小槌で叩いた。
地面に向けてではなく、空中へ。
「あ」
思わず、窓を割っちゃったっす。
はははー……やっちゃったっす。地面に……叩き落とせば良かった。気分が良くて……思わずって感じだった。マジの不覚ぅ〜……不覚すぎるっすぅ〜。
おれは軽く涙を流しつつ、ドルイディさんたちを見る。
だが、いらっしゃる王族の人形さん方の中に一人も怒っている人はおらず、笑顔のまま、窓に近寄り、落ちた破片を布で包んでくれていたっす。
「やっちゃったね。まあ、でも悪気はないし、わたしたちのために頑張ってやってくれたわけだもん。わたしやドルイディお姉様、ディエルドお兄様が後で誠心誠意謝っておくから、ヒグリくんは気にしないでね」
「そういうことだ。私たちが謝る故、あまり気にしなくていい。破片を集めたら、すぐ行こう」
「あ、ありがとっす。でも、後で余裕があったらちゃんと自分も謝ります。罪悪感を残したくない!」
「……わかった。じゃあ、後で一緒に謝ろうね」
手を差し出してくれるエフィジィさんの手を取ると、おれたちは目的であるエフィジィさんの部屋に向かう。
多分、今の戦闘……十分もかかってないはずっすよね。窓の破片処理を含めても……
きっと……きっと……十五分ぐらい。
服がなくなっているのなら、もう一度作ることになってしまうはず。
それなら、早く向かわないといけない。作るのは物凄く時間がかかってしまうことっすから。
走り出そうとしたところで、空手の方である左手をリモデルさんが掴んで引き留めてきた。
「待ってくれ。俺が糸でこのモグラたちを捕らえ、何故人形狩りのことを手伝ったのか……そして、服をどこに処分したのか……聞き出していくから」
「……! 人じゃなくて、モグラ……マオルヴルフ相手にも出来るんすか!? 凄すぎる……!」
「まあね。凄いだろう?」
ウインクするリモデルさん、その姿はかっこいい。
大人しく見ていると、リモデルさんはモグラのことを糸で軽く刺激して起こすと……
その体を糸で巻き、操り人形にする。
操り人形になったモグラはリモデルさんの耳元で何かをボソボソと伝えてきた。
こっちにも伝えてほしいんすけど……
もしかして、恥ずかしがり屋なんすかね。戦いの時はあんなに積極的だったというのに。
「……みんな、どうやら服はここから遥かに離れた丘の茂みに捨ててきたらしいんだ」
「なっ……そうなんすか……?」
「ああ。普通に行ったら届かない。だが、俺なら全速力で走れば、見つけた上でパーティまでに間に合う可能性がある。みんなは服を作っていてくれ」
「……い、いや……服を作るのなら、わざわざ取りに行く必要はないって。やめた方が……」
ドルイディさん……おれも同意見っす。
「……みんなが一生懸命作った服を……そのまま丘に捨てっぱなしにしていろと言うのか? 俺にはそんなことはできない。絶対にパーティまでには戻る。だから、みんなはそれまでの間、服を作ってくれ」
「……わかった。でも、絶対……絶対戻ってよ」
「何度も言わせるな、ドルイディ。俺はちゃんと『絶対』と言った。それは何が何でも戻るつもりということだ。心配しないで待っていてくれ」
頭をポンポンと撫でてくれながら、ウインク……
おれは一体何を見せられてんすかね。こんなところで、こんな状況で……仲良しカップルのイチャイチャを眼前で見せられることになるとは……
会場にて修復を行っていた時もモグラ共と戦っていた時にも予想すらしなかったっすよ。
ため息をつきつつも、おれは皆さん……エフィジィさんたちに向かって言い放っていく。
「皆さん、それじゃあ、自分らは早く部屋に向かうっす。パーティが始まるまでの時間はもう残り僅か。とっとと戻って、服を作りあげてしまうっす」
おれはエフィジィさんの手を掴んだ後、ドルイディさんとディエルドさんに向かってそう言う。
残りは……多分、一時間はある。
……いや、話していた時間もあるから、一時間も残っていないかもしれないっすね。
とにかく、早く向かうに越したことはない。
そう思って一心不乱に向かって数秒……
見えたのは部屋の扉……
……の前に佇む三人の人形だったっす。
「手伝いましょう。服を作るのでしょう?」
ギュフィアさん、ルドフィアさん……そして……
「やるッスよ。ヒグリと……姉さんたち」
レグ師匠だったっす。
やる気……出てきたっすねぇ!
おれはエフィジィさんから一旦手を離すと、その手で御三方の手を握った後……
空手で扉の取っ手を引っ張ったっす。
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